第66話:月次の会食(新堂亜紀)
直也くんから、「今月の会食は今週金曜の夜にしよう」と連絡をもらったのは数日前だった。
保奈美ちゃんがOKしてくれた、と聞いて少しほっとした。
ずっと心配していたから。
その夜、私たち三人――玲奈と麻里と私は、わざわざ普段とは違う服を選んで直也くんの自宅を訪れた。
それぞれ少しずつ気合いが入っているのは、きっと皆同じ気持ちだったのだと思う。
玄関を開けてくれたのは保奈美ちゃんだった。
「こんばんは」
いつものように明るく迎えてくれる。
玲奈もにっこり笑って返し、私も自然に笑顔になれた。
彼女とはすっかり打ち解けてきた。
ただ――麻里を見た瞬間、保奈美ちゃんの笑顔が少しだけ強張った。
麻里はすぐに両手を軽く上げて、柔らかい声で言った。
「そんな顔しないで。
お願い。仲良くして、保奈美ちゃん」
視線が直也くんに向かう。
彼が静かに頷いたのを確認してから、保奈美ちゃんは小さく「はい」と答えた。
その返事に麻里がほっとしたように微笑む。
――うまくいく。
そう思った矢先だった。
玄関の呼び鈴が鳴った。
扉を開けると、そこに立っていたのは――莉子。
驚いた。
直也くんが呼んでいたのだ。
これまで五井物産のオフィスで顔を合わせることはあった。
でも、こうして直也くんの家に、同じタイミングで現れるとは思っていなかった。
私も、玲奈も、麻里も――その瞬間、どうしても緊張した態度になってしまった。
胸の奥にざらりとした感情が広がる。
そして。
保奈美ちゃんの笑顔が、すっと消えてしまったのが見えた。
莉子は、まるで何事もないように一歩入ってきた。
「直也くん、今日は招待ありがとう」
その自然な声に、一瞬こちらが戸惑う。
保奈美ちゃんはしばらく固まっていた。
けれど、直也くんの横顔を確認してから、小さく言葉を紡ぐ。
「……いらっしゃい、莉子さん」
莉子も柔らかく笑って応じた。
「うん。よろしくね。保奈美ちゃん」
空気が硬いのは変わらない。
それでも、最低限の挨拶は交わされた。
その事実に、私は胸を撫で下ろした。
リビングに集まった一同。
ソファに腰を下ろしたけれど、緊張はまだ漂っていた。
それでも、どこか穏やかさを装いながら、場は進んでいく。
キッチンからは食器の音が響く。
保奈美ちゃんが夕食の支度を進め、直也くんが隣で皿を並べている。
二人の姿は自然で、温かいものに見えた。
私は持ってきたワインをテーブルの上に置いた。
かなり高価な一本だ。
この日のために、少し背伸びして選んだもの。
「せっかくだから、今日はこれを開けましょう」
そう言ってラベルを示すと、皆の視線が集まった。
緊張の中に、少しだけ柔らかい空気が生まれた気がした。




