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君とボクの二度目の冒険 〜転生した少年と幼馴染の勇者が、魔王の孤独を救うまで〜  作者: 屠龍
第十八章 転生者たち

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第百四十四話 ウィザードを継ぐ者たち

第百四十四話 ウィザードを継ぐ者たち


 オットーさんに、僕とミレーヌが互いを大切に想い合っていることを見抜かれてから、僕はしばらく俯いていた。


 恥ずかしい。


 ただ、それ以上に、さっきからこの老人の底が見えない。


 僕が転生者だと見抜き、ミレーヌが勇者だと知っていて、さらにはマリータさんの仲間だったという。


 胡散臭いのに、話していることには妙な重みがあった。


 そんな僕たちを見て、オットーさんはまたヒヒヒと笑った。


 「さて、話を戻すかのう。これは内緒の話じゃが……クヌートとフェリシアと言ったか。あのハーフエルフの兄妹についても、少し知っておる」


 「クヌートとフェリシアを?」


 僕は思わず顔を上げた。


 ミレーヌも表情を引き締める。


 クヌートとフェリシアは、僕たちにとって大切な仲間だ。


 その過去に、オットーさんが関わっているというのか。


 「正確には、儂よりも、かつての仲間だった魔術師の方が深く関わっておった」


 オットーさんの声が、少しだけ低くなる。


 「人間でありながら唯一、ウィザードの領域に届いた男じゃった。あやつはいつも言っておったよ。いつか勇者を支える魔術師を育てねばならぬ、とな」


 「ウィザード……」


 僕はその言葉を繰り返す。


 クヌートとフェリシアが使う魔法は、確かに普通ではない。

 特にフェリシアの魔力の扱いは、どこか繊細で、ただ攻撃するだけの魔法とは違う印象があった。


 「では、二人は転生者なんですか?」


 僕が尋ねると、オットーさんは首を横に振った。


 「いいや。あの二人は、れっきとしたフォーチュリアの者じゃ。前世の記憶など持っておらん」


 「じゃあ、どうして……」


 「ハーフエルフだからじゃよ」


 オットーさんは静かに言った。


 「エルフの魔力と、人間の適応力。その両方を持つ者は、まれに人間にもエルフにも届かぬ領域へ進むことがある。もちろん、すべてのハーフエルフがそうなるわけではない。じゃが、あの二人には素質があった」


 僕はクヌートとフェリシアの顔を思い浮かべる。


 いつも皮肉っぽく、金のことにうるさいクヌート。

 静かで、どこか陰を抱えているフェリシア。


 そんな二人が、ただ偶然に強い魔法を覚えたわけではなかったのだ。


 「ただし、誤解するでないぞ」


 オットーさんは、僕の考えを読んだように釘を刺した。


 「あの二人は、最初から勇者の道具として育てられたわけではない。少なくとも、儂らは二人が生まれたことすら知らなんだ」


 「知らなかった?」


 「うむ」


 オットーさんは頷く。


 「二人の母親は、子供たちを人間界にも、魔王との戦いにも関わらせたくなかったのじゃろう。だから儂らにも知らせなかった。可愛いわが子を、自分と同じ戦いに巻き込みたくなかったのじゃ」


 その言葉に、ミレーヌが唇を噛んだ。


 勇者である自分の周りには、どうしても戦いが近づいてくる。

 自分の母も、クヌートたちの母も、子供を戦いから遠ざけようとした。


 その気持ちは、ミレーヌにも痛いほど分かったのかもしれない。


 「では、魔術師さんはいつ二人を?」


 「エレナじゃ」


 「エレナさん?」


 「そうじゃ。エレナが、儂と魔術師に二人を探してくれと懇願した。だが、その時にはもう二人の行方は分からなくなっておった」


 オットーさんは、紅茶のカップを見つめる。


 その目には、いつもの人を食ったような光はなかった。


 「見つけた時は、酷い有様じゃった。森を出た二人は、誰にも守られず、人間の街をさまよっておった。乞食同然の日もあったじゃろう。盗みをせねば食えぬ日もあったじゃろう」


 僕は息を呑んだ。


 クヌートの金への執着。


 フェリシアの消えそうなほど静かな表情。


 その理由の一部が、少しだけ見えた気がした。


 「そして、魔王の手の者に見つかった」


 ミレーヌの手が、僕の手を強く握る。


 「殺されるところだったんですか?」


 「そうじゃ。あの二人は、ただの孤児ではなかった。勇者に連なる者たちの血筋と、ウィザードになり得る素質を持っていた。魔王にとっては、放置できぬ芽じゃったのだろう」


 オットーさんは静かに続ける。


 「間に合ったのは、魔術師じゃった。あやつが二人を救い、保護した。そして、二人に魔法を教えた」


 「それで、クヌートとフェリシアは……」


 「うむ。あやつの弟子になった」


 弟子。


 その言葉を聞いて、少しだけ安心した。


 道具ではない。


 誰かの所有物でもない。


 二人は救われ、教えを受け、自分たちの力で生きる術を得たのだ。


 「ただし、この話は本人たちにはまだ言わぬ方がよい」


 オットーさんの声が、また少し低くなった。


 「なぜですか?」


 「自分たちが勇者のために用意された存在だと思えば、あの二人は傷つくじゃろう」


 その言葉に、僕は何も言えなかった。


 確かに、クヌートなら怒るだろう。

 フェリシアなら、悲しそうに笑うかもしれない。


 「でも、二人は道具じゃない」


 ミレーヌが静かに言った。


 「ボクのために生まれたんじゃない。クヌートもフェリシアも、自分の人生を生きてきたんだよ」


 オットーさんは、ミレーヌを見て目を細めた。


 「その通りじゃ。じゃから、この話の扱いは慎重にせねばならん」


 「それなら、なぜ僕たちに?」


 僕が尋ねると、オットーさんは小さく息を吐いた。


 「お主らが、あの二人の仲間だからじゃ」


 静かな答えだった。


 「戦いが進めば、いずれ二人にも向き合わねばならぬ時が来る。あやつらがなぜ力を持ち、なぜ魔王に狙われるのか。お主らが知らぬままでは、守れるものも守れん」


 僕は俯いた。


 守る。


 その言葉が、重かった。


 クヌートとフェリシアは、ただ強い仲間ではない。

 人間にもエルフにも居場所を奪われ、それでも生き延びてきた兄妹だった。


 「それに、もう一つ。あの二人について、お主らは知っておいた方がよいことがある」


 オットーさんが言う。


 ミレーヌが顔を上げた。


 「二人の父親と、お母さんのことですか?」


 オットーさんは頷いた。


 「そうじゃ。あの二人は、疎まれて生まれた子ではない」


 その言葉に、僕とミレーヌは息を呑んだ。


 オットーさんの声は、静かだった。


 「少なくとも、母親は二人を愛しておった。命を削ってでも、守ろうとした」


 その一言で、部屋の空気が変わった。


 クヌートとフェリシアの過去は、まだ終わっていない。


 むしろ本当に重い話は、ここからなのだと分かった。



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