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君とボクの二度目の冒険 〜転生した少年と幼馴染の勇者が、魔王の孤独を救うまで〜  作者: 屠龍
第十四章 船出

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第百十話 守るための距離

第百十話 守るための距離


 翌日から、僕達の待遇は少し変わった。


 船員や他の男性冒険者達が食べているのは、干し肉と乾燥させた野菜のスープ、それに乾パンが中心だ。


 もちろん、それでも船の上では普通の食事なのだと思う。


 けれど、僕達が案内された船長用の食堂には、ハムや火を使わない魔法の窯で焼かれたパン、魔法の冷蔵庫に入っていた果物などが並んでいた。


 「まあ、昨日の礼としてはこんなものじゃないか?」


 そう言って、セシルさんはハムをフォークでつついた。


 食事を取る場所も、船長や上級船員が使う食堂に変わっている。


 これは単なる厚遇というより、隔離に近かった。


 他の男性冒険者達と同じ場所で、僕達だけ良い食事をすれば恨みを買う。食べ物の恨みは恐ろしい。


 実際、僕達が食堂へ向かう時、船室の隅からいくつもの視線を感じた。

 羨ましそうな目。面白くなさそうな目。何か言いたげに口を歪める男もいた。

 誰かが小さく舌打ちしたのも聞こえた気がする。


 僕は思わず足を止めかけた。


 自分達だけが良いものを食べているみたいで、少し後ろめたかったからだ。

 けれど、セシルさんは振り返らずに言った。


 「気にするんじゃないよ。あそこで遠慮して同じ場所に戻ったら、今度は向こうが遠慮しなくなる。距離を取るってのは、相手を見下すことじゃない。揉め事が起きる前に、起きにくい形にしておくことさ」


 その言葉に、僕は何も言い返せなかった。

 優しくすることと、無防備に近づくことは違う。

 昨日から何度も聞いているはずなのに、まだ僕はその違いをうまく飲み込めずにいた。


 それに、昨日の慰労会の後、ジョルジュ船長もセシルさんも考えたらしい。


 荒くれ者達の中に、僕やミレーヌ、それにクヌートとフェリシアを長く置いておくのはよくない、と。


 「ありがとうございます。セシルさん」


 僕が礼を言うと、セシルさんは片目をつむった。


 「ユキナを一人にすると、酒や賭け事を覚えさせられそうだからね」


 「僕はそんな簡単に流されませんよ」


 「どうだか。最初はみんなそう言うのさ」


 セシルさんは楽しそうに笑う。


 シグレさんは真面目な顔で頷いた。


 「実際、あの連中と同じ場所に置くのはよくない。飲め、賭けろ、男なら付き合えと絡まれるのが目に見えている」


 「クヌートもかい?」


 セシルさんがからかうように聞くと、クヌートは不機嫌そうに眉をひそめた。


 「俺はくだらない酒盛りにも博打にも興味はない」


 「だから余計に絡まれるんだよ。そういう態度を面白がる奴はいるからね」


 セシルさんの言葉に、クヌートは黙った。


 たしかに、クヌートは言葉が鋭い。あの荒っぽい男達に囲まれたら、すぐに喧嘩になってしまうかもしれない。


 だから今、僕とクヌートは女性陣と同じ食堂にいる。


 僕は子供扱いされているようで少し複雑だったけれど、クヌートはそれ以上に不満そうだった。


 ただ、フェリシアが隣に座っているので、強く文句は言わなかった。


 ◆◆◆


 食後、冒険者達は会議に使う大きな船室に集められた。


 「そろそろ危険地帯だ」


 船長のジョルジュさんが、僕達を見回して言う。


 口には相変わらずヤニを咥えているけれど、その表情は真剣だった。


 「船員には言ってあるが、海賊や魔物に襲われたら基本は逃げる。戦うのは最後の手段だ」


 ザ・セント号は高速帆船だ。


 追い風を受ければ、並の海賊船では追いつけないほどの速度が出る。海の魔物が相手なら逃げ切れるとは限らないけれど、それでも速さは大きな武器になる。


 「お前達護衛は、戦うためだけに雇ったわけじゃねえ。船が逃げる時間を稼ぎ、甲板を混乱させず、船員を守るためにいる。勘違いするなよ。無駄に格好つけて飛び出す奴は邪魔だ」


 その言葉に、何人かの冒険者が不満そうな顔をする。


 けれど、ジョルジュ船長は気にしなかった。


 「それと、乗船前にも契約したが、寄港しても護衛は船から降りられない。港で逃げられたら困るからだ。信用しろなんて言うなよ? 俺は何度も逃げた連中を知ってる」


 ジョルジュ船長の声が少し低くなる。


 「もちろん、酒と新鮮な食い物、それから歌や小さな賭け事くらいの娯楽は用意する。だが、往復六十日間、勝手に船を降りることはできない。逃亡したらすぐに冒険者ギルドへ報告し、資格剥奪の手続きを行う」


 船室の空気が重くなった。


 「それでも逃げようとして捕まった場合は、船内規則で処罰する。海の上じゃ、規律を破った奴を放っておくわけにはいかねえ」


 慣れない船内生活で苛立っている冒険者もいる。


 でも、これは契約だ。


 逃げられたら困るというのは、船長のわがままではない。護衛が逃げれば、残された船員と乗客の命が危なくなる。


 過去に本当にそういうことが何度もあったのだろう。


 ジョルジュ船長は、不満げな冒険者達を見て、にやりと笑った。


 「お互い、そういう面倒は嫌だろ? 契約さえ守ってくれれば、それでいい。無事に帰れば報酬は払う。飯も酒も、できる範囲で出す。だから働く時は働け」


 その言葉に、冒険者達は渋々ながらも頷いた。


 軽く配置や合図の確認をしたあと、僕達はそれぞれの場所へ戻ることになった。


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