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魔女の末裔と偽りの恋~忘れ薬と嘘~  作者: 橋本彩里
第五章 誤算だらけの日常

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29.混乱


 でしたら?

 ずっと?


 うっそりと笑むウィルフレッドを呆然と見つめると、ウィルフレッドは私の頬を愛おしそうに撫でた。


「驚いている顔も可愛い」

「……っ」


 思考をフル回転させるが、何が起こっているのか理解できない。

 混乱している間も、ウィルフレッドは撫でていた頬から手を滑らせていく。唇に触れるか触れないかのぎりぎりのところを撫で、親指できゅっと私の口角を上げた。


「シャノンは嘘をつかないですよね? ちゃんとこの耳で聞いたので、一緒にいることを許してくれて嬉しいです」

「ちょっと待ってください。どういう意味ですか?」


 また指が頬へとすべっていき顔にかかった髪をどけると、じっと覗き込んでくる。

 さらさらと金の髪がなびき、はて? とばかりにウィルフレッドは首を傾げた。

 いやいやいやいや。こちらが首を傾げたい。


「何が?」

「一緒とか、ずっと、とか……」


 聞き間違いであってほしい。

 片腕は離されたもののもう片方はいまだ掴まれたまま、覆い被された状態では身動きが取れない。

 話せば息がかかりそうな距離で、ウィルフレッドはまじまじと私を見つめ、なるほどと頷き不思議な微笑を浮かべた。


「――ああ、それは一生俺のそばにいてくださいという意味です」


 言い直され、さらに重い言葉が返ってくる。


「いっ、しょう、ですか」


 さらに混乱する。

 ウィルフレッドは目的があって私に近づいてきたはずで、それも急かされていて期限がある様子だった。

 だから、通われるような関係はその期限がどれほどのものかわからないが、限定的なもの、いつかは必ず終わることが私の心のゆとりでもあった。


 ――それが一生なんて、いったい何がしたいの?


 想定外すぎて当初の意気込みが萎んでいく。


「はい。俺の不安に付き合ってくれるということはそういうことですよね? やっと俺から親しく接する理由ができて嬉しいです」


 ふふふっと笑うウィルフレッドは、微笑んでいるのにその笑顔はどこかほの暗さがつきまとう。


「えっ、ちょっと意味が……。どうしてそうなるのですか?」

「どうしても何も、俺の不安をなくすならシャノンがずっとそばにいてくれたら解決だから」


 ものすごくいい笑顔で当然のことのように告げられ、唖然とする。


「だから、それは」

「それでシャノンに聞きたいことがあるのだけど」


 しっ、と唇の前で薬指を立て反論を制される。

 言いたいことはあるが体勢が不利なこともあり、まずは相手の言い分を聞いた方がよさそうだと小さく頷いた。


「この部屋だけど、こうやって誰彼構わず男を通しているの?」

「男って。仕事の関係でしたら年齢性別は関係ありませんので」


 そう告げると、ぶわっとウィルフレッドから重い空気が放たれる。


「か弱い女性ですよ。危なくないですか?」

「もちろん相手は選んでいますし、それなりの対策をしています。これでも魔法を使えますので」


 びくっと身体を震わせながら慌てて告げると、ウィルフレッドは一息ついて穏やかな笑顔を浮かべた。


「そうでしたね。わかりました。なら、個人的には?」

「個人的に? ちょっと本当に待ってください。先ほどから脈絡がなくて話についていけません」


 あと、いつまでこのままの体勢なのか。


「全部繋がっていますよ。俺の不安の解消に協力してくれるとおっしゃったのですから答えて。そのための時間ですよね」


 自ら言い出したことでもあるので、それを言われると言い返せない。


 ――うまく、いかないな。


 これまで騙されたのだから主導権を握って、少しくらい相手を慌てさせるようなことをしてみたいが、なかなかこちらのペースに持っていけない。

 譲らない瞳に嘆息し、ここは素直に答えることにする。


「ウィルフレッドさんも知っておられる、ガブリエルくらいですかね」

「彼だけ?」

「はい」


 個人的に親しくしている男性と聞かれ、思い浮かべるのはガブリエルくらいしかいない。

 頷くと、ウィルフレッドは考えるように一度瞼を伏せた。それからゆっくりと身体を離すと同時に、私の背中に腕を回し一緒に身体を起こす。

 そのまま引き寄せられ、上半身がくっつく。


「――そう。ほかには?」


 触れ合う体温に反射的に身体を引こうとしたが、それ以上の力を持ってさらに引き寄せられた。


「シャノン、逃げたらダメだよ」

「ですが、この体勢はいったい……」

「俺の不安解消のためだから。くっついていると落ち着くし、シャノンは解消するまで付き合ってくれるのでしょう?」

「……っ」


 確実に私の言葉が枷となっていた。


「シャノンは優しくて責任感がある方ですから。言ったことは守りますよね?」


 ここで爽やかな笑顔を浮かべるウィルフレッドに対し、私は顔を引ひきつらせた。

 まさかその言葉がここまでウィルフレッドの行動を増長するようなものにもなるとは思わず、早々に後悔した。



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