第十一話・思いの差 Ⅰ
下町の一角で、体格の良い男達が苛立ちを露わにしていた。
身なりはそんなに良くない。
「くそっ……!」
ガッ。
裏道に放置されている木箱を蹴りつけて、悪態をつく。
一緒にいる男達も同じような表情で壁を蹴ったりしている。
「やっぱり、官吏は官吏ってことか……」
「どうせ軍人だからな……」
「領主も、良いように言いながら、結局はこんなもんってことだろ……」
落胆と苛立ちの混じった声が上がる中、木箱を蹴りつけていた男が振り返る。
「見下されて、泣き寝入りなんかしねぇぞ……。領主本人が土下座でもしなけりゃ、気がすまねぇ」
男の発言に、一瞬静まり返ってから、男達が同意の声を上げる。
息まく男達は、気付かない。
自分達の様子を、荷物を抱えた通りがかりの少女が聞いていたことに……。
※※※
軍部から上がった書類を見て、エリーサは首を傾げた。
「これ、選定基準はどうやったの?」
見ているのは自警団員の面接結果。
その選定に関しては、エリーサは一切触れていない。
少し問題かもしれないが、軍部のことは軍部の人にしか分からないし、市井の家庭環境はなお分からない。知っている人に基準を設けてもらうのが、最適と考えた結果だった。
間違ってはいないが、当時、ベレニセは少々頭を抱えた。
信頼の形かもしれないが、事務経験のない軍人にはかなり困ったものだ。
「多くが農家だから、働き手となる家主や長男は除外した。あと、独立している者も」
「あぁ、だから、年の若い人が多いんだ」
「二男や三男を選んだからね」
リストの中にあるのは、十五歳から二十代の若者ばかり。女性は少ない。
やって来た中には、三十代や独立している者も多く、農村では荒くれ者として敬遠されている者もいた。
合法的に自分の力を見せることができる機会を、待っていたのかもしれない。
意気揚々とやってきて、自分達は受かって当然と言いたげな偉そうな態度だった。
面接をした警備隊の面々やベレニセは、キレそうになるのをこらえるのが大変だった。
「……指導はどうする?」
「これから収穫期が待っている。帰る時に指導する者を二名ずつつけようと思う。武器は今ある物と棍棒を配布するが………制服と紋章はどうなってるだい?」
「制服の方は来月、紋章は………考え中」
「おい」
「いや、領軍の紋章も考えなくちゃいけなくて……」
領軍の方はエリーサ自身の紋章に手を加える気でいるが、自警団の方は困っている。
同時進行だから、なお困る。
頭を抱えるエリーサにため息をついて、エリーサの紋章が描かれている図案を引き寄せる。
一言断ってからベレニセはペンをとり、図案に書き足していく。
不思議そうに見つめるエリーサは、次第に瞳を見開く。
一枚には、紋章の後ろで交差した二本の剣。
もう一枚には、盾に描かれた紋章。
「どっちがどっちでもいいけどね。まぁ、一つの案だと思いな。決めるのはあんただよ」
「じゃぁ、剣が領軍、盾が自警団にしよう」
「早いね……」
即決のエリーサに頬を引きつらせる。
「思いつかなかったし、良いな、と思ったから」
第一印象だ、と言われて悪い気はしない。
「ひとまず、明日の昼には出発できるように今日中に通達しておくよ。こっち側はすでに準備が整ってるからね」
「さすがだ」
嬉しそうに笑うエリーサに、少し照れたように笑う。
和やかな空気が流れ、雑談交じりの相談をいくつかしていると、慌ただしくダニエルが駆けこんできた。
いつも穏やかなダニエルが、血相を変えているのにエリーサもベレニセも目を丸くする。
「どうした?ダニエル」
「慌てるなんて珍しいね」
「え、演習場で、自警団希望者と少年が対立してます!」
「「はぁ?」」
エリーサとベレニセは一緒に首を傾げた。




