弟子と師匠とその娘
僕はある格闘技道場に通っていた。
なんの事はないクラスメイトだった娘への恋愛感情が発端だ。
道場主の娘でもあるその子目当てで5人のクラスメイトが入門したが3人はすぐに辞めてしまった。
小学生の夏の事である。
元からあまり子供向けの道場ではない。
そもそも道場主としても娘の学友をからかっただけであり、月謝等も払っていない。
一応夏休みの体験入門扱いで本当に入門するのかは両親と良く相談するように言われる。
大人よりは安いとはいえ、月謝も必要であり試合に出るともなると道具類も必要になるだろう。
5人中2人だけが正式に入門となった。
僕たちはまだまだ初恋のあの子にも勝てない。
師匠は僕たちの恋心には気づいている。
僕とあの子とライバルの中で僕は一番弱かった。
僕とライバルは道場を離れたら友人同士
ライバルがいう。
「先生がさ、俺が20歳になって、大人の出る全国大会で優勝したらあきちゃんと結婚していいってさ。日本一なんて無理だよな」と言っていた。今なら子供をからかった半分冗談の発言だとわかる。それでも半分は本気かもしれない。
けれど師匠は「本気で頑張っても無理な事をそれでも頑張って乗り越えてこそ楽しいんだ」
と良く言っていた。
師匠がはじめてその言葉を言った時、師匠は僕に僕のライバルと同じように、あきちゃんと結婚をする無理な条件をいわれている。
僕はライバルに「僕も似たような事を言われた。僕は諦めない。」と宣言した。
けれど僕は道場を辞める事になる。
両親の仕事の都合で引っ越しをする事になったのだ。
最後の稽古の日、師匠は僕に
「あの日の約束は覚えているな、お前の引っ越す街には先生の先生がやっている道場がある。そこへの紹介状を渡しておくから訪ねてみるといい。」
僕は男だけれど小学生だから泣いてもいい。
僕は泣きながら皆にお別れを伝える。
師匠の他のお弟子さん、大人達までも僕を見送ってくれた。
それから僕は師匠の紹介してくれた道場に通う。小学生には遠かった街も高校生になる頃には県内の街になりあきちゃんとも恋人同士になれた。
けれどあいつには一度も勝てていない。
実績は近い。高校生の時に僕はあいつと直接対決の無かった時に全国大会で優勝したし、あいつは別の大会で準決勝で僕を破り全国大会で優勝している。
そして今僕たちは一般の部の全国大会の決勝で向かい合う。互いに20歳を迎えてからはじめての全国大会。
勝てばオリンピック出場も決定する。
僕の師匠が僕に言ったあきちゃんとの結婚の条件は自分を超える事だった。
師匠は現役時代、3度オリンピックの候補選手に選ばれたが最初の2度はケガなどが重なり大事な試合を落とし出場出来なかった。けれど年齢的に厳しいと言われた3回目でオリンピック出場、また日本人史上最高の銀メダルを獲得している。
僕が師匠を超えるにはオリンピックで金メダルを取るしかない。僕は絶対に負けられない。
僕はライバルと向かい合う。




