第十五話・思いの差 Ⅴ
ガウフ達を牢に入れて、エリーサは執務室で届いた手紙や書類に目を通していた。
その様子を見ていたライアン達(書類を届けに来てた)は、数秒の間をおいて同時に口を開いた。
「「「暗い」」」
ライアン、イウリア、ベレニセの言葉に、エリーサの手が止まる。
マリファとダニエルは沈黙を貫き、壁にもたれているロイは微笑んでいる。
「……別に、殿下は悪くないだろう。というか、あいつらの自業自得だ」
「ライアンの言う通りだな。いい加減にしておけ」
「どんよりしたまんまいられても邪魔だ。とっとと出てけ」
三人の手厳しい言葉に、エリーサがうなだれる。だが、手の動きは再開した。
新しい手紙を開きつつ、ぼそぼそと呟く。
「ここは、私の執務室のはずだが……」
「残念ですが、執務中である以上は出入りがありますので」
言外にうっとうしいとマリファに言われ、エリーサは押し黙る。
ちらり、とイウリアがエリーサの読んでいる手紙を見て、封筒を見る。それに小さく笑って、ロイに視線を向ける。
「書類はあらかた片付いてるんだ。外、行って来い。ただし、城からは出るなよ」
読み終わっただろう頃合いを見計らって手紙を取り上げ、にっこりと笑う。
笑顔なのに、かなりの迫力がある。
運悪く、エリーサと一緒に見ることになったライアンは、思わず二歩後ずさった。
ひきつった笑みを浮かべて言い返そうとするが、それよりも早く、ロイがエリーサの腕をつかんで立たせる。
「気分転換にはちょうど良いだろう」
イウリアと似通った笑顔を浮かべるロイに、エリーサは抵抗しようとする気持ちがなくなった。
どちらも、抵抗しても無駄な気がするし、痛い目に合いそうな気がする。
脱力して肩を落とすエリーサとロイを見送って、イウリアは手紙を一瞥した後、封筒に戻す。
「イウリア殿」
「イウリアで結構ですよ、ノゥダス夫人」
「……何をお考えです?」
「何、とは?」
ピリッ、と空気が痛々しいものになる。
ライアンとダニエルが硬直し、ベレニセは無表情で二人を伺っている。
「この場にいる誰も、ロイ=ベル=サヘイラスが主張することを信じてはいません」
「まぁ、そうでしょうね。怪しいにもほどがあります」
「ですから、殿下のお側近くにあの者がいることを、私は容認致しかねます」
「じゃぁ、何故、反対なさらなかったんです?」
「貴方が提示したからです。イウリア=ハーヴェイ」
初めて、イウリアとマリファの視線が交わる。そして、室内の緊張が増す。
「……貴方は、知っているのでしょう?彼の本来を」
「何故、そう思うんます?」
「彼が牢に入れられた日、貴方は会いに行っていましたね」
「……お気づきでしたか」
「どこかに行く貴方を見かけたので、失礼ながら……」
「気配を消せるとは、実に有能でいらっしゃる。ダニエルに仕込んだのは貴方ですか」
ビクリ、とダニエルが震えるが二人とも頓着しない。
「彼の本来を知っているから、信頼できるから、殿下の護衛にしたのですね」
「したのは殿下ですよ?」
「ですが、導いたのは貴方です。そして、貴方は殿下の本来も知っている」
「……意味が分かりかねます」
「とぼけても無駄です。ここにいる誰もが、気付いています」
「何に……?」
「エリーサ=ラフィー=ルノワレスという王女の存在の希薄さ、そして、ある王子の情報の浅さです」
内心驚いていたイウリアに、笑みが浮かぶ。
ライアンもベレニセもダニエルも動揺していない。それに、マリファの言葉が事実であると知る。
「……貴方達を侮っていたようですね」
ため息をつきながらも満足そうなイウリアの呟きに、マリファは眉を寄せた。
「お知りになりたいことは、ロイと殿下のことに関してだけですか?」
「ひとまずは……」
色々と疑問はあるが、素直に答えないだろう。
内心そう思って、マリファは頷く。他三人も同じ思いなのか、形容しがたい表情をして頷く。
笑みを深めてイウリアはゆっくりと口を開く。
語られた言葉に、四人の瞳が大きく見開かれるのにそう時間はかからなかった。
今回はちょっと短めです…。
実は全員知ってたっていう……。




