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魔女の末裔と偽りの恋~忘れ薬と嘘~  作者: 橋本彩里
第六章 過去の清算

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40.終わらせたい


 とんとん拍子にウィルフレッドが私の家で泊まる準備を進め、あっという間に夜になった。

 途中、連絡係としてエーリックがやってきて、しばらく外出しないで済むようにといろいろ荷物を持ってきた。

 ガブリエルは隊長とやらと合流し、組織の壊滅のために策を練っているらしい。

 急展開についていけないと思ったのは初めだけで、すでに今はもうどうにでもなれという気持ちだ。


 ――これ、逃げるなと言われたけれど逃がす気はないよね?


 どのみち事件が収束するまでウィルフレッドといることは決定されてしまったし、症状が改善されるまで付き合うことは約束している。

 それがいつの間にか恋人関係としての付き合いとなり、外堀も埋められキスまでしてしまっている。今更、違うのだと主張したところで聞き入れてもらえるとは思えない。


 この二週間、私だって何もしてこなかったわけではない。もちろん言葉と態度で示してきた。だが、気づけば相手の手中に落ちていた。

 相手を騙して薬を使った負い目もあるし、もともとコミュニケーション能力は相手のほうが一枚も二枚も上手だ。


 抵抗すればするほどずぶずぶと沼にはまり、これ以上深みにいくと完全に抜け出せなくなってしまいそうだ。

 正直、今のウィルフレッドに勝てる気はしないし、その彼が本気でと言ったので実は戦々恐々としていた。


「なに?」


 ちらりと視線をやると、こちらをじっと見ながら考えごとをしていたウィルフレッドが首を傾げる。


「いえ、いろいろありすぎて……」

「確かにそうだね。なら、少し整理をする? そうすれば今は何に向き合うべき(・・・・・・)かわかると思うよ」


 にこにこと微笑みながら、ね、と告げる姿は、優しい恋人を思い出すと同時に急き立てられるようで落ち着かない。


 ――視線が、強いからかな。


 再会してから、私を見る眼差しが微塵も揺るがない。絶対に取り逃すものかと猛獣に見張られている気分だ。

 私は曖昧な笑みを浮かべた。


「そうですね。お聞きしたいこともありますし」


 様々なことがこんがらがり、何に手を付けてどこから改善していけばいいかわからない状態だ。ウィルフレッドが言うように、確かに一つひとつ疑問を解消するほうが健全だ。

 まず私がすべきことは忘れ薬による副作用的なものの追求と、ガブリエルとの会話で気になったことを明確にすることだろう。

 もろもろの問題は、そこをクリアにしないとたどり着けそうにない。


「ガブリエルのことかな?」

「はい。捜した、我々と言っていたので、ガブリエルを見つけることが任務だったのでしょうか?」

「そうだね」


 すんなり認めたウィルフレッドに拍子抜けする。

 つまり、任務で近づいたが目的は魔女の知識ではなかったということだ。


 ――通りで魔女の知識について聞いてこないはずよね。


 交友関係について何度か訊ねられたことはあるけれど、割と親しくしている私でもガブリエルは謎が多い人だ。

 見た目のこともある。ウィルフレッドがどのような情報を持っているのかはわからないが、すぐさま結びつく可能性は低い。もしくは、明確にガブリエルを探るような言葉があればそれはそれで警戒していたはずだ。


「騙したのでしょうか?」

「騙す?」

「えっ、だって、私とガブリエルの交友関係を知り私に近づいたんじゃ?」


 魔女の知識が目当てではなかったとしても、ガブリエルが目的で私に近づいたことに変わりはない。

 結局のところ任務であるのに、どうして私との恋人関係を強引に進めようとするのか。


「どういう意味?」

「どういう意味もそのままの意味です。ほかの問題は発生し油断は許されない状況だけど、ウィルの任務は達成したということになるのでしょう? だったらいつまでも恋人ごっこを続ける必要があるのですか?」

「ごっこ?」


 そこでウィルフレッドが立ち上がり、私の顎をとるとすっと上げさせた。

 透き通った水色の瞳が見透かすように私を覗き込み、冷笑と微笑ともつかぬ笑みを刻んだ。


「可愛さ余って憎さ百倍だね……」

「えっ?」


 ぞくっと背筋に寒気が走り目を見開く間に、ウィルフレッドの表情はいつもの穏やかなものになっていた。


「いや、シャノンは俺を夢中にさせるのがうまいなと思って。確かに俺は任務()あってシャノンに近づいたよ。でも、それとごっこという言葉はどう繋がるのかな?」


 冷ややかな空気を勘違いとするには、先ほどの言葉が耳に残る。

 これまでのウィルフレッドの言動を思うと反論することのリスクに怖気づきそうになるが、ここまできたら私も言えることは言ってしまおうと口を開いた。


「任務のために私に近づいたのでしょう? なかなか情報を得られなかったから、親しい間柄になって少しでも得ようとしその目的は達成された。だから、もういいでしょう?」


 つまり、それが言いたい。

 そのごっこをやめてくれたら、後は忘れ薬によっておかしくなったものの責任を取ればいいだけだ。

 ごっこがあるから、変に甘くて強い想いがあるように見える態度に誤解しそうになって、ややこしくなっているのだ。


 ――だって、まだ私はあなたのことを嫌いになれないもの。


 優しく穏やかなだけの人ではないと知っても、ちょっと怖くても、どうしても気持ちを捨てきれない。過ごした時間が偽りだとわかっていても、もらったものすべてが嘘だとは思えない。

 だから、結局押し切られてしまう。


「私は――、終わらせたい」


 そのために忘れ薬を飲ませるという手段を選んだのに、うまくいかずにややこしいことになっているが、あの時と気持ちは一緒だ。

 もう惑わされたくないと、ウィルフレッドに挑むように見つめ返した。



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