第13話
部室のドアは開いていたが、中にいたのは七海先輩ではなかった。
一人の男子生徒が写真が飾られた壁の前に立ち、穏やかな笑みを浮かべながらそれらの写真を眺めていた。
俺の声に気づいたのか、彼は入り口に立つ俺に視線を向けた。
「こんにちは」
「あ……こんにちは」
どこかで見覚えがある……確かに、どこかで見た記憶があった。
「もしかして……牧野会長、ですか? 写真で見たことがあって……」
「そうだよ。君は? 一年生?」
「はい。1年B組の鳴海悠也です」
「写真部の新しい部員か?」
俺はうなずいた。
牧野会長は春風のように穏やかな空気をまとっている人だった。だが、俺の直感が、自分の知らない事情が色々とあるはずだと告げている。
こういう状況で下手に口を開いたり意見を言ったりするのは絶対に悪手だ。だから俺は、聞き役に徹して大人しく相槌を打つことにした。
もし七海先輩に用があって来たのなら、事前に約束をしておけばいいはずだ。なのに、現実に牧野会長はこうして一人でここにいる。
そんな俺の心中を察したかのように、牧野会長が口を開いた。
「千晴は元気にしてる? 写真部の新しい部員は、何人入ったんだ?」
「今は、俺と同じクラスのやつがもう一人入部しました。七海先輩、なんだか嬉しそうでしたよ……」
牧野会長は言葉を返さず、どこか寂しげな苦笑いを浮かべた。
「そうか……」
「牧野会長……」
「これからも頑張ってね。部員が四人未満だと、廃部になっちゃうから」
え――? 部活に入る気のある生徒なんて、もうとっくに出揃っているはずだ。ここからどうやって、もう一人引っ張ってくればいいんだよ。
「本当は、千晴と少し話をしたかったんだけど……やっぱり、ちょっと切り出しづらくてね。鳴海くん、悪いんだけど、君から彼女にこれを渡してくれないかな」
牧野会長は俺に書類を差し出した。
「うちの学校の広報サイトの写真、ちょっと古くなっててね。改築された場所も多いから、写真部に新しく撮り直してほしいんだ。それと、一ヶ月後の文化祭の件。これも広報用の撮影依頼だよ」
「わかりました。七海先輩に伝えておきます」
牧野会長はもう一度写真の並ぶ壁に視線を走らせると、そのまま部屋を後にしようとした。
「あの……牧野会長」
「どうした?」
「部外者の俺がこんなこと言うのも生意気なんですけど……牧野会長も七海先輩も良い人だと思うんです。だから、その……ちゃんと、言葉にして伝えたほうがいいんじゃないかって、そう思いました」
牧野会長は一瞬だけ呆気に取られたような顔をしたが、すぐに優しく微笑んでうなずいた。
「ありがとう、鳴海くん。そうしてみるよ」
七海先輩はきっと、写真部に人一倍強い思い入れがあるんだ。それなのに、牧野会長が生徒会長選に立候補するために退部を選んだものだから、きっと頭にきているんだろう。
俺は弁当箱を開き、本を手に取って、昼食を食べ始めた。
そういえば、白羽は昼休みになっても来なかったな。




