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魔女の末裔と偽りの恋~忘れ薬と嘘~  作者: 橋本彩里
第二章 惑いと決意

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11.探り


「そうだね。私もウィルのことをもっと知りたい。ウィルは何が知りたいの?」

「何って。そうだな。ひとりでいるときは何を考えているのかとか。俺のことも少しは思い出してくれていたらいいなとか」

「作業の合間に考えることはあるよ。あと、ウィルが来る前日は一緒に何を食べようかと必ず考えるし、いつも喜んでもらえたらいいなって思ってる」


 それで昨日、今日の彼との食事のことを考え買い物をしている時に騙されていることを知ってしまった。


「それは嬉しいな。俺もシャノンのことをよく考えている」

「なら、一緒だね」

「絶対俺のほうが考えていると思うけどね」


 そこで胸を張って、にこっと笑うウィルフレッド。

 よく考えているのは情報のためだよね?

 昨日のことがなければ、単純に喜んでいたと思える話し方とその態度にすっと心が冷えていく。


「それは嬉しいな」


 返す言葉は我ながら棒読みになった。

 昨日のことは幻聴だったのだろうかと思う気持ちはまだあるけれど、思惑を知らなかった私だったらと考えると途端冷静になる。


「信じてない?」


 すると、悲しそうに眉尻を下げたウィルフレッドが指を絡めてくる。

 下から覗き込むように上目遣いで見つめられ、私は小さく首を振った。

 怪しまれたら駄目なのだともう一度言い聞かせ、笑顔を浮かべ絡められた手をじっと見る。


「ううん。信じてるよ。いつも会いに来てくれるし、仕事も忙しいのに私のところによく顔を出してもらって感謝している。時々、付き合いは大丈夫なのかなと心配になるくらいだけど」

「友人と飲みに行ったりもしているから。でも、俺の一番の楽しみはシャノンと一緒に過ごすことだから、シャノンが心配するようなことじゃないよ。むしろ、もっと一緒にいたいくらい。シャノンの仕事が忙しいからこれでも遠慮しているんだよ」


 すべての言葉が情報のためであると聞こえきて、心に響かない。


「そっか。薬草や薬の管理でなかなか時間取れなくてごめんね」


 もう少しお金を貯めればいい魔石を買え、温度管理も頻繁にしなくて済む。

 そうすればもっと時間が自由になるのだが、私はそのことには触れなかった。


「いや。俺にもっと知識があれば手伝えるのだけど」

「合わせてくれるだけで十分だよ。ほかに知りたいことはない?」


 この際だから聞いてよと、私は直接訊ねた。

 すると、ウィルフレッドはうーんと一瞬考えるように視線を遠くにやり、それから私に目線を合わせると真剣な口調で告げた。


「そうだな。シャノンの交友関係をできればもう少し知っておきたい」

「交友関係?」


 引きこもりがちの魔女の末裔の?

 それを知って何になるのだろうか。


「俺がいない時、誰と何を話しているのか気になっている。シャノンは意外と知り合いが多いから。この間も、宰相の奥様と鉢合わせしてびっくりした」

「ああ~、そういうこともあったね。むしろ、ウィルが奥様を知っていたことのほうが驚きだけど」


 表向き薬を買いきたていで(実際に購入もしてもらうのだが)、宰相の奥様は占いの顧客である。

 たまたま店先で薬を渡していた時に、ウィルフレッドがやってきた。


 その時、ウィルフレッドは私に会いにではなく薬を購入しにきたと奥様に話していた。

 私が目立つことが嫌だといっていたから、顧客にはプライベートな部分を言わないのだと思っていたが、国の中枢にいる人物に関係を知られたくなかったのだろう。


「俺は仕事上出会うことがあっただけだ」

「それなら私もそうだよ」

「そうだが、シャノンはそういったことを全く話さないから」


 やっと来たな、と思った。

 やはり先ほどは円滑に話を進めるための提案で、実際は私の仕事関係の話をしたいのだろう。

 私もウィルフレッドが具体的に何の情報を得たいのか知りたいため、その話題に乗ることにする。


「仕事柄、こっそり通ってくる人もいるから。基本、どんなお客様が来てどのような処方しているのかは、私からは話さないようにしている。でも、宰相の奥様を知っている時点でウィルも交友関係が広いでしょ? 仕事関係はあまり言えないこともあるよね?」


 私の仕事で言えば、病状を人に知られたくない人もいるし、占いの仕事は守秘義務があるため話せることは少ない。

 それきりの客もいるが、その後常連になり付き合いが続いている人もいる。


 そのため、出不精の割に意外な知り合いは多いかもしれない。

 だが、ウィルフレッドに比べれば私の交友関係なんて限られている。そのことを告げると、ウィルフレッドは爽やかに肩を竦めた。


「騎士の仕事上確かに多いが、意外性はシャノンのほうが勝っているだろう」

「そうかな――。ウィルも知っていると思うけど、私は一般的にどうだとかそういうのは疎いから」

「シャノンはそのままでいいよ。ほかなんて知らなくていい」


 限定的な狭い世界で成り立つ情報なら、ウィルフレッドとの関係の違和感に気づかない。

 だから、知らなくてもいいと言いたいのだろうか。


「知らなくてって、知識は多いほうがいいよね? 私は世間知らずのほうがいいって言いたいの?」

「いや、違う。……なんていうか、魔女の末裔として誇りをもって仕事をしているシャノンが好きだ。だから、無理をして社交的にならなくてもという意味で」

「そう」


 ウィルフレッドの様子をじっと見つめると、そっと彼は視線を逸らした。



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