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魔女の末裔と偽りの恋~忘れ薬と嘘~  作者: 橋本彩里
第五章 誤算だらけの日常

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27.誘導


 まずは歩み寄りの姿勢を見せるため、謝罪を口にする。


「それは、すみません」


 これまでの私の対応を思えば、否定することも肯定することもできない。

 そう言われてしまうのもわかるため私は曖昧に笑みを浮かべると、きゅっと私の手を握り直したウィルフレッドが真意を探るようにじっと見つめながら問うてくる。


「先にはっきりさせておきたいことがあるのだけど」

「なんでしょうか?」

「これまでのシャノンは俺とあまり親しくなりたくないようだった。今後のためにもその理由は教えてほしい」


 隠していなかったから仕方がないとはいえはっきりと指摘され、ははっと苦笑する。


「それはウィルフレッドさんだからではなく、騎士様と仲良くなっても私には利点がないからです」

「利点?」


 笑みが深くなるが、その目が笑っていない。

 私は慌てて言葉を重ねた。


 どうやら突き放しすぎると機嫌が悪くなるようで、私の知る優しいだけの彼とは違うことをもう一度頭に叩き込む。

 方向転換すると決めたのだから、今度はこちらから寄り添わないと引き出すものも引き出せない。


「聞いてください。ウィルフレッドさんもおっしゃっていたじゃないですか。私は目立つことが苦手なんです。王都の騎士様と親しくし、万が一それで因縁をつけられるようなことになるのは嫌なので」


 先ほど、通う場所にほかの店を勧めたのにも理由がある。

 実際に偵察と思われる人たちが、店を再開してから何度か足を運んできた。

 今のところ彼らは見ていくだけであるが、大きな商店と個人経営の小さな店でトラブルが起きた時にこちらが不利なのは考えるまでもない。


 常連客の話によれば、私がいなかった一か月と少し、ウィルフレッドは足しげく店にやってきていたそうだ。

 王都の騎士がこれほどまでに気にかける、そして出入りしているのは何かあるのではと気が気ではなく、もしかしたら大きな契約があるのかもと思われているのかもしれない。


「因縁? まさかよくわからない輩に絡まれているのですか?」


 低い声が返ってくる。

 ウィルフレッドの言葉は心配するもので、決して私を責めているわけではないのに、妙な圧を感じ私は大きく首を振った。


「例えばの話です」


 反応してほしいところはそこではない。

 心臓に悪い人だなと視線を向けると、ウィルフレッドがほっと息をつき、柔らかな笑みを浮かべた。


「そうですか――。理由を聞けてよかったです。もし、何かあれ絶対に話してください。俺が必ず守ります。それで話の続きですが、どのように俺のことを知っていってくださるつもりですか?」

「えっ?」


 気配に気を張っている間に、次の展開になっていて思考が追い付かない。

 瞬きを繰り返していると、ウィルフレッドがとろけるような甘い瞳で私を見つめた。その瞳には期待が存分に浮かんでいる。


「だって、俺のことを知らないと原因を追究できないですよね? その具体的な案をぜひともシャノンの口から聞きたいと思って」

「先ほど伝えたかと思うのですが、お話しする機会を増やす、それが提案です」


 これ以上何が必要なのか。

 私が話す間も熱のこもった瞳は外されず、返す声はわずかに上擦った。


「でも、それだけじゃ足りない」

「足りない?」

「はい。俺はシャノンに迷惑をかけたくなくて、でも会いたくてここに通ってきた。これ以上のことはシャノンの許しがないとどうしていいのかわからないので、シャノンの口から言っていただけたら俺もそれに合わせて動ける」


 そういう話、なのかな?

 話はそう飛んでいないのに、考えることが多すぎて思考がまとまりにくい。

 ウィルフレッドの言い分も筋が通っているため、それでこのどっちつかずの関係に終止符を打てるのならばいいかと、今考えつくことを伝える。


「でしたら、互いに仕事が終わってからお話しするのはどうでしょうか?」

「いいのですか?」

「カウンセリングのようなことを仕事上することもあるので」


 接する時間が多ければ多いほど、ウィルフレッドの状態を正確に把握し問題があれば対処できるし、今度こそ関係を終わらせるための道筋もできるはずだ。

 ウィルフレッドが動かないのなら、症状を知るためといって目的を聞き出すことも可能だろう。


「カウンセリング、ね」

「問題が?」

「いえ。カウンセリングだったら二人きり。それなら俺も賛成です。俺のことをたっぷり知って、俺の不調の原因を突き止めてください。撤回はなしですから」


 一瞬目を眇めたそこには陰りが見えた気がしたが、愛しい恋人に向けるような柔らかな笑みにすり替わっていた。

 その笑顔と言葉に、さっそく不安になる。


 ――まさかこうなるように誘導された?


 いや、それこそまさかだ。

 そう思うけれど、自分で考えて話しているのにどこか地に足がつかない感じが付きまとう。

 でも、言葉で念押しされたので今更撤回はできない。できない空気がひしひしと伝わる。


 ゆっくりと目をつぶる。

 まだ手は握られたままで、痛くはないが決して放すつもりはないとその力強さが伝えてくる。

 ウィルフレッドもまた本気なのだ。


 意図的なのか、そうでないのか。

 忘れ薬に問題があるのか、イレギュラーが起こったのか、どこまでがウィルフレッドの思惑通りなのか。

 結局はこれまで避けていたので、私には推し量ることはできない。


 どちらであれ確認は必要で、終わらせるためにはもはや逃げることはできない。

 これは、どちらがより自分の陣地でやりやすいよう情報を引き出し終わらせるかの勝負だ。


 そう思っていた。

 だが、すぐさまこの決断を後悔することになるとは、この時の私は思ってもいなかった。



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