28.訴え
半ば押し切られる形で、その日の業務終了後にウィルフレッドが再び訪れた。
騎士服から私服に着替えたウィルフレッドは再会した日以降、初めてである。
店ではなく家のほうへと案内する。
ウィルフレッドは恐る恐る一歩足を踏み入れてからは、きょろきょろと興味深げに周囲に視線を走らせながら私の後をついてきた。
「ここに座ってください」
案内したのは、占いをする際に使用する部屋だ。
どちらかといえばプライベート寄りの場所だけれど、こちらのほうが占いをするための環境が整っている。
店のほうで話すかどうか迷ったが、店に明かりがついていると訪ねてくる人がいるかもしれず、落ち着いて話すにはこちらのほうがいいだろうと判断した。
カーテンを引き、プライベート空間と遮断する。まずはリラックスするためにお茶を出した。
「こんな部屋があるんですね」
ウィルフレッドは一口飲むと、ほぉっと息をついた。
「はい。お客様で特別な処方を要する時はここを使用しています」
「あくまで俺は患者ですか?」
「えっ?」
低く唸るような声に目を見張ると、ウィルフレッドが眉間にしわを寄せじとりと睨む。
「仲良くしたいのに、そのつもりで来たのに、この扱いは不服です」
そう言うと、きゅっと口を引き結んだ。
ここ最近このようなやり取りの際にときおりひやりとした空気を放つことはあるが、今はどちらかというと拗ねているようだ。
「店のほうよりはこちらのほうがゆっくりお話しできるかと思ったのですが」
「ゆっくり、ね。わかった。これからよろしく」
含むように私の言葉を繰り返し、にこっと笑みを浮かべるウィルフレッド。
笑顔だが小さく唇が尖っているのであまり納得いっていないようだが、これ以上はどうしようもないので本題に入る。
「それで、何から話しましょうか?」
再会してからのウィルフレッドは余裕のある大人の包容力を見せるというよりは、やはりどこか幼さが見え隠れする。
思い返せば再会時から少し様子がおかしかったと、時間外に会うことになったのを機に改めて真剣に考えた。
彼には目的があるからとその辺りを流してきたが、もし本当に彼が落ち着かない要因が別にあるのだとしたらどうだろうか。
私がいないのに店に通い詰めていたこともあり、情報を引き出すという目的もあるけれど、何かに苛まれているのも事実かもしれない。
なんだか胸のあたりがざわざわとし、どうしても不安が拭えない。
何度も動向を確認し考えをまとめて言い聞かせている自覚もあるが、薬師として、魔女のレシピを使った者として、その原因ははっきりさせなければいけない。そう結論付けた。
「そうだね。シャノンは俺のこのつらい症状を治してくれる?」
「落ち着かないと言っていたことですよね? それに私が関わっているのでしたら、お力になれればとは思います」
見極めるためにもと心の中で付け足し頷くと、ウィルフレッドは少し嬉しそうに私を見た。
にこにこと笑顔を浮かべていたが、ふと苦しそうに眉を寄せた。
「どうしたのですか?」
「こうしているだけで嬉しいのに満たされるのは一瞬だ。少し落ち着いたと思えばまた苦しくなる」
「具体的にどう苦しいのでしょうか?」
ぎゅっと胸を掴み、顔を青ざめさせ身体を丸めるウィルフレッドのそれは演技とは思えない。
駆け寄り背中をさすると、手を引かれそのままソファに押し倒された。
「ウィル、フレッドさん?」
一瞬の出来事だった。
戸惑い見上げると、両手を上にして捉えられる。
身動きを封じられ声を上げようとしたが、くしゃりと顔を歪めたウィルフレッドの表情を見て口を閉じた。
「シャノンが少しでも遠く感じると半身が欠けたような気持ちになる。いなくなってずっと心配で何をやってもまともに手がつけられなかった。見捨てられた、そういった感情がずっと消せない」
「…………」
ウィルフレッドにとっては、私は店の主で任務の対象者。
それだけの相手にそのような気持ちになるのはおかしいが、私を掴む手が震えていのに気づき私は口を挟まなかった。
「やっと帰ってきて毎日顔を見ても、むしろ顔を見れば見るほど空虚が大きくなるようで自分でもどうしていいのかわからない」
悲痛な訴えに瞠目する。
ウィルフレッドの青の瞳には、大きく目を見開き驚いた様子がしっかり捉えられているのが見える。
真正面から捉えられ息をするのも忘れるほど、あまりにもウィルフレッドの双眸はまっすぐだった。
これが演技であったのなら、目的のためであったのならお手上げだ。
だが、訴えているものは嘘ではないと思えた。
騙されたけれど、無暗に人を傷つける人ではない。
スマートさにかけるこの行動自体が、ウィルフレッドが本当に苦しんでいる証拠のような気がして、私は身体の力を抜いた。
「でしたら、少しでもその不安を取り除けるよう頑張りましょう」
これまでのことを考えると、距離を取ろうとするとさらに不安になるのかもしれない。
時期的に忘れ薬が関係していそうだし、いったいウィルフレッドの何に反応したのかはわからないが、まず彼のこの状態を受け入れないと話は進まない。
「俺に付き合ってくれるのですか?」
「ええ。不安が解消するまでお手伝いします」
明かりがついているとはいえ、外は日が沈んでいる。
だけど、まるでお日様がその場の一帯を照らすかのように、ふわぁっと嬉しそうにウィルフレッドが笑みを浮かべる。
あまりにも眩しすぎて思わず見惚れていると、目を細めたウィルフレッドが私の髪をひと房取り口づけ、とんでもないことを口にした。
「ああ、シャノンならそう言ってくれると思っていました。でしたら、ずっと俺のそばにいてくださいね」




