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魔女の末裔と偽りの恋~忘れ薬と嘘~  作者: 橋本彩里
第五章 誤算だらけの日常

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30.誤算


 またもや見つめ合う。

 譲る気はないと視線が雄弁に語りかけてきて、ふっ、と息をついた。


 穏やかで余裕のある人だったが、今は本当に子供っぽい。

 近い距離は恋人だった時期を思い出すから複雑な気持ちになるが、今は違いのほうに目がいくためそこまで感傷的にならなかった。


「お手伝いはします。ただ、この体勢は話しにくいので離していただけますか?」

「俺は気にしない」


 今のウィルフレッドと期限のことについて触れても平行線なので、手伝うことだけは明言する。

 とりあえず体勢をなんとかしようと要望を伝えるが、呆気なく却下された。


「気にしてください」

「まあまあ。それでほかには?」

「ほか、ですか?」


 あまりにも軽く流され、ついその言葉に釣られてしまう。


「もう少し年齢が上の人とか?」


 体勢が気になりつつも、首を傾けてウィルフレッドを見上げた。

 何が聞きたいのかわからない。


 ウィルフレッドの顔はとても真剣なので再度考えてみるが、そもそも個人的に異性と親しいと言える関係を築いたのは、ガブリエル以外だと目の前のウィルフレッドくらいだ。

 ましてやガブリエルより年上となると、全く見当もつかない。


 首を振ると、ウィルフレッドはじっと私の真意を見透かすように見下ろした。

 しばらく無言で見つめ合い、まったく動く気配のないウィルフレッドにこちらから訊ねる。


「それを聞く理由は?」

「もちろんずっとそばにいる女性の異性関係は知っておかないと。あと、災厄を取り除くため。場合によってはシャノンにも降りかかる可能性もあるので」

「災厄?」


 ますます意味がわからない。

 わからないが、やっとウィルフレッドの任務と関わるかもしれない言葉が出たのは確かだ。

 ここから魔女の知識にどう結び付くのかはまだ見えないが、ウィルフレッドも本腰を入れるつもりになったようだ。


「そう文字通り災いだね」

「わかっているなら、なぜ対処しないのですか?」


 そんな大変なことが待ち受けているなら、こんなに悠長にしていていいのか。

 知識が必要なら、率直に国の命として私に聞くほうが全うだ。

 門外不出の知識以外ならば、内容によっては協力だってできる。


 だけど、過去、ウィルフレッドは目的を隠したまま付き合い引き出すことを選んだ。

 いったい災厄とは何なのか。それと私の知識がどう関わっているのか。


「簡単に対処できたらこちらも苦労しないよ。こちらでは予測できなから災いなんだ。まあ、それも大事だけど今は俺たちのことだよ、シャノン」

「私たちのことですか?」


 任務よりも自分たちのことを優先しようとするウィルフレッド。

 任務のために私に近づいてきたのに、今は自然と話せるタイミングだったはずなのに、どうして自分から話題を変えるのか。


「そう。前は抑えられないことはなかったのに、狂おしいほどシャノンのことばかり気になって仕方がない。それを一緒に考えてくれると嬉しい」


 くいっと顎を上げられ目の前まで顔が近づき、別れを告げもう二度と触れることのないと思っていた唇が、触れそうで触れないぎりぎりのところで止まる。


「考えますが、難題、ですね」


 口を開けると、わずかに触れる感触。

 それに気づいているはずなのに、ウィルレッドは何も言わない。顔を逸らそうにも、後ろから頭に手を回されどうにもできない。

 すぐにウィルフレッドは少し距離を取ったのでそのことに言及もできず、続く彼の言葉を聞いた。


「そうかな? シャノンがいればすべて解決すると俺は思っているよ。シャノンさえいればね」


 日に日に、そして話せば話すほどその言動に重みが増していく。

 笑顔を浮かべ見ているだけ、それだけなのに言葉とともに私を捉えようと視線が絡みつく。


 先ほどから脳内に警鐘が鳴り響く。

 なぜ、こんなにも不安になるのか。ウィルフレッドから明らかな執着を感じる。


「……っ」


 何か答えなければと思うけれど、はくっと息が漏れただけで口から言葉が出ない。

 ここで思考を停止させたら何も変わらないと、ウィルフレッドと視線を合わせたまま思考を回転させた。


 私を呑み込もうとする熱に圧倒されそうになる。

 あまりにも持っている性質が以前と違うが、人は一か月そこらでそう簡単に変わらない。どんな薬も補助するためのもので、本質を変えるものではない。


 なら、なぜこのようなことが起きているのか。

 そこでまで考え、はっとする。


 ――もしかしたら忘れ薬がウィルフレッドの持つ何かが反応して、私が関わることでウィルフレッドの記憶が刺激されている?


 忘れるという過程で、ウィルフレッドの奥深くに沈めている“何か”を刺激した。

 私は任務の対象者でもあったから、何らかの形で執着に変わったということはないだろうか。


 ただ、忘れてもらいたかっただけ。それだけなのに自体がややこしくなっていく。

 なかったことにしたかったのに、それで心身ともに平穏が取り戻せると思っていたのに、これは完全に誤算だ。


「これでも自分なりに頑張ったんだけど、もう我慢できない」


 思考に囚われていると、顔が移動し低く唸るように耳元でささやかれた。

 耳をくすぐるように触れ、再び顔が目の前にくる。


 薄い水色の瞳には私だけが映っており、そのまま囚われてしまいそうでつぅっと冷や汗が背中を伝う。

 新たな不安の火種とともにあらゆる感情がこみ上げ、迫る気配に緊張で眦が熱くなった。


「ウィルフレッドさん……」

「泣かないで。何もかも捨てて奪いたくなるから」


 優しく目元を拭われ、次の瞬間には唇を奪われていた。



ここまでお付き合いありがとうございます。

毎日のお付き合いや、評価やリアクション、本当に励みをいただいてます!!


次はウィルフレッドsideとなります。

本編終了後に番外編としていれるかなぁくらいに思っていたのですが、ウィルフレッドの熱がものすご~く溜まっており急遽ここに入れることにしました。

私が彼の思惑や本心をそろそろ見てほしいというのもあり(笑)

そのためどの部分や時期をどう曝け出させるか考えながらになりますので、更新ペースが若干落ちます。

今後今作は更新する際は20時30分に統一しますので、それを目安にこれからもお付き合いいただけたら幸いです(*- -)(*_ _)ペコリ

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