48.区切りと背後
「魔法爆弾を解析したところ、かなり高度な魔法が組まれておりました。隣国の影がちらつき不審な点が多いため捜査を進めるとともに、安全の強化にも国を挙げて取り組んでいるところです」
「思ったよりも規模が大きくてびっくりしました」
ウィルフレッドの上司である美女、国王陛下の妹でウィルフレッドが所属している特殊騎士隊の隊長あるイザベラ殿下の報告に眉を寄せる。
首謀者の男を捕らえ組織は壊滅しても、解決とはいかないようだ。
失ってしまったものは二度と戻ってこない。
少しだけ心は軽くなったが、両親が亡くなった事実は変わらないためすべてを納得する日はこないのだろう。
きゅっと唇を引き結ぶと、ガブリエルが目を細めた。
「シャノンを遠ざけるつもりが結局巻き込んでしまったが、結果としてシャノンのおかげで多くの者が救われた。シャノンの両親もシャノンも、俺にとってはかけがえのない存在だ。安全はもちろんだがシャノンの平穏はこれからも全力で守る。だから、これからもシャノンのしたいように生活すればいい」
父側のキャンベルの姓と魔法がそこそこ使えることを指して、問題ないようにすると言っているのだろう。正直、その言葉にほっとする。
私は魔女の末裔として、薬品と占いでほどよく人に関わり細々と生活していきたい。
ガブリエルからは四年前のことも含め両親との関係や、事件の流れについて改めて説明と謝罪を受けていた。
両親とガブリエルはガブリエルが呪いを受けてからの付き合いで、ガブリエルは両親に多大な恩があると話していた。
その恩を仇で返すような四年前の事件の結果に、この四年間、私を守るとともに四年前の事件の決着をつけるべく動き、その過程で発覚し今回の騒動となった。
「私も尽力します。もともとガブリエルが呪いを受けたのは私のせいです。それさえ知らなかったのだから私の罪。彼が苦しい時にそばに居てくれたシャノンたち家族は私にとっても恩人です」
「呪いはイザベラのせいではない。すべては俺が未熟だったからだ」
姿を消したガブリエルをイザベラ殿下は長年待ち続け、いっこうに顔を見せに来ないことに痺れを切らし捜索しだしたのは五年前。それからやっとのことで、私のもとまでたどり着いたのだという。
名前も、そして呪いのせいで容姿も違い、断定するにも時間がかかり、また姿を消されることを恐れかなり慎重に事を運んでいたようだ。
「いいえ。私のせいです。ただ、何も言わず姿を消したことにはまだ怒っていますので、これから覚悟しておいてください。次は私があなたを守る番ですから。守る対象がそばにいないのは問題外でしょう?」
「あ~、もういろいろバレているし勝手にいなくなるようなことはしない。あと、守るなとは言わないが、俺と一緒にいてイザベラを傷つけさせるつもりはないからそこまで気負わなくてもいい」
「……こほん。そうですか」
そこでイザベラ殿下は恥ずかしそうに頬を染めた。
万が一のことがあれば私にも被害がとの話だったが、もしもの場合どうなっていたのか想像がつかないくらい可愛らしい。
ウィルフレッドにこっそり教えてもらったのだが、イザベラ殿下は十代で出会ってからずっとガブリエルのことが好きだったようだ。
今では見た目の年齢がガブリエルのほうが下に見え逆になってしまったが、殿下の想いは変わらないようだ。
「ああ。それとは別にイザベラが捜していると知って身を隠していた俺にも責任はあるが、俺たちのことに任務としてシャノンに近づき彼女の生活を脅かしたことについては謝るべきだ。それもあってここまで来たのだろう?」
ウィルフレッドの任務は、私のそばにいてガブリエルを確実に捕まえてイザベラ殿下のもとへと連れていくこと。
だからウィルフレッドは慌てもしなかったが、慎重に探りを入れていつ現れるかわからないガブリエルの登場を静かに待っていた。
ウィルフレッドはウィルフレッドで任務とは別に私に個人的な思いもあったため、付き合いを継続しながらも男女の触れ合いはキスのみととことん甘く穏やかなものにとどめたようだ。
その最中、私が中途半端に任務のことを知ったため、忘れ薬に手を出したこともあり事態が複雑化してしまった。
「本当にごめんなさいね。ガブリエルが大事にしている人物に思うところはあったのだけど、決して傷つけたいわけではなかったの。それに王都であれだけのことがあったにも関わらずこちら側に死者が出なかったのは、シャノンの薬のおかげ。今は感謝しかないわ。本当にありがとう」
イザベラ殿下が深々と頭を下げる。
王族に頭を下げられ、慌てる。
「頭を上げてください。騎士の皆様の尽力があったからこそ王都が守られたと思います。ですが、役に立てたのでしたら何よりです」
「そう言ってもらえて助かるわ。ガブリエルに言われるまでよくわかっていなかったのだけど、この現状を見るとものすごく責任を感じるわ」
そこでイザベラ殿下は私の背後へと視線をやった。
視線の先には、背後霊のごとく私にべったりくっついているウィルフレッドが見えるはずだ。
場の空気を読んで黙っているのはいいが、上司となるイザベラ殿下がいてもべったりなのはいかがなものか。
私が苦笑すると、じっと見つめどうしようかしらとイザベラ殿下は頬に手を置いて溜め息をついた。
「上司の前でそれはどうかと思うわ」
「今はプライベートなので。少しでもシャノンから離れたくありません」
「確かに私が突然お邪魔したのだからプライベートではあるのだけど。予想外過ぎて……。シャノンはそれでいいの? 重くない?」
イザベラ殿下の質問は身体的にではなく、精神的にということだろう。
事件後、後処理でウィルフレッドは忙しく、私も死者は出なかったとはいえ怪我人も多く薬品が足りないと朝から晩まで作業していたため、二人の問題については落ち着いてから話すべきだとまだ話し合いができていなかった。
やっとゆっくりと話し合おうとウィルフレッドがやってきてすぐイザベラ殿下の来訪があったため、無言の抗議とばかりにべったりくっついているのだ。
「正直私も戸惑っておりますが、これには私にも責任があるので」
忘れ薬を飲ませたことによって、ウィルフレッドの変質を痛感せずにはいられない。
すっきり関係を解消させるつもりが、まとわりつく粘着感が増してしまった点においては私の過失である。
――忘れ薬がこんなことになるなんて……。
四年前のことも含めひと段落がしたが、この後ことを思えば現状を含めどうなっていくのだろうと正直ちょっと怖さはある。
ただ、別れを決意した時よりは心は軽かった。
「ここからは俺たちの時間です。話が終わったのでしたら、俺ももう限界なのでそろそろ二人だけにしてもらってもいいですか?」
ウィルフレッドは背後から私の前に腕を回すとにっこりと微笑み、なんとも言えない妙な圧と色気とともに二人を追い出した。




