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魔女の末裔と偽りの恋~忘れ薬と嘘~  作者: 橋本彩里
第四章 偽りの元恋人

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20.早朝の客


 朝日が昇り出したと同時に窓を開けると、早朝の冷たい風が部屋を駆け抜けていく。

 帰宅してからあっとう間に三日が経ち、私はソファでのんべんだらりと寛ぐガブリエルを覗き込んだ。


「ガブ。起きて~」

「んあぁ? もう朝か」


 ふあぁぁとあくびをし、クッションを抱えて再び眠りにつこうとしたので強引にクッションを引き抜く。


「今日から店を開けるから。ガブもそろそろ家に帰ったら?」


 この三日間、ガブリエルは私の作業を手伝ってくれた。

 正直、誰にも捉われず自由人なわりに面倒見のいいガブリエルの申し出は魅力的でついつい甘えてしまったが、そろそろ日常に戻らなければならない。

 魔法に長けたガブリエルのおかげで作業もはかどり、いつでも店を再開できる。


「嫌だ~。今日から俺はここに住む」

「ダメ! ガブにもガブの生活があるでしょ?」

「まあ、そうだな。じゃ、俺もそろそろ動くか」


 がしがしと頭をかきながらよっこいしょと身体を起こし、とんとんと腰を叩くとそのまますたすたと歩きだした。さっきまで駄々をこねていたのにこれである。

 それもガブリエルらしくて見送っていると、店のほうのドアを開けて「おっ」とガブリエルが声を上げた。


「シャノン。さっそくお客さんだ」

「えっ? こんな朝早くに?」


 まだ朝の六時である。

 驚いた声を出すと、ガブリエルはちらりと来客がいるほうへと視線をやり、ふ~んと意味深な声を上げた。


「まあ、出てやったら? じゃ、俺は一度家に帰るわ。また来る」


 ひらひらと軽く手を振り、あっさりと出ていったガブリエルの姿を見送り苦笑する。両親がいる時から世話になっているが、いまだに掴めない人だ。

 それよりも来客だと、私は扉からひょこっと顔を出した。


「――……ひっ」


 思わず悲鳴が出て、慌てて口元を押さえる。

 そこには目の下にくまを作った、明らかに寝不足ですといった顔をしたウィルフレッドが立っていた。

 しかも、腕を組んでガブリエルの後姿を射殺さんばかりの鋭い眼差しを向けている。


 私に気づいたウィルフレッドはぱっとこちらを向くと、顔色は悪いまでも爽やかな笑顔を浮かべる。

 そろそろと口から手を離し、私の前へとやってきたウィルフレッドを見上げた。


「邪魔したかな?」

「いえ。――その、いつからそこに?」


 顔色は悪くても見惚れるほどの美形だが、柔らかな空気が減り鋭さが増した気がするのはさっきの双眸を見たからか。

 それくらい私の知る彼らしくないもので、衝撃的だった。


 任務があるウィルフレッドと対峙することにはなるだろうと、心の準備とそれなりのシミュレーションはしてきた。

 だが、私の知る彼は、こんな早朝に訊ねて来るような非常識な行動も、あんな鋭い目つきをするような人物でもない。


「いたら困る?」

「困るというか、朝も早いので驚いて」

「あの男は泊まっていたのに?」


 目を細め表情は穏やかそうに見えるが、目が、口調が、相反する。

 まるで責められているように感じるが、すでに恋人でもなく、ましてや騙して近づいてきた人に言及される(いわ)れはない。


「……それで、この時間になんの御用でしょうか?」


 ウィルフレッドに説明する義理はないと触れずに用件を訊ねると、ウィルフレッドは軽く手を握り気持ちを落ち着かせるように大きく息を吐き出した。


「三日後ここに来る約束をしていましたよね?」

「約束というか……。――いつからそこに?」


 確かに三日後とは言ったが、あれを約束というのだろうか。

 甘く優しい姿しか見てこなかったので、先ほどの眼光は脳裏にこびりついて離れない。

 自分の知るウィルフレッドとどこか違う気がしてついまじまじと顔を見ていると、ウィルフレッドは小さく首を傾げた。


 さらりと金の髪が頬にかかるが、よく見るとその頬は一か月前よりこけており唇も青い。

 いったいいつからそこにいたのかと眉を寄せると、ウィルフレッドはさらりと告げた。


「眠れなくて。夜からここでずっと待ってた」

「待つにしても……、えっ? 夜から?」

「ああ。落ち着かなくて」

「だとしても……」


 厳しい冬が終わりを迎え春の気配が漂うようになったとはいえ、朝晩はかなり冷える。

 確かに三日後に来るとは言っていたが、これは予想をはるかに超えている。


 無計画すぎると顔をしかめると、ウィルフレッドは、くしゅん、とくしゃみをした。

 その顔は青白く、夜からということは少なく見積もっても六時間は待っていたことになる。


 私は、はぁ、と諦めの息を吐き出した。

 頼んだことではないとはいえ、自分が関わることで体調を崩す人が現れるのは薬を売っている者として本意ではない。


「風邪を引くといけません。とりあえず中にどうぞ」


 そう告げると、ウィルフレッドは眉間にしわを寄せて難しそうな顔をした。

 何を思って待っていたのかわからないけれど、こんな寒空の下は私も体調を崩しそうだ。

 だが、じっと私と扉を見たままウィルフレッドは動かない。


「ウィルフレッドさん?」


 再度促すと、ウィルフレッドはおずおずと口を開いた。


「だが、女性の家に」

「店のほうなので問題ありません」


 長時間待っていたわりにいざ促すと躊躇(ためら)いを見せる相手の手を引くと、ウィルフレッドは掴んだ私の手をじっと見ながらゆっくりと私の後についてきた。



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