2.眩しい人
およそ一年前、ウィルフレッドと出会ったのは、頻繁に店に顔を出していた常連客がしばらく家を空けると旅立ってから一か月後のことだった。
両親が亡くなった後、彼はあれこれと気遣い顔を出してくれていたが、どうしても外せない用事が長期間入ったようだ。
私をひとりにするのが心配だと、こちらがもういいよと宥めるほど大袈裟な挨拶を受けながら見送った。
それからしばらくして訪れた新たな存在は、ちょっとした寂しさを埋めてくれるものだった。
熱心に通ってくれる新たな常連ができて嬉しいなくらいの気持ちで、いつもウィルフレッドを出迎えていた。
ウィルフレッドが来るときは店の空気が変わる。
藍色の生地に銀のラインと装飾が施された騎士の制服と黒いマントを羽織った姿は、ウィルフレッドに誂えられたようにとても似合っていた。
背筋が伸び自信に満ち溢れた姿は狭い店の中では高身長の彼はさらに大きく見え、自分とは違う世界に生きている人だと感じた。
異性として意識するのは烏滸がましく思えるほど、ウィルフレッドはものすごく眩しい場所にいる人だった。
王都の騎士という人気職につける実力と、輝くような金の髪に透き通った水色の瞳は眩しくて、童話の中に出てくる王子様のようだった。
もともと興味がなかったこともあり、好意を持つこともなく付き合いたいなどと考えたこともなかった。
――お日様を背負ったみたいな人。
ウィルフレッドの第一印象は、綺麗なものを見て感心するようなそんな類いのものだった。
店に来るときはいつも笑顔を浮かべ、誠実で、友好的に話しかけてくる。
ウィルフレッドは距離の取り方が抜群で、面倒くささと警戒心で最初は距離をとる私に無理に詰めずにゆっくりと共通点を増やし、気づけば私は笑顔で話すようになっていた。
積極的だけれど絶妙な距離感を保ち、ぐいぐいくることはなく、おしゃべりだ、煩いなど思ったこともなかった。
店の中まで太陽を連れてきてくれたようなウィルフレッドとのちょっとした時間は、つられるように笑顔になり明るい気持ちになるものだった。
ぽかぽかと太陽のような人のそばは、たった一時だけのことでもその日はずっと心が温かくなった。
彼の訪れを、私はいつしか楽しみにするようになっていた。
ウィルフレッドが商品を選んで、私が包み、お金のやり取りをしているだけの時間。
たったそれだけの時であったが、出迎えてからお見送りをするまで終始私は自然と笑顔を浮かべていた。
ウィルフレッドが店に来るようになり一か月が経った頃。
薬の効果が出てきたのか、店で取り扱う物を信用することができたためか、話しかけてくる内容が多岐にわたりその時間も増えた。
「シャノン。前回の薬はとても効果があったよ。夜もしっかり寝つけるようになって、随分と気力が増した」
「それはよかったです。もうしばらく続けて、徐々に量を減らしていってください。身体に害がある物は入っていませんが、人によって体質も違い効果も変わりますし、頼らないでいいのならそれに越したことはないので」
「ああ。わかった。ありがとう。この機会にもっと売りつけてもいいのに、シャノンは誠実だな」
そこでウィルフレッドはじっと私を見つめた。
彼はよく私を褒める。その上今は眩しそうに目を細められ、くすぐったくて仕方がない。
目線を外すに外せず、さらに覗き込むように見つめてくるウィルフレッドの視線を受け止める。
「ただ、私は日々の助けになる物を作りたいだけなので」
「その辺の売っている物より効果がある。周囲にも勧めたいところだけど、教えたら人がわんさかやって来て店が回らないだろうから、本当に必要とするヤツにだけにこそっと教えるようにするよ」
「ありがとうございます」
たくさん人が来るとは思えないが、万が一増えた場合、作れる量は限られているので店が回らなくなるのは困る。
私は今みたいに細々とするのが性に合っているので、この店の状態と私の性格を見てそう言ってくれるのだろうと素直に礼を述べた。
それに作った薬を褒められるのは、魔女の知識、先祖が守ってきたものを褒められているようで誇らしい。
嬉しくて顔がつい綻んでしまい、それを見たウィルフレッドはさらに目を細めた。




