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魔女の末裔と偽りの恋~忘れ薬と嘘~  作者: 橋本彩里
第五章 誤算だらけの日常

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25.異様な静けさ


 店の隅にある作業テーブルの前に座り、薬を小分けしながらこっそりと息を吐き出した。

 もくもくとこなしていたが、もはやここ最近定番となりつつある視線の圧に耐え切れず作業を中断する。その間も、視線はいっこうに外されることはない。


 壁に背を預けながらこちらを見ているウィルフレッドに、私は静かに顔を向けた。

 ばちっ、と視線が合う。


「終わりましたか?」

 

 途端、ぱぁっと顔を輝かせ颯爽とウィルフレッドが駆け寄ってくる。

 まるで『待て』を命じられた大型犬が飼い主に許しを得て盛大に喜ぶ姿に、はぁと大きく溜め息を吐き出した。


「毎日代わり映えしない地味な作業だと思いますが、見ていて飽きないですか?」

「ええ、まったく飽きません」


 即答とともに、視線は作業していた手元ではなく私をまっすぐに捉えてくる。

 あれから少しでも時間があれば店に顔を出すようになったウィルフレッドは、まるで過去の付き合う前のよう、いや、それよりもかなり積極的に私の前に現れた。


 彼には私から情報を引き出す目的がある。

 時間があまりないと言っていたので、時間が押しているのかもしれないと最初は思っていたが、情報を引き出そうとする様子はない。


 ただ、見ているだけ。邪魔はしない。

 でも、少しでも私が作業を止めると嬉しそうに話しかけてくる。

 再会当初の仲良くなりたいといった言葉を有限実行するかのように、自分の存在をアピールし、友好的に接してくるだけ。

 その、だけ(・・)が非常に厄介であった。


「そんなに見たいなら、王都で一番有名なお店に行かれたらどうですか? ここに来るまでの時間も省ける分、長く見られると思いますが」


 こんな街の端っこにある小さな店に通わなくても、商会が運営する店で見ればいい。騎士であるウィルフレッドなら、相手側も歓迎してくれるだろう。

 むしろそうしてほしいと提案するが、ふるふるとウィルフレッドは首を振った。


「それは違う。俺はシャノンだから見ていたいんだ」


 その言葉に瞼を伏せる。

 たった数分のために店に顔を出すこともあり、ここまでくると異様だ。決して商いの邪魔をすることはないが、とにかくその存在が、視線が、うるさすぎた。


 そう答えることも想像はついていたが、再会してからのウィルフレッドの行動が読めない。

 接触を図りにくることは想定内だったのでそこまで違いすぎるわけでもないが、その違いは私の中で比重を大きくしていく。


「またエーリックさんに怒られますよ」

「あいつも了承済みだ」

「前にこちらに来られた時はかなり怒っておられましたが」


 三日前、エーリックは店の扉を開け並行一番に「おい、ウィルフレッド! 毎日毎日、少しの隙をついてこんなところまで。捜しにくる身にもなれよ」と肩で息をしながら叫んでいた。

 ウィルフレッドを視界に捉えると睨みつけていたが、かなり走り回ったのか叫んだ後は両手を膝につけかなりしんどそうであった。


 だが、当の本人は「休憩時間を使っているだけだから問題ない」と涼しい顔で意にも介していなかった。

 その言葉に、「問題あるから俺が捜しに来たんだろうが」とエーリックが切れた。


 そこから店で言い合いが始まったため、ほかのお客さんの迷惑にもなるから外でやって、ついでに帰ってくれと追い出した。

 その後のことは聞いていないが、こうして変わらず来ている時点でどちらの意見が通ったのかは察しがつく。


「説得した」


 そこでウィルフレッドは片頬を上げ、とっくりと私を眺めた。

 妙に意味深な仕草はここ最近のそれで、爽やかで優しい完璧な騎士様で偽だったけど恋人だった人とは違うそれ。


 薬は効いているはずだが、たまに本当に記憶を忘れているのかと疑うような仕草。

 話す内容や動き方で忘れ薬の効果を確信するのに、接すれば接するほどどうしても“そう”と言い切れない。


 ――なんだろう。視線、かな。


 優しげで爽やかな笑み。

 こちらを見る眼差しに嫌悪はない。むしろ、言動通り友好的である。


 だが、焦りのようなものが見える。

 情報収集ができないからかと考えるのは普通だが、そもそもその探りを入れてこないのだから、何がしたいのかわからない。


 もしくは知らない間にされている可能性もあるが、再会してからの会話を思い返してみても、世間話や私が何を好きなのかなど、魔女の知識に関することで質問をされたことがない。

 ちらっと視線をやると、にこっと笑みを浮かべるウィルフレッドは私の返答をじっと待っていた。


「…………私は、見られるとやりにくいのですが」

「でも、俺もシャノンを毎日見ないと落ち着かなくて」

「そうですか」


 前もそのようなことを話していたなと、ウィルフレッドはいったいどうしたいのかを考える。

 魔女の知識のことに踏み込んでこないのに、通ってくる意図は何か。


 私が気づかないだけで、大事なものを見逃しているのだろうか。

 そんな考えに没頭しながら相槌を打つと、ウィルフレッドがテーブルをとんと指で叩いた。


 一瞬にして場が冷え、そんなに強く叩いたわけでもないのにその音はやけに響く。

 はっとして顔を上げ、失敗した、そう思った。


「ねえ、なんでそうなったと思う?」


 硬直していると、手を掴まれる。

 うっそりと笑うそれは私の知るウィルフレッドのものとは程遠く、その瞳は獲物を狩るような獰猛さを湛えていた。



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