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魔女の末裔と偽りの恋~忘れ薬と嘘~  作者: 橋本彩里
第六章 過去の清算

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46.呪い返し


 道中はなんなく襲撃者を撃退したウィルフレッドのおかげで、ガブリエルがいる場所にはそう時間をかけずにたどり着けた。

 出会った騎士の説明によると末端の者たちの制圧は済み、主力以外の者は周辺の捜査を命じられているそうだ。


「シャノン。ここからは本当に危険だがそれでも行くの?」

「行きたい。両親を死んだのは巻き込まれただけなのか、理由があったからなのか。私を狙う理由もはっきりさせないと安心できない」


 両親はもう二度と帰ってこない。

 理不尽だという怒りと悲しみを抱えながら、両親がいない現実を少しずつ受け入れ日常を過ごしていた最中、唐突にあの頃の苦い感情の中に戻された。


 当時、行き場をなくした感情が荒れ狂う。

 危険な場所に向かうことに全く躊躇いがないわけではないけれど、今進まなければ一生後悔する気がした。


 もちろん、無謀に突っ込むつもりはない。こちら側が優勢である現状と現場にはガブリエルもいる。ウィルフレッドの実力と私の魔法があれば、死ぬようなことはないとの勝算もある。

 止められても意見は変わらないとウィルフレッドの目を見つめると、ウィルフレッドは静かに瞼を伏せ、きゅっと繋いでいる手に力を込めた。


「シャノンほどじゃなくても、四年前のことは苦い思い出だ。俺も、もう二度と何もできないまま終わらせたくない。シャノンの心を曇らせるものは排除する」

「ウィルがいてくれたら心強いけど、危ないよ」

「ここで待てと言われるほうが死にそうだ。四年前のこと、今何が起こっているのか、大事な人が巻き込まれているなら俺も知っておきたい」


 互いに意思を確認し、私たちはガブリエルのもとへと駆けた。

 魔法の痕跡が強い場所へ探索して進むと、扉が破壊されたこの辺りでは広めの一室にたどり着く。


 中を覗き込むと、ガブリエルとその横には滅多にお目にかかれない騎士服を着た迫力美人が剣を構え、二人の前には四十代くらいのコートを着た男が左手をポケットに突っ込み立っていた。

 私のもとに展開された転移魔法陣の残滓が男の足元から感じられ、瞬時に男がこの騒動の首謀者だと理解する。


 男はガブリエルへと魔法を展開しようとしていたので、すぐさま私はそれを無効化した。

 私は攻撃魔法は向いておらず相手の力を弱体化するような魔法のほうが得意で、その中でも無効化は最大の防御になるとかなり練習したので自信はある。

 魔法を干渉されたことに気づいた男がすぐさま私の存在に気づき、うっそりと口端を上げた。


「誰かと思えば、その赤髪。お前が汚らわしい魔女の娘だな。まあ、失敗したかと思ったがそっちから来てくれるとはついているな」

「させるか」


 男は左手を突っ込んだままで、右手でこちらに向け攻撃しようとしたがそれをガブリエルが止めた。

 魔法と魔法がぶつかり、火花が散る。

 私はガブリエルのもとへと足を進めながら、注意深く相手を観察した。


「転移魔法の先はあなたですね」


 ほかにも何かしかけている気配があり、ガブリエルもそれを警戒して攻めきれないようだ。

 相手は爆弾を躊躇なく使う組織のリーダーだ。最初以上の威力のものが仕掛けられていた場合、人口も多い王都だと四年前の比ではなくなる。


「へえ、そこまでわかるのか。さすが魔女の血だな」


 忌々しそうに吐き捨てた男の言葉に眉を寄せる。


 ――魔女の血、確かにそう言った。なら、キャンベルの名前はどうして……。


 疑問は浮かぶが、ガブリエルがまだ倒しきれていない相手に油断は禁物だ。

 ばらけるよりも事情を知るガブリエルと合流するほうがいいと、彼らのもとへと向かう。過去の清算と解明はしたいが、ここまで動いてきたガブリエルや騎士たちの足を引っ張るつもりはない。


「ガブ!」

「シャノン、なぜこんなところまで来た?」

「転移魔法をしかけられたから。私に用事があるのならこちらから出向こうと思って」


 怒られるとは思っていたが、案の定眉を寄せ険しい顔をしたガブリエルを前に淡々と述べると、ガブリエルがウィルフレッドを睨みつけた。

 ウィルフレッドは男を警戒しながら、私のほうへと視線を走らせた。


「俺だってシャノンを危険な目に遭わせたくない。だが、四年前のことも含め彼女の気持ちを考えると抑えつけることはできない。俺はシャノンの心も守りたい。遠ざけても牙が剥くなら知っておくことも必要だと思うが」

「……そうか。来てしまったものは仕方がない。ほぼ制圧できたが問題はこの男だ。こちらが動けば、あちこちで仕掛けられている爆弾が作動する」


 度重なる爆発の音はこの男が元凶らしい。

 男は私の視線に気づくと、ふっといやらしく笑った。


「その勇気はただの無謀だな。だが、俺としては助かった。両親の死に拭いをして彼らのように虚しく散るがいい」


 男はポケットに突っ込んでいた手を出すと、黒い手袋を地面に落とした。男の左手は煤のように真っ黒だ。


「呪い?」


 正確には呪おうとして失敗したのだろう。

 引き継がれた本に呪いが失敗した際の代償についての記述があったため、先ほどの男のセリフから母が呪いを跳ね返したとみていいはずだ。


 こうなればかなり高位呪術師に解除を願うか、呪いを返した相手にすべてを引き受けさせるかになる。だが、母はもうこの世にいない。

 そのため、母の魔法が混ざったその呪いの先の標的を血の繋がった私にしたのだろう。それが狙われた理由のようだ。


 私の足元にまた魔法陣が展開された。転移ではなく、今度は呪うためのものだとすぐにわかる。祝いや呪いは魔女の得意分野だ。すかさず計算する。

 両親は最後の最後まで戦っていた。何もしなかったわけでもない。そのことに勇気づけられる。


「シャノン」


 ウィルフレッドが警戒と心配の声を上げる。


「大丈夫。思い通りになんてさせない。ここで決着つける。その後は任せてもいい?」

「もちろん。シャノンに指一本触れさせない」


 魔法では対抗できる。だけど、物理的な力では敵わない。その後の片付けも一般人なのでうまくできない。

 でも、騎士であるウィルフレッドがいる。彼なら信頼できる。だから、目の前のことに専念できる。


 ちらりと、ガブリエルの横にいる美女を見る。

 彼女は男とその周囲を警戒しながらも、興味深そうに私に視線をやった。


 できることなら、なるべく目立たず静かに過ごしたかった。

 盛大に魔法を使ったあと、魔女の末裔であることも含め今後にどう影響を及ぼすのか未知数だけれど、今は両親の仇をとることが先決だ。


 ――それに約束もしたし。


 過去の清算をし、未来のために今持てるすべてをぶつけるべく魔法を展開した。



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