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魔女の末裔と偽りの恋~忘れ薬と嘘~  作者: 橋本彩里
静乱 sideウィルフレッド

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35.全力で


 体調のケアをされながら会話をした後、開店の準備があるとのことでウィルフレッドは早々に話を切り上げ店を出ることになった。

 いざ目の前にすると感情があちこちに引っ張られてしまったが、シャノンと対峙して気持ちはさらに固まった。


「意識してくれて、嫌っていなければそれでいい」


 なぜか以前より距離が開き、どうしても距離を詰めさせてくれなかったが、それでも嫌いだとは言われなかったので今はそれでよしとする。

 諦める気はないのだから、どんな理由であれ自分を気にしているのならそれでいい。


 シャノンは優しくしっかり者できっちりしているようだが、意外と面倒くさがりでずぼらなところがあった。

 煩わされるのが面倒だから、最初からしっかり線引きをする。

 だから、多くの者はシャノンのその気質に気づかない。優しく可愛くどちらかというと大人しい女性という印象を持つ。


 シャノンのハードルは人より高めだが、高いところはわりと適当ではあった。

 彼女なりの振り分け方があるのだろうが、散々線引きしておいて最後は感覚で決断をすることがままあった。


 今はその線引きを超えてもいいのか試されている状態だと思えば、シャノンの対応は悪くはない。

 逆に言えば、そのラインさえ超えてしまえば押しに弱いということ。

 彼女の守りたいものを守りつつ、シャノンに受け入れてもらうには自分の主張もしていかなければかならない。ここの駆け引きは大事だ。


 ――だが、どうしても釈然としない……。


 一年もかけて、振り出しに戻った気がする。

 それにこうしてシャノンの性質もわかるくらいまで交流してきたのに、何もしてこなかったことがどうしても気にかかった。

 違和感がずっと拭えないままだが、それを知るためにもシャノンのそばにいるのが一番だ。


「もう逃す気はないし?」


 脳内は『逃すな』とそればかりを告げてくる。

 心が絶対だと訴えてくる。

 もう一歩も引いては捕まえられない。そんな気がして、ウィルフレッドは心の赴くままにシャノンを捕まえることにした。


 それから、ウィルフレッドはシャノンに会いに積極的に店へと通った。

 仕事の邪魔はしない。それを徹底しているからか、シャノンは追い出すようなことはしない。


 彼女の大事なラインさえ無遠慮に踏み込まなければ、優しいので許容してくれる。

 今も作業しながらも、ときおりこちらを意識しているのが伝わってくる。

 もうすぐこの状況に我慢できなくなり、シャノンは動くはずだ。ほら、視線が合った。


 嬉しくて笑みを浮かべると、溜め息をつかれる。

 それでも話してくれるのだから、やっぱり自分のよく知るシャノンだと愛しさが増して、一緒にいれることの喜びを噛みしめる。


 だが、満たされたと感じた瞬間にまたさらに欲しくなる。

 それの繰り返しで際限がない。

 落ち着くのに、もっともっと刻み付け捕まえておかないとまた(・・)逃げられる。


「ねえ、なんでそうなったと思う?」


 どうして落ち着かなくなったのかと質問したけれど、本当はもうそんなことはどうでもいい。

 ただ、シャノンが欲しかった。これ以上、離れることは許されない。

 理由なんて考えたところで、することは、したいことは変わらない。

 硬直しているシャノンの手を掴み、ウィルフレッドは笑みを刻んでじっとシャノンを見つめた。


「――それは……、どうして、でしょうか?」


 ものすごく動揺しているのが伝わってくる。

 これも釈然としない。


 嫌われていない。だけど、距離を開けようとする。

 そして、何か確かめるようにじっとこちらを見ることもあり、シャノンに何か隠し事があるのではないかと思った。


 そして、それは自分の抱える違和感と関係する。そんな気がした。

 これまでウィルフレッドは落ち着かないことを、シャノンといたいことをずっとシャノンに訴えてきた。


 不調を訴える者、そしてもし自分のこの状態がシャノンと関係し、シャノンもその自覚があるならば絶対に見捨てることはできないはずだ。

 シャノンを手に入れるためには、このままの関係では何も進まない。そろそろ店主と騎士の関係を変えなければ進まない。


 慎重に、逃げられないように。だが、シャノンの考える間を与えず時には大胆に。

 全力で落とすと決めたからには、できることはなんでもする。


「薬を取り扱う商いをしている身として、助けになれることがあるかもしれません」


 シャノンのその申し出に歓喜した。


「本当に?」

「はい」


 そこでウィルフレッドは片手を口に当てた。表情管理ができそうにない。

 しっかりプライベートで付き合う必要があると念を押し、距離を開けようとするのも全力で止める。

 カウンセリングと言うのなら、しっかり付き合ってもらおうと逃げ道を潰していく。


 ――シャノンも俺のことしか考えられなくなればいい。


 誰にもシャノンのしたいことを邪魔はさせないし、異性として近づいていいのは自分だけ。

 気づいた時には逃げられないほど、どろどろに甘やかそう。


 白い肌に真っ赤な髪と神秘的なオレンジの瞳。そして、ふっくらとした柔らかそうな唇に視線がいく。

 今すぐ抱きしめたい衝動を抑えながら、ウィルフレッドはもう逃がさないとシャノンを見つめた。



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