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死期の近い師匠
私は弟子に何も教えて来なかった。
そもそも私には弟子はいなかった。
今日私の子が弟子となった。
私の鋭き眼光は隠れた獲物を容易に見つける。
私がひとたび地を目指せばその速さは音を置き去りにする。
また私の鋭き爪は容易に獲物を引き裂いた。
私は周囲半径15キロを縄張りとする猛禽類であった。
大自然の掟の為に私の伴侶は帰らず、子の為に私が餌を取りに行く。
誰かが私の広大なナワバリ狙ったのだろうか、狩りの最中に何者かにより傷を負わされた。
まだ雪の降りしきる時期、最強の力を持っていても我々の命等、些細な怪我でも脅かされるのだ。
私はもう助からない。
この身体では子の分の餌しか取ることはできない。
私はようやく飛べるようになった子を狩りに誘う。
子の未来に絶対の保証等ない。
誰だってそうだ。
私は無理をしなくとも数日の命。
子に獲物の探し方、獲物の捉え方、獲物運び方、一度づつしか見せられなかった。
私は弟子に何も教えられぬまま、最強の力を持つ私を襲った愚か者との戦いに向かう。
負けて死ぬのか、勝って死ねのか、どちらにしても私のナワバリをおかした愚か者に少なくとも今の私と同じ深さの傷を負わせるのだ。




