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魔女の末裔と偽りの恋~忘れ薬と嘘~  作者: 橋本彩里
第一章 裏切り

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4.魔女の予兆


 魔女の末裔である私は受け継がれてきた知識を活かし、仕事は主に薬を作り販売、たまに占いで生計を立てている。

 魔女といっても、人を呪う特別な呪術や魔法を使えるわけではない。ただ、薬草や治療に特化した知識を持ち、占星術などの未来を占うための造詣(ぞうけい)が深いだけだ。

 そこに魔法を掛け合わせることで相乗効果を生み、魔女の薬はよく効くと言われるようになった。


 今でこそ魔女が継承してきた技術と知識が有用だと、薬草の調合が優れ治療薬としても認められているが、魔女狩りが行われていたのはたった百年前のことだ。

 人が見向きもしない薬草や素材を嬉々として鍋にぶち込む姿は禍々(まがまが)しく、理解が及ばぬことに人々は恐怖した。


 政治の腐敗が進み、民の生活にしわ寄せがきて鬱憤(うっぷん)が溜まっていたものをぶつけられた。

 人々の悪意を向ける矛先の生贄として、魔女や思想家と呼ばれる者たちが吊るし上げられていった。


 新たな主権となったアラドルス教皇権の拡大とともに、当時このジャーマニア国含む多くの国を制圧していたナイチアノ教は衰退し、ようやく人々が真実に目を向けた。

 これまで秘匿とされていた魔法の知識が一般的に広がり、それらを動力とした魔道具が発達し、人々の生活は大きく変化した。


 それと同時に情報の移り変わりは早く、当時のことを伝承する者が少なくなった。

 魔女の薬草などの知識は重宝され受け継がれてきたが、時代に必要がなくなったと思われた知識は廃れつつあった。


 そして、そのどれかの私の知識を得たくてウィルフレッドが私に近づいたことを知ったのは、付き合って半年経った、今から一か月前のこと。

 その日は目の前のことに集中できず、妙に意識が散っていた。


 晴れた日は日向ぼっこをしながら窓から見える場所で眠る穏やかな黒猫が、爪を立てて窓を引っ掻いた。

 いつもなら失敗しない調合を間違い、その片付けと作り直しに追われていたら、火にかけていたほかの薬品が、ぼふん、と音を立てて爆発した。


 今思えば、あれが魔女の予兆だったのかもしれない。

 黒猫から始まる三つの異変が続くと言われる迷信みたいなものだが、どれもこれも日常に溶け込む些細なことだったため、その時は繋げて考えてはいなかった。


 うまくいかないときは挽回しようと焦って余計にうまくいかないと早めに作業を切り上げ、作業部屋を後にする。

 その際に扉に私以外開けることのできないよう魔道具を作動させしっかり効いていることを確認し、私は束ねていた金の髪留めを外した。


 ことん、と机の上に置く。

 金の中には細かく花の絵が描かれていてかなり凝った髪留めは、恋人に貰った物だったなと目を細めた。


 これを贈られる前は、作業するときはゴムでぎゅっとくくっていた。たまに引っ張られすぎて疲れることがあると話した次の日、ウィルフレッドがプレゼントしてくれた。

 作業部屋には腰が疲れないようにクッションやひざ掛けなど、彼の気遣いで贈られた物がたくさんある。


 これまで殺風景だった部屋は、ウィルフレッドがいないときでも彼の存在を感じてふとした瞬間に和んだ。

 そうやって何気なく話したことに対して優しい対応をしてくれるウィルフレッドに好意を示されるたびに、私の心はウィルフレッドへと向けられるようになった。


 明日はウィルフレッドの仕事が休みなので、訪ねてくる予定だ。

 せっかくならご馳走を作ろうと、食材を調達するために街に出た。


「今年の冬も厳しくなりそう」


 ひんやりとした風に赤髪が吹かれたのを耳にかけ直し、視線を上げた。

 太陽は出ているが秋が深まり、風が吹くたびに色を変えた木々が揺れる。

 今年の冬は寒くなりそうだと、咳止めと熱さましの薬を多めに用意しておこうと頭の中で在庫の確認と、必要なものをリストアップしていく。


 気温に影響される薬草は多い。

 繊細なものは魔道具で温度管理し土の状態を定期的に観察しているが、市場で不足する物もあるかもしれない。


 その年によって変わってくるし、一人ではできることも限られている。

 そのため少し多めに作る程度だが、できるだけ来てくれたお客さんに何も持たせず帰らせることがないようにとあれこれ段取りをつける。


「魔道具に入れる魔石も多めに買って帰ろうかな」


 ぽつりと独り言が出て、あっ、やってしまったと苦笑した。

 ひとり時間が多かった私は作業や思考に没頭すると、ぶつぶつと考えごとを口にすることがある。それらを指摘されてから気をつけるようにしているが、油断すると今みたいに出てしまう。

 癖はなかなか治らないなと大通りから外れた小道を曲がったところで、見知った人物に私は歩くスピードを緩めた。


 ――ウィルだ!


 カフェの前に立つ恋人を見つける。

 休憩中なのか騎士服姿で手袋を外し、飲み物を片手に持っている。


 太陽の下でより輝く金髪のウィルフレッドの横には、黒髪を短く切りそろえた騎士仲間のエーリックがいる。

 彼は何度かウィルフレッドと一緒に店にやってきたことがある人物だ。


 外でふいに会うのは気恥ずかしくて、私は彼らの視界に入らないように身を隠す。

 彼らを見つけた女性や子供たちに手を振られ、ひらひらと手を振り返したエーリックがそこでウィルフレッドを見た。


「あの件はどうなっている?」

「いや。まだだ」


 エーリックの問いに、ウィルフレッドが肩を軽く(すく)めて見せる。

 それに対し、エーリックが心底呆れたと声を上げた。


「あれだけ通って? 彼女を見つけてからもうすぐ一年になるんだぞ。ウィルができるというから任せたが、慎重すぎないか?」

「だが、傷つけたくない」

「まあ、いい子だからなぁ。わかるよ。わかるけど、任務も大事だろ」

「……」


 そこでウィルフレッドは黙り込んだ。

 私はその様子をじっと見つめる。


 彼女と任務。

 その言葉が気になって息をひそめ、悪いと思いながら聞き耳を立てた。



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