第67話:保奈美と呼ぶ直也(宮本玲奈)
私は保奈美ちゃんのために、わざわざノンアルコールのシャンパンを取り寄せていた。
まだ未成年だから、みんなと同じように乾杯できるようにしたかったのだ。
「保奈美ちゃん、これ」
手渡すと、ぱっと笑顔になってくれた。
「わぁ、ありがとう玲奈さん!」
その笑顔を見て、少し安心する。
食卓には次々と料理が並べられていった。
サーモンのマリネ、牡蠣のグラタン、ガーリックトースト、そしてメインのローストビーフ。
保奈美ちゃんがテキパキと準備を進め、直也さんもさりげなく手伝っている。
そのときだった。
「保奈美、敷布をもってきてくれる?」
「はい!」
自然すぎるほど、何気なく。
でも、耳に飛び込んできた瞬間、私の体は固まった。
「「「「!?」」」」
私も、亜紀さんも、麻里も、そして莉子も――同時に驚いて顔を上げた。
「義妹ちゃんって呼ばないの?」
最初に声を上げたのは莉子だった。
すると、答えたのは直也さんではなく、保奈美ちゃん自身だった。
「直也さんに、これからは『保奈美』って呼んでもらえることを条件に、こないだのことを許したんです」
そう言って、にっこり笑った。
莉子の表情が一瞬で強張る。
ムッとしたその顔に、私も胸がざわついた。
亜紀さんも麻里さんも、同じように不穏な表情を浮かべていた。
沈黙を破ったのは亜紀さんだった。
「直也くん。……これはどういうことかな?」
低く、圧を含んだ声。
その場の空気が一気に冷え込む。
直也さんは苦笑を浮かべて答えた。
「そう言わないと、保奈美が許してくれないんですよ」
けれど――誰一人として笑わなかった。
食卓に並んだ料理の湯気が、やけに重苦しく見えた。
沈黙が落ちていた。
直也は私たち全員の固い表情を見渡すと、ふっとため息をついた。
「……オレにとって、保奈美は義妹であるということに変わりはありませんよ」
その言葉に、一瞬胸をなでおろしかけた。
けれど次の瞬間、彼は静かに言葉を継いだ。
「ただ――オレにとって一番大切な、唯一の家族なんですよ」
その言葉が落ちた途端、胸の奥に重たく響いた。
亜紀さんも、麻里さんも、莉子も――そして私も。
同じ言葉を漏らしてしまった。
「「「「ズルいなぁ……」」」」
四人の声が、ほとんど揃って重なった。
直也の前に並ぶ私たちが、そろって同じ反応をしてしまったことに、思わず顔を見合わせる。
気づけば、口元に苦笑が浮かんでいた。
直也も苦笑を返してきて――その瞬間、張りつめていた空気が少しだけほどけた。
料理の香りが、ようやく食卓に馴染んでいく。
やっと、会食らしい空気が戻ってきた気がした。




