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推し活!沼かと思ったら三途の川  作者: やまみー
目が合ったら三途の川
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2/3

目が合ったら川?

あれから1ヶ月、めぐみの体に変化はなかった。

時折あの誓約書と作業着の男を思い出す事はある。だが、あの日のことは夢だったんだろう、めぐみはそう思い始めていた。






「え!推しのイベントの会場キャパ小さくない!?」

麻美が会場案内を見ながらテンションを上げる。


2人は会場近くのカフェにいた。


「そうなの?」

めぐみは不思議そうに麻美を見つめる。


「だって代々木第二体育館だよ!普段アリーナなのに!」

麻美は興奮気味に会場の説明をしはじめた。


「そう?じゃあラッキーだね」

そっけなく答えたつもりが思ってよりも声が弾んでしまったことに、恥ずかしくなりめぐみはコーヒーを一気に飲み干す。


「本当、当たって良かったねー!

しかも2列目なんだって?」

麻美が揶揄うように笑う。


「大丈夫かな?緊張してきた。」


めぐみは冷たくなった指先をさする。

実は楽しみで仕方ない。

2日前から緊張でろくに眠れていなかった。


目の下にはコンシーラーでも隠しきれなかったクマが出来ている。


今日はルルがダンスフェスのスペシャルゲストとして参加するのだ。


いつもは14人という大所帯でのダンスなので、余程場所がよくなければほぼルルのことは肉眼では確認出来ない。


今回のダンスイベントはルル単独でのダンスが一曲だけある。


これなら間違いなくルルを近くで見られると意気込んでいたのだ。


「ルルがこっち見たらどうするー?」


麻美がにやりと笑う。


「死ぬ。」


即答だった。

2人は顔を見合わせて笑い合った。



会場は本当に小さかった。


東京ドームでは人差し指程度の大きさに見えたルル。


今回は3メートル程先にステージがあった。

これなら表情もハッキリ見えるだろう。

いや、待てよ?

めぐみはふと思う。

こちらから見えると言うことは、ルルからも見えるのか!?


めぐみは一瞬息を飲み、急いでトイレに向かう。


化粧ポーチを取り出し、丁寧に崩れを治した。


「こんなおばさん見てないって」

心の中では冷静な自分がいた。

だが一方で「ファンが小汚いおばさんがファンだってガッカリされたくない」

そうも思っていたのだ。

リップを塗り、背筋を伸ばして席に戻る。

間もなく開演だった。



様々なバンドやダンサーがステージに立つ。


次はルルの出番だ。

今回のイベントは撮影が許可されていた。

SNSに投稿し、イベントの宣伝も兼ねられるようにだ。


撮影する手が震える。


その時、司会者が声を張り上げた。


「次のステージはスペシャルゲスト!

THEROOTのルルー!!」


会場が一気に湧く。


そして暗転した会場内で一箇所にスポットライトが当たる。


ルルだ。


曲の歌詞に合わせて時に楽しそうに、そして切なく、ルルが踊る。

それはまるで一つの物語のようだった。

ツアー中の彼は少し痩せたようで、顎のラインがスッキリとして、ほりの深さが際立っている。

時折、優しく微笑む顔に歓声が上がる。


「やっぱり近いと表情まで見える!あ!まつ毛長い!」

めぐみは心の中でガッツポーズをしながら喜びを噛み締めていた。


ルルの動きを全て目に焼き付けるように彼を凝視する。




そして、スマホの画面を少し確認しようと画面に目を落とした時だった。


画面越しにルルと目が合ったような気がした。


「え?!」


急いでルルを見ると、彼がイタズラに笑いながらこちらの方向を見ている。



「こっちを見てる!!!」







「お客様ー??お客様ーー??」



目を覚ますとそこは見覚えのある砂利と川、美しい夕焼け、そして作業着のおじさんが心配そうに覗き込んでいた。


「あれ?ルルは?」


めぐみがスマホを確認しようとポケットを触ると、何故か全身がぐっしょりと濡れている。


めぐみが愕然としていると、佐藤がため息をつき


「いきなり川に飛び込んで行かれるのは困りますなぁ。

あと、こちらで推しを探す行為はおやめください。居ませんから。ほほほ。」


とタオルを差し出す。


「え?川?」

めぐみは動揺しつつもタオルを受け取った。


「はぁ、覚えてませんか?

うん、うん。これは困りましたねぇ。

とりあえず、一度こちらへどうぞ。」

佐藤は下がった眉毛を一層下げて、プレハブの扉をガラリと開けた。


中にはたくさんのテレビのモニターがある、おそらく佐藤がこれを見ているのだろう。


川の管理と言っていたような?

めぐみは前回のことをうっすら思い出していた。


佐藤は山積みの書類を避け、引き出しから湯呑みを取り出し、慣れた手付きでインスタントコーヒーを作った。


「どうぞ。三途の川の水ですから、あまり美味しいものではないんですけどね。まぁなんて言うんですか?

ないよりはマシかなと。ほほほほ。」


佐藤は笑いながらコーヒーを差し出し、一つのモニターの画面を巻き戻した。


「ほほ!これ!これですよ!

ちょっと見てください!」

佐藤は興奮気味にめぐみに笑いかける。


めぐみがモニターに目をやると、そこには聞き取れない奇声を発しながら川に飛び込んでいくめぐみが映っていた。


「ほほほー!これは傑作ですなぁ!ええ!

こんな綺麗に飛び込んだ人初めてです!

私ね、この仕事300年させてもらってますけどねぇ!こんな方初めて見ましたよ。ほほほほ」


佐藤は上機嫌で何度も巻き戻して笑っている。


めぐみはどうリアクションしていいのか分からず、気まづそうにタオルを服に押し当てた。

そして佐藤が飽きるのを待っていた。


「ほほほ!ちょっとスローにしてみましょうか?

いやー!完璧な飛び込みでしたねぇ!ほほほ!

よっ!日本代表!ほほほ!」


佐藤は何度も繰り返し、ほほほと笑う。


が、しばらくすると飽きたようで、胸ポケットから手帳を取り出しぱらぱらとめくり出した。


「山崎さん、今日は推しのイベントだったんですねぇ。それでなーんでこちらに来ちゃったんですか?

困りますなぁ。

私、前回言いましたよねぇ?推し活はほどほどにって。ええ」


めぐみはタオルを服に押し当てながら、

「目が合いました。」

と小声で言った。


すると佐藤は目を見開き

「ほほほー!

目が合ったわけですか!?イベントでですね?

それで!?まさかそれだけではないですよね?

もっとこう、川まで飛び込むような事でしたら、何かあったんじゃないですか??」

机をバンっと叩きながらめぐみを凝視している。


めぐみは先程までイベントでの出来事を思い出す。


ルルがこっちを見て、そして


「笑いました。ニヤリって」


ますます小声になる。


佐藤は凝視した顔のまましばらく固まっていた。


信じられない、といった様子だ。


「あのぉ、、ちょっと冷静に考えると、アイドルが、、」

佐藤が呆れながら話始めると


「アイドルじゃありません!アーティスト!!」

めぐみはムキになって話を遮った。


「ええ、ええ、、あの、失礼しました。

ええ、なんでしたっけ?

あの、、アーティスト、、?の方が客席見るなんて、私、普通の事だと思うんです。ええ。別に山崎さんを見ていた訳ではないかと、、」


おどおどしている様に見せているが、揶揄っている顔をしている。


「私を見て笑っていたと勘違いして、何か悪いことはありますか?」


めぐみは佐藤の目を見てキッパリと言った。

そして


「それで私が幸せなら最高なんです!

別にルルの私生活を暴きたいとか思ってません!

私はルルが楽しそうにステージに立って、健やかに生きていてくれればそれで幸せなんです!

恋人になりたいなんて思っていません!


たまにこっちの方見てくれるって勘違いくらい許されても、良いんじゃないでしょうか!?」


佐藤はぽかんと口を開けたまま、しばらく動かなかった。


「いやぁ、私、感動しました。

良い!山崎さんね。あなた立派なオタクですよ!

オタクの中のオタクです!もうね、スタンディングオベーション!ほほほ!」


そう言って拍手をしながら立ち上がり、夕日を見つめ

「好きな物があるっていいもんですなぁ。ええ。」

としみじみと言った。


そして書類を取り出し、早口で捲し立てた。


「山崎さん、今すぐ帰りましょう!まだルルのダンスは終わっていませんよ?

最後まで見なくていいんですか?」


めぐみはハッとして佐藤から書類を受け取る。


佐藤は微笑みながら続けた。

「あなたね、こちらの記憶も残ってるでしょ?

まれな方なんですよ。ええ。

他の皆さんは、現世に帰ったら寿命が尽きるまでいらっしゃらない。

そんなに四六時中夢中で誰かを考えるなんて無いんですよ。

だいたいねぇ。命懸けで推し活なんてしないですからねぇ。ほほほ」


めぐみは佐藤の話を半分聞きながら、ルルのダンスの続きばかり気にしていた。

殴り書きでサインをすると

「佐藤さん!ありがとうございます!命懸けで推してきます!」

と勢いよく扉を開けた。


「少しだけ、時間戻して差し上げますのでね。ええ、このことはご内密に。

あと、今日はもういらっしゃらないようにしてくださいね。

さすがに私も怒られちゃいますから。ほほほ。」

頭の中で佐藤の声が響いた。






「次のステージはスペシャルゲスト!

THEROOTのルルー!」


スポットライトにルルが照らし出される。


「帰ってきてる。夢じゃない。」

そう思った瞬間、スマホを握る右手に力が入る。


そして、左手には見覚えのない使い古したタオルが握りしめられていた。

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