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魔女の末裔と偽りの恋~忘れ薬と嘘~  作者: 橋本彩里
第六章 過去の清算

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39.本気


 目を見張っていると、ウィルフレッドはつっと私に視線を流し小さく微笑む。それから、ガブリエルのほうへと顔を向けた。


「よくわかりましたね?」

「隠す気はなかったのだろう? 聞いていたのなら話は早い。俺が戻ってくるまでシャノンのことを頼む」

「言われなくても。やはり、我々が捜していたのはあなたですね。我らの隊長がずっと捜しています。先ほどのもう一つけりをつけるとはそういうことですよね?」


 低い声で受けたウィルフレッドが、眇めた目でガブリエルを見つめる。ガブリエルはひょいっと面倒くさそうに肩を竦めた。


 ――捜していた?


 どういうことだと二人を交互に見ると、ガブリエルが私の頭をぽんと叩き、ウィルフレッドが申し訳なさそうに眉尻を下げた。

 聞きたいことはあれこれあるが、訳ありなようで時間も迫っているようだし私はこくりと頷いて身を引いた。


「そろそろ諦めてくれたらいいのだが。今は個人的なことに流されている場合ではないからな」

「なるほど。我々に協力してくださるのですね?」

「王都を守るためだ」


 そこでガブリエルが私を見た。

 両親の分まで守るのだと信念が伝わり、私はきゅっと唇を引き結んだ。

 視線を絡ませる私たちを見て、ウィルフレッドがふっと息を吐いた。


「……そうですか。では、外で俺の仲間も待っていますので詳しくはそちらで。シャノンは俺の命に代えても守りますので、安心してヤツらを壊滅してきてください。王都のこと、我らの隊長のこともよろしくお願いします。くれぐれも隊長からこれ以上逃げようと思わないでください。それこそシャノンに危険が迫りそうで、そちらのほうが俺は心配です」

「――……そんなにか?」

「そうですね。あなたとシャノンの関係を身近で見ていなければ捜していた相手があなただと想像もつかなかったですが、その姿が逃げていた理由ですよね?」


 その言葉にガブリエルは苦笑した。

 声には出さなかったが、それが答えなのだろう。


 ガブリエルの見た目は若いが、実際は五十を超えている。

 昔、身体が衰えなくなったばかりか少しずつ若返る呪いにかかり、いまだに解呪方法が見つけられていない。

 若返るなんて怪しすぎるため、周囲に不審に思われないために定期的に名前と髪色や瞳の色を変え印象を操作してきた。


 ガブリエルは過去どころか自分のことをあまり語らないため、私も本来の名前は知らない。

 その隊長やらと過去に何があったのか気になるが、今は両親を殺したヤツらが王都を荒そうとしているためそれどころではない。

 時間との勝負のためすべては落ち着いてから話すこと、必ず無事に帰ってくることと私のほうは一人にならないことを約束しガブリエルを見送った。


 ウィルフレッドと二人きりになる。

 ガブリエルがけじめをつけ戦おうとしている今、私もはっきりとさせようとウィルフレッドに向きなおろうとしたその時、背後から抱きしめられた。


「ウィルフレッドさん」

「ウィルと呼んで」


 熱い吐息が耳をくすぐる。その熱に身体がびくりと反応すると、すりっと頬を寄せられた。

 二人きりになると一気に甘い雰囲気になる。日に日にやることがエスカレートしてきて、戸惑いが隠せない。


 ――こんな人じゃなかったから!


 付き合っていた時は、くすぐったい甘さはあるものの自制心を保てるくらいの優しく穏やかな日々だった。

 恋人としての特別感を味わうとともに、自分のことに集中できていた。

 自分のペースを乱されることなく、これまで知らなかった幸せな時間がふんわりと乗っかり平穏を保てる日常に満足していた。

 黙っていると、私の肩を掴み向きを変えると顔を覗き込んでくる。


「呼ばないってことは、またキスをしてもいいってことだよね?」


 最近は何かとキスをしてこようとする。

 ウィルフレッド曰く、付き合っているのだからキスはいいでしょう? とのことだった。


「ウ、ウィル……」


 何度かこのやり取りで失敗し、ねちっこいのをされてからはなるべく要望を聞くようにはしている。

 だが、その要望がエスカレートしてきたらさらに引き返すことができないところまでいきそうで、こちらはひやひやものだ。


「なんだか複雑だなぁ。まあ、今後はそう呼んでね。じゃないと、俺自身がどうなるかわからないから」

「脅し?」

「これは脅しじゃなくてアドバイスだよ。俺がおかしいなと思ったら、胸に手を当てて考えてみるといいよ。シャノンならきっとわかるはずだから」


 そして、このように意味深に脅してくる。

 ウィルフレッド自身がどうなるかわからないって、すでに手に余っているのにこれ以上ややこしくなるのは困る。ここは素直に従うほうが無難だ。


「……ウィル、って呼ぶから」


 むしろ、そちらのほうが慣れている呼び方くらい戻しても問題ない。

 付き合っていた半年と少し、キスはしていたけれど泊まりにきてもウィルフレッドは最後まで手を出してこなかった。


 奪ってほしかったのか、ほしくなかったのか。自分でもよくわからない。

 私がそういったことに不慣れであったこと、ゆっくり進もうと言われていたのもあって、そのことに焦りを覚えることもなかった。


 ――そのため、完全に騙されたとか裏切られたと怒りきれず、虚しさのほうが強かったのよね。


 任務のためにウィルフレッドは私と付き合うことにしたのだろうが、振り返っても大事にはされていたと思うから憎み切れないままだ。

 だけど、再会しやけに積極的に接触してくる。今回は以前以上に浸食してこようという気迫がすごくて、こちらが解明のために強気に責めたいのに押され気味だ。


 どうしても付き合っていた時期のウィルフレッドと比べ、穏やかではあるのだけどそのイメージからかけ離れていく行動を前にそわそわする。

 むしろ、ぞわぞわと悪寒さえするようで落ち着かない。


「シャノン。しばらくは四六時中ずっと一緒だね」

「本当に一緒に?」

「ああ。彼とも約束したからね。彼もそのほうが安心して敵陣に乗り込めるだろう」

「……そう、ですね」


 そう言われては頷くしかない。

 危険が迫っているからだけではなく、ガブリエルのことを考えると大人しく彼の意に従うほうが集中できるだろう。


「よかった。公私ともにたっぷりと時間ができて嬉しいよ。これまで存分にアピールしてきたつもりだったけどまだわかっていないようだから、この機会にシャノンには俺の本気を伝えるつもりだから覚悟してね。シャノンももう二度(・・)と逃げられないから」


 にっこりと微笑むウィルフレッドの双眸は、表情とは反対に少しも笑っていなかった。



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