第15話:VeryVeryの取材(一ノ瀬直也)
――また厄介な舞台が回ってきた。
GAIALINQの名が世間に浸透するのは良いのだが……。
今度は女性向けファッション誌「VeryVery」の取材依頼。
タイトルは……「若手エグゼクティブ・イケメン特集〜その仕事ぶりとライフスタイル〜」。
……いや、これは流石にちょっとな……。
ビジネス誌でもなく、経済紙でもなく、ファッション誌。
しかも「イケメン枠」って。
最初に内容を聞いたときは思わず頭を抱えたが、アパレル部門のバーター案件だと聞かされれば、無碍に断るわけにもいかない。
※※※
撮影用に用意されたスタジオ。
白い背景に柔らかなライト。
撮影スタッフがカメラを構え、編集者たちが次々に指示を飛ばしている。
脇では、五井物産広報の担当者、亜紀さん、玲奈、そして麻里までもが腕を組んでこちらを見守っていた。
さらにアパレル部門の本部長まで同席。
おそらく、この人が押し込んだ張本人だ。
「……ほんとにやる意味あるんですか?」
低い声でぼやいたのは亜紀さんだった。
眉間にはくっきり皺が寄っている。
「“次世代リーダー” をファッション誌で売り出すって……何ですかこれ。
バーターとか、本当サイテイ」
玲奈は冷たい声で吐き捨てるように言った。
その隣で、麻里が堪えきれずにぷっと吹き出した。
「ごめん……でも “若手イケメンエグゼクティブ特集” って。
笑っちゃうわよね、さすがに」
視線を向けられたアパレル本部長は苦笑いを浮かべていたが、内心はまったく悪びれていない。
「はい、じゃあ笑顔もう少し柔らかく! あ、いいですね〜」
カメラマンの声に合わせてシャッターが切られる。
オレは、心の中でため息をつきながらも、なるべく自然な笑顔を作った。
これはこれで「必要な役割」だ。
もう、そう割り切るしかない。
そして始まったインタビュー。
「一ノ瀬さんは、どのような女性がタイプですか?」
……来た。
こういった取材では定番中の定番な質問。
オレは一呼吸置き、軽く笑った。
「タイプで女性を好きになることはありませんよ。
――そして、相手を好きになるのに理由は要らないでしょう?」
記者たちの目が一瞬見開かれた。
カメラのフラッシュが連続して光る。
後ろで聞いていた麻里が小さく吹き出したのが分かった。
「……上手いなぁ」
玲奈が小声で呟いたのが耳に届く。
記者たちはさらに質問を重ねてきたが、オレは自然に会話をGAIALINQに引き戻していった。
「たとえばGAIALINQは、女性や若い世代の方にも直接関わっていただける取り組みです。
地熱という “自然の力” を活かして、AIという “知のインフラ” を動かす。
その循環をつくることで、みなさんの生活そのものに安心を届けたいと思っています」
わざと、専門用語は避けた。
「暮らし」「安心」「未来」という言葉を選び、柔らかく噛み砕いて伝える。
編集者たちの表情がみるみる変わっていく。
単なる「イケメン特集」から、社会性のあるストーリーへと記事を広げられる――そう直感しているのだろう。
カメラマンは夢中でシャッターを切っていた。
「もっと格好良く見える角度を!」と声を張り、少しでもオレを“絵になる男”として収めようと必死だ。
※※※
取材が終わる頃。
最初は呆れ顔をしていた亜紀さんも、玲奈も、そして麻里も――最後には黙って撮影スタッフの指示に協力していた。
「……結局、彼が答えると、全部 “意味” があることに変わっちゃうのよね」
玲奈が小さくぼやく。
「ほんと。悔しいけど」
亜紀さんも肩を落として笑った。
麻里はふっと口角を上げて呟いた。
「――まぁ、“カッコいい男” であることも、彼の才能のひとつかもね」
そう言って、彼女は静かに笑っていた。
(……オレは別に、カッコつけたいわけじゃないんだけどな)
内心で小さく苦笑しつつ、オレはライトの下で最後のカットに応じた。




