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魔女の末裔と偽りの恋~忘れ薬と嘘~  作者: 橋本彩里
第六章 過去の清算

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45.約束


 フードの男はほかの騎士に任せ、私たちは走っていた。

 最初のものほどではないが今も爆発音が続いており、爆発から逃げる人たちを避けながら渦中へと向かっていた。


 さすがに魔法陣をもう一度再現してそこに飛び込むのは、どんな罠が仕掛けられているのかわからないためリスクがありすぎる。

 直接拉致のようなことをされそうになったため、今後も狙われる可能性は多いにある。なので、事情を知っていそうなガブリエルと合流するのがいいと判断した。


 ガブリエルの安否と状況も気になる。爆発はどうしても四年前のことを思い出し、心が重くなった。

 だけど、ここで逃げても解決しない。どちらにしても危険なのなら、相手の手順に乗るよりこちらから出向くほうがマシだ。


「シャノン。本当に行くの? 危険だ」

「行く。両親の時のようにすべて終わってからとかはもう嫌なの。それに怪我人がいるなら、私の力が役に立つかもしれない」


 四年前と違いすぐに駆け付けられる距離にいて、私にも関係のあることならば尚更だ。

 待機していた騎士に怪我に役立ちそうな薬品を渡し運んでもらうようお願いしてあるため、物があればできることはあるはずだ。


 店にいて周囲の人たちを巻き込む可能性だってあるし、足手まといになるなら引くが、何らかの力になれるのならそうしたい。

 まずは行かないとわからない。もう、何も状況がわからず待つだけなのは嫌なのだ。

 四年前の悲惨な事件に私に関する思惑が絡んでいるのだとしたら、まだ続いているのなら今度こそ終わらせたい。


「シャノンは変わらないね」


 過去に思いを馳せていると、ウィルフレッドがぼそりと呟いた。

 小さな声だった。だけど、独り言というよりは私へ聞かせるつもりのそれはしっかりと私に届く。

 ウィルフレッドに視線をやると、何かを堪えるように眉間にしわを刻んだ表情を浮かべ私を見た。


「変わらない、とは?」

「俺が初めてシャノンを見たのは四年前の事件だった」

「――あそこにいたの?」

「ああ。シャノンはご両親の行方がわからないなか、目の前の命を救うために奔走する姿が眩しくて切なくもあってずっと忘れられなかった」


 沈痛な表情にウィルフレッドもその場にいた者としての悔しさ、私の両親を含め犠牲になった人たちに心を痛めているのを知る。

 危ない目に遭わせたくないが、じっとしていられない気持ちも悔しさも痛いほどわかるから、こうして付き合ってくれたのだろう。


「そっか……。そうなのね」

「シャノンがこんなに近くにいることを知った時は、心臓が激しく震えた。再会し、一層シャノンしか見れなくなった」


 初めてウィルフレッドが店に来た時からのことが一気に脳内にかけ巡り、いろんなことがすとんと落ちてきた。

 ウィルフレッドの気持ちを疑ったことを申し訳なくなるくらい、危険を前にして私への気持ちの重さを理解し、自分の罪深さを知る。

 ウィルフレッドとはこの件が落ち着いたら、腰を据えて話し合わなければいけない。


「ウィル。私、謝らなければいけないことがあるの。これが落ち着いたら話を聞いてくれる?」


 そう告げると、ウィルフレッドは先ほど見たよりもさらに鮮やかに色っぽく笑った。

 多分、私が何をしたのか気づいている。

 気づいていて、理由はわからないが私が切り出すのを待っていたであろうウィルフレッドの手を取った。すぐさま、指を絡められる。


「もう二度とシャノンが逃げないのなら、いくらでも待つ」

「待たせないしちゃんと話す。ごめんね」


 ウィルフレッドの記憶の状態がどうあれ、私は自身の自信のなさと怖さから安易な方法で逃げてしまった。

 気持ちを決めつけ、忘れるのだから問題ないとウィルフレッドの四年前から繋がった気持ちまでも無視してしまった。


「わかった。その話はこれが片付いたらゆっくり話そう。今はまずこの問題を片付けないとな」


 そう言うと、ウィルフレッドは後ろから襲いかかってきた男を剣で切りつけた。


「そうですね。まずは過去の清算を」


 両親たちを殺した者たちがいるというのなら、そして私に用事があるというのなら決着をつけたい。

 奥のほうで交戦している声と音が聞こえるが、建物が崩れたエリアに入った瞬間、すぐに狙われたことを考えると私的な話をしている暇はなさそうだ。


「俺は命にかけてもシャノンを守る。決して離れないことを約束して」

「約束する。だけど、ウィルも絶対に死なないと約束して。もう誰も失いたくない」


 命にかけてもと告げる時にあまりにも鋭く眸の奥には苛烈な熱が見え隠れし、母を庇うようにして亡くなった父のことを思い出す。

 父は命をかけて最後まで母を守った。父らしいし、二人が最後の時に一緒にいれたのは少しだけ救いではあったけれど、残された者からすれば生きていてほしい、それに尽きた。

 命をかけないでと告げてもきっと頷かないので、ウィルフレッドには死なないことを約束してほしかった。


「わかった。約束する。一緒に過去にけりをつけて、君のご両親に挨拶にいこう」

「――っ!? そうだね。これが終われば一緒に」


 忘れ薬を飲ます前の提案に、今回は約束という形で私は大きく頷いた。



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