表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女の末裔と偽りの恋~忘れ薬と嘘~  作者: 橋本彩里
第一章 裏切り

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/9

5.恋人の任務


 エーリックが飲み終えたカップを捨てると、改めてウィルフレッドのほうに視線をやった。


「しっかりしろよ。大事な任務で慎重になるのはわかるが、今のところ彼女が唯一の手掛かりなんだ」

「わかっている。何度か訊ねたが、本人はぴんと来ていない感じだった」

「ああ~。確かに本人がその情報の貴重さに気づいていないということもあるか」


 情報? と、繰り出される内容に明確なものはないのにさっきから鼓動が早くなっていく。

 ウィルフレッドはすっと下に視線をやると、静かに告げた。


「直接訊ねると警戒される。そのほうが問題だろ?」

「確かにな。それで逃げられたら唯一の手掛かりがなくなるし。常にそばにいて見張っているというなら今の形が正解なのか」

「そうだな。シャノンの近くにさえいれば情報が掴める可能性はある。逃すよりはそのほうがいい」


 自身の名前が出て緊張が走り、逃すより? と大きく目を見開いた。

 エーリックはそこで頭の後ろで手を組んだ。


「それにしても魔女の知識かぁ。魔法や魔道具が発達して生活水準が上がり便利になった分、薄れていくのが早いとされているから、現在だとどれくらい価値があるものなんだろうな」


 ウィルフレッドはちょっと瞠目(どうもく)すると、寂しげに微笑んだ。


「過去の弾圧で多くの人が亡くなり、当時のことを知る人々は年齢的にもういないとなると知る者は限られているから。かなり貴重な存在だよ」


 隠れて話を聞いている後ろめたさはある。

 だが、ウィルフレッドの何かを含んだ表情に、自分でもよくわからない感情を持て余し口元を押さえた。


 ――魔女の知識? 貴重な存在?


 魔女の末裔である自分には無視できない話題だ。

 いつのまにか息をするのを忘れていたようで、苦しくなって重苦しい息を吐き出した。


「実際に薬を作る腕はいいし、あと普通に可愛いよな」

「それと任務には関係ないだろう」

「いや。関わるのなら可愛い子、いい子のほうがいいだろう? あっ、ウィルフレッドが本気で押したら、シャノンは恋愛に慣れていなそうだしすぐに陥落できるんじゃないか? 親しくなれば教えてくれる情報も増えそうだが」


 陥落という言葉がじわりじわりと浸透していき、私はぶるりと身体を震わせた。

 袖の下の腕に鳥肌が立ち、これ以上聞くのはまずいのではないかと立ち去りたい気持ちと、聞くべきだとの思いに揺れる。

 私の動揺をよそに、話が進んでいく。


「冗談でもよしてくれ」

「例えばの話だって。怒るなよ」


 魔法をかけているとはいえ気配を薄くするだけ、注意深く見ようとすれば認識できるため万全ではない。

 気持ちが乱れ、相手も相手なのでここで気づかれてはいけないと覗くこともやめ完全に身体を隠した。

 そのため細かな様子を知ることはできなくなったが、エーリックの焦ったような声が、いつも穏やかな表情を浮かべている彼とは違う反応を見せていることはわかった。


「別に怒ってはいない」

「……そうか。まあ、あれだ。俺だって、シャノンを騙すようなことは嫌だなとは思ってるよ。彼女の薬には助けられているし」

「…………」

「あれだけ通っても聞けないなら、彼女が情報を持っているかどうかもわからないし。それにウィルは言わないけど、今付き合っている相手がいるだろ? ここ半年ほど付き合いが悪いしな。なのに、簡単にほかの女性と付き合えばとか冗談でも言って悪かった」


 エーリックの物言いから、自分たちが付き合っていることも言っていないようだ。

 どうして黙っているのか。

 そんな疑問が浮かぶが、さっき答えを聞いたばかりじゃないかときゅっと口を引き結んだ。

 眉間にしわが寄って険しい顔をしているのが自分でもわかるくらい、どよんと気持ちが重くなる。


 ――私とは任務のために付き合っていた、ということよね?


 ほかの女性の存在も一瞬(よぎ)ったが、ウィルフレッドは仕事終わりや休みをほぼ私と一緒に過ごしていた。

 ほかが入る余地はない。

 だからエーリックの言う、ウィルフレッドが半年付き合っている相手というのは私で間違いないだろう。


 でも、その相手が誰かをウィルフレッドはなぜか周囲に話していない。

 私も聞かれもしないことを吹聴する気はないので、自ら周囲に告げたことはない。


「えっ、ちょっと待って!」


 あまりのことにまた声が出た。

 そこで気づく。

 もしかして私たちが付き合っているのを誰も知らない?


「あっ……」


 一つ気づくと、あれこれとこれはと思うことが出てくる。

 眉をひそめ、出した分以上に大きく息を呑み込んだ。


 虚しさと怒りと、何より悲しみと。そして、嘘であってくれという思い。

 葛藤している間にも二人の会話は続く。


「シャノンから情報を得られるように頑張るよ」

「ああ。少しでも正確な情報が必要な時期なのはわかるだろ? 時間がない。お前が無理なら俺がやるから」

「そんなことにはならない。俺がすべてやるから任せてくれ」


 ウィルフレッドの鋭い声とともに発せられた決定的な言葉に、ひゅっと息を呑む。


 ――動くんだ?


 意気込んだ様子とはっきりと告げられた言葉に、なぜか笑いがこみ上げた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ