第十二話・真実を悟る者 外
シュヴスから帰ってきた船から降りた船長は、港にある商業ギルドの事務所に向かう。事務員に到着を報告してから、預かった手紙を渡す。宛名と差出人を確認した事務員は、早馬の手配を素早く行う。
数分後、事務所から早馬が手紙を持って駆けだした。
ここ、サイハラを治めるガルビオン子爵家の城へ。
船長が手紙を預かってから三日。
子爵家と懇意にしている商家の家紋付きとはいえ、日程をこなさずに帰ることはできない。
真面目に日程をこなした結果、日数はかかってしまったが、損なわれることなく手紙は届いた。
もたらされた手紙を読むルクエラは、その口元に笑みを浮かべる。
「お母様?どうかなさったのですか?」
「何か喜ばしいことでも?」
紅茶を入れてきたシルヴィアとその背後からクッキーをつまむオルディス。
ルクエラは仲の良い兄妹に手紙を見せる。
跡取りである長男を除けば、子爵家に常にいるのはこの二人だけだ。
司法官としての職を辞した子爵自身は領内の仕事であちこちに飛び回っている。実際、自身で行く必要はないが行動せずにはいられない性分なのだ。
確実に、エリーサは夫の影響を受けているとルクエラは思うが、それをどうする気もなかった。自身で行動するのはいいことだ、と推奨していたくらいだ。
仲良く同時に手紙を読んでいる二人は、それぞれの反応を示した。
シルヴィアはちょっと困ったように微笑んで。
オルディスは吹き出しそうになるのを口元を覆うことでこらえて。
手紙に書かれているのは一文。
『紫水晶を冠すべき唯一人、正当なる御方に忠誠を』
王冠を戴く正当な後継者に忠誠を。
ルクエラが示した真意を正確に読み取った結果の返答。
「さすがは、チェスティアの娘」
プリシラからの手紙に、ルクエラはただ嬉しかった。
母の想いを知っている兄妹は、その一言に込められた感情を知る。
エリーサは、偽りの中で生きた。その中で、友人など作れるはずがなかった。
だから、ルクエラは望んでいた。
年齢不相応に重責を担うプリシラならば、ルクエラの真意を読み取り、エリーサを見定めてその内面を見れるだろう。きっと、味方になってくれる。その結果、友人になってほしい、と。
表立って、ガルビオン子爵家はエリーサに関わりを持てない。
その関わりを、エリーサは望んで捨てて、自分自身の道を歩き始めた。その決断を、応援したのはガルビオン子爵家だ。
表立つことはできなくても、陰ながら手を差し伸べることはできるから。支え、助けることはできるから。
「オルディス、シルヴィア」
「「はい」」
真剣な呼びかけに、二人は背筋を伸ばし、表情を引き締める。
「近い内、シュヴスで改革が始まるだろう。その時、動けるようにしておけ」
「……介入するのですか?」
「いや。ただ、人事の大幅な変更と更迭が行われるだろう。その時、合法的に入り込めばいい」
「母上、悪事の相談に聞こえます」
「お前達は家督相続からは無縁の立ち位置だ。さほど邪推されることもない」
「ですが、合法的、ということは……」
「平気だろう?」
合法的、という内容に思い至ったシルヴィアは、不安げな表情をするが、オルディスは楽しそうに笑っている。
ルクエラは自信に満ちた笑みを浮かべる。
「……一人で立つエリーサのために、できることをしたい。お前達が嫌だと言うのなら無理強いはしないつもりだ。どうする?」
「その聞き方、卑怯ですね。母上」
「言うとお思いですか?お母様」
兄妹の返答に、ルクエラは声をあげて笑う。
結局、オルディスもシルヴィアも嫌ではないのだ。
エリーサのことを気にかけ、心配していたのはルクエラだけではない。その助けになりたいと思っていたのだから。
来るべき変革の時。
その時、愛しい存在の助けになれることがあるのなら、躊躇いはしない。
ガルビオン子爵家は、とうに定めている。
仕えるべき主は、いまだ、何も持たない小さな王女ただ一人なのだ、と……。




