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第16話:新堂亜紀

 ――まさか、ここまで反響があるなんて。


 女性向けファッション誌「VeryVery」。

 正直、最初は“茶番”だと思っていた。ハイブランドのバッグや靴の合間に、直也くんが載るなんて――意味があるのかと本気で疑っていた。


 けれど、発売日の翌日から社内はちょっとしたお祭り騒ぎだった。


※※※


 朝、プロジェクトルームに出社した瞬間、私は目を疑った。

 直也くんのデスク前に――まさかの行列。


 手に手に「VeryVery」を抱えた女性社員たちが、きゃーきゃーと囁き合いながら並んでいたのだ。


「すみませーん、一ノ瀬さん、サインお願いします!」

「私も! ここに書いてください!」

「あと、ツーショット写真いいですか? SNSに上げても大丈夫ですか!?」


 ……え、ここオフィスよね?

 何? アイドルの握手会でも始まったの?


 呆然と立ち尽くす私の横で、広報担当者が青ざめた顔で頭を抱えていた。

「……こ、こんなの前例ないです……」


 昼休みになると、さらに悪化した。

 女性社員だけじゃない。男性社員までスマホ片手にやってきて、

「彼女が“直也ファン”でして、サインもらえませんか?」なんて言い出す始末。


 直也くんは困ったように苦笑しながら、それでも丁寧に対応してしまう。

 サインを書いて、軽く会話して、時には笑顔で写真まで応じて――。


 その柔らかな笑顔。

 あれを向けられて、好きにならない人がいるわけない。


(……ほんとに、気が気じゃないわ)


 案の定、その日のうちにSNSには「#VeryVery直也」のタグが乱立していた。

 「会社でサインもらいました!」

 「まさかツーショット撮れるなんて……一生の宝物!」

 そんな投稿が拡散され、GAIALINQの知名度まで一気に跳ね上がっていった。


 玲奈はスマホでタイムラインを追いながら、机に突っ伏して呻いた。

「信じられない……経済誌じゃなくてファッション誌で、直也人気に火がつくなんて……」


 麻里も肩をすくめて苦笑した。

「……やられたわね。正直バカにしていたのに。こうなるなんて」


※※※


 だが――光が強くなれば、その影も濃くなる。


 夜、オフィスで資料を整理していたとき、玲奈がぽつりと漏らした。

「直也の補佐役として私も異例のスピードで昇進してるから、いろいろ言われるのは覚悟してます。でも……やっかみは全部、直也に集中してるんですよ」


 私は手を止めて彼女を見た。

 その言葉に、胸の奥がざわついた。


「分かるわよ。その話、私の同期からも聞いたの」


「同期?」


「ええ。資源セクターの佐伯。現場で自治体や地熱発電所との調整を担当してる若手がね――」


 私は唇を噛み、言葉を続けた。

「“俺たちは炎天下で役所に頭を下げて回ってるのに、あの人は東京でカメラの前に立って笑ってるだけだろ。いいご身分だよな”って。そう皮肉を言ってるらしいの」


 玲奈の目が揺れた。

 私は奥歯を噛みしめた。


 ――彼らが汗を流しているのは事実だ。

 けれど、直也くんを“笑ってるだけ”だなんて……。


 その言葉が、どれほど彼を傷つけるか。

 どれほど真実から遠いか。


 直也くんは、矢面に立っている。

 メディアの前で。投資家の前で。日米の政府関係者の前で。

 彼の肩に背負っているものは、現場の一人ひとりが背負うものよりもはるかに重い。


(分かってない……。何も分かってないくせに……!)


 胸の奥がじりじりと燃える。


※※※


 GAIALINQが光を浴びれば浴びるほど、直也くんへの妬みは強くなる。

 でも、私は絶対に許さない。


 彼を笑う者がいてもいい。

 皮肉を言う者がいてもいい。

 でも、彼が潰されるのだけは、絶対に許さない。


(――私が守る。絶対に)


 薄い灯りに照らされた会議室で、私は静かにそう誓った。

 誇らしさと嫉妬と怒りと決意――全部を胸に抱えたまま、私は直也くんの背中を見つめ続けた。


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