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魔女の末裔と偽りの恋~忘れ薬と嘘~  作者: 橋本彩里
第一章 裏切り

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6.裏切り


「ふ、ふふふふふ」


 それは私を騙すための言葉で、これまで騙していたという確信的な台詞で、聞き間違い、勘違いではすまないものだった。

 そっか。最初から騙されていたんだと、情けなさに乾いた笑いが止まらない。


「ふふっ、――あぁ~あ、やっちゃったなぁ」


 次第に声は沈み、それとともに気持ちは塞いでいく。

 ウィルフレッドのことをとても信用していた。熱心にアプローチしてくる彼を前にすると、その居心地のよさにほかのことは考えられなかった。

 好かれていると信じられていた。

 そんな相手に騙されていたという事実に、情緒が不安定になる。


「そっ、か……」


 声に出さないとさらに落ち込みそうで。

 意識しないと、呼吸すらままならなくて。


「はぁ……」


 今度は大きな溜め息が出た。

 ウィルフレッドも情報を得るために今後積極的に動いてくるようなので、そのことを考えると途端に面倒になった。


 どの魔女の知識を知りたいのかはわからないが、大前提として私はそれらを誰にも渡すつもりはない。

 受け継がれてきた知識の財産は、中には取り扱いが難しいものもあった。


 広めるものと守り抜くもの。

 それらの管理は適切に行われるべきで、そうすることが残された私の、魔女の末裔としての矜持でもある。


「ああ~、好きだったのに。好き、になったのにな」


 最初はそこまでではなかったが、付き合っていくうちに好きになっていた。絆されてしまった。

 これもウィルフレッドの思惑通りなのだと思うと、虚しさも増していく。


 ウィルフレッドがいることが当たり前になった今、知ってしまった(事実)は心を抉る。

 正直、今泣いてしまわないのが自分でも驚くほど、じわじわと気分は悲しみに染まっている。


 だが、悲しみに暮れ傷つくだけで何もしないのは考えられない。

 何より、私の魔女の末裔としての知識を知りたい様子だったので、それらは絶対渡すわけにはいかない。


「知りたい情報……」


 どれのことなのかわからない。

 魔女のレシピなど受け継いでいるものはあるし、その中には当然門外不出のものもある。


 それは薬や占いの精度と財産を守るためのもので、似たような代替えのものはどこにでも出回っている。

 同業者が探りにくるというのならわかるが、国の機関が潜入捜査してまで欲しがる情報であるとも思えない。


 あるのかないのかわからないものを求め、近づいてきた二人。

 そして、ウィルフレッドは任務で積極的に話しかけ、情報を得るために私に告白してきたことになる。

 私個人に対して悪意があるわけではないようだけれど、裏があると知り、これまで築き上げてきたものがガラガラと音を立てて崩れていく。


「私、騙されてたのかぁ……」


 口に出した言葉が、追い打ちをかけるように気持ちを重くしていく。

 半年以上という月日は、決して短いものではない。


 その間、ずっと優しい恋人であったウィルフレッドは、私から情報を得たらどうするつもりだったのだろうか。

 今別れていないのはまだ私から情報を得られていないからで、だからこそ優しくいられるのだろうか。


「信じられない。信じたくない……」


 それでも、やっぱりかと思う気持ちもあった。

 これだけ付き合ってもどうしてウィルフレッドが私のことを好きになり、ここまでよくしてくれるのかわからないとふと思うことがあった。

 それだけ生活リズムも違い、自分を卑下しているわけではないけれど生きる場所が全く異なる人だった。


 出会いからこれまでのことをどれだけ思い出しても、ウィルフレッドと過ごす時間はいいことばかり。

 喧嘩したこともなく、とても穏やかな時間を過ごした。


 でも、彼らの話を聞いてしまった今は、それだけ心証をよくするために私に気を遣っていたとしか思えなくなる。

 私が気持ちよく何でも話せるように優しくしていたのだとしたら、その情報にはウィルフレッドたちにとってそれだけの価値があるのだろう。

 優先するものが違えば、そういったことも可能なのだろうとは頭ではわかる。


 ――自分の生活を犠牲にしてまでなんて私には無理だけど。


 もうどうしていいかわらなくて、私はずるずるとその場の壁に凭れ座り込んだ。

 うまく力が入らず、食材の入った袋が傾きリンゴがころりと落ちていく。


 見つかってはいけないと急いで拾い上げ、そっと確認すると彼らは気づかないまま立ち去っていた。

 ほっと息をつき、落ちて疵のついたリンゴを眺める。


「はっ、……ははっ」


 明日、一緒に食べようと思っていたリンゴを手に、随分と乾いた笑いが漏れた。

 自分の声なのに自分のものだと思えない感情のこもらない声音が、遠くからばかじゃないのと追い打ちをかけてくるようだ。


「もう、本当嫌になっちゃうな。目的があって近づき騙されていたのなら、このまま付き合う意味はない、じゃない。さっさとこの関係を清算してしまおう」


 そう口にしてもやはり気分は重くなる。

 信頼していた恋人の裏切りの事実に、時間が経つとともにじわじわと気持ちが重くなっていくのを止められない。


「そうね、清算しよう」


 言葉に出して気持ちを整理する。虚しさが突き抜け、自分でも表情が抜け落ちているのがわかる。

 動揺を通り越し、やけにこの状況を俯瞰して捉えているなと頭のどこかが冷静に判断する。

 私は縫い付けられたようにやけに重たくなった足をなんとか引き剥がし、静かにその場を後にした。



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