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9. フィルムッシュ王国

夏も終わりあっという間に冬が来る前。

「皆でフイルムッシュ王国へ旅行に行こう」と言う話になり、今日はその小旅行に行く日。


ロンド家やミレイ夫婦も誘っていたんだけど、ロンド家のリッキージュニア(リジュ)が直前に風邪を引いてしまって、

家族の集まりで一緒していたミレイ夫婦も、うつすと悪いので遠慮するとのことだった。


特別、今日じゃなければという理由もないので、

日にちをずらそうかという相談もしたんだけど、


「悪いので、行ってきなよー」


との助言もあり、

子供たちの強い希望もあって、我が家だけ行くことになった。


「皆準備終わったー?」

「リジュ(リズ)、やったー」


「トイレ行ったのー?」

「いってにゃーい」

「ぼく、いった」


相変わらず正反対の姉弟で、尚且つどっちが上か分からない 笑

まあ、産まれたのは数時間差しかないんだけど。


「はい、リズはトイレ行って! エリはパパのお手伝いに行って!」

『はーい』


返事だけは双子らしく揃って応える。

二人は滅多なことで喧嘩しない。

同じ土俵に載らないというのもあるけど、

お互いの気持ちを読めるのか、いつもツーカーなのだった。


きっと二人は、いつまでも一緒にいるんじゃないかと思うぐらい、仲が良い。


その後も少しドタバタはあったけど、

家族全員で馬車に乗り込んで無事出発する。


家族で遠出をするのは産まれて初めてで、

そもそも村を出たのだって数えるほどしかない。


馬車はあっという間に湖の側の道を通り過ぎ、滝側の崖の道を下っていっている。


「ほら、エリ、リズ! この間お話したこわい水の精霊様がいる滝だよー」


ディストルが謎の説明を、子供たちにしている。


「きゃーー! 笑」

「わぁ‥‥‥」


そして子供たちはなぜか喜んでいるのだった‥‥。

ディストルってば、どんな話をしたのか‥‥‥。


「ママがこらしめた悪い精霊様だ!」


エリが謎の発言をする。

なにそれっ!

かなり話作っているんですけど‥‥‥。


オンディーヌにばれたら、

今度こそ凍り付かされて、凍死させられるから‥‥。


大瀑布ローツは夏の終わりで大分水量を減らしていたが、

相変わらずの壮大さで、声が聞こえなくなるほどの轟音と、

空が見えなくなるほどの広大な霧をたたえているのであった。


私の魔力回路が、水属性魔力の根源、水の妖精たちにもてあそばれて、

何となく受かれた気分になる。


この時期は涼しくて、ちょうど良い。


「みじゅあそびー、したーい」

「今日は街まで行くんだからダメっ!」


まだ村を出て一時間も経ってないんだから。


「えええーーーっ!?」

「したいしたいしたいしたいーーーっ!!!」


最近、リズの自己主張が激しい。

なかなか言うことを聞いてくれない。


「ダメだって!」


つい語気を強めて、たしなめてしまう。

だって今日は色々予定があって、

あんまり時間の余裕がないんだから。


「ぼくもあそびたいー」


いつも良い子にしているエリまで加勢してくる。


「まー良いじゃない。ちょっとだけなら」


困ったことにうちの旦那さんは、子供には滅法弱い。

こういう時に役に立たないのだ。

3対1じゃ勝てないじゃない‥‥‥。


まあ、ルクソンの実家では、私も甘えさせてもらった方なので、

昔の自分のわがままを見せられているようで、強く反対はできない‥‥。


「‥‥‥もっと下流で、危なくないところまでいったらね」

『やったーー!!』


なんで私が悪者なのよー。

大体ディストルは私より10歳も年上で、もう30歳近くになるはずなのに!



男はいつまで経っても子供のままで、

女は自分の可愛い子供のため、強制的に母親に変えられていく。

女は母親に変わらないと、

子供たちが生き残れない時期を一緒に過ごしているのだから。

あーでも、私の母親は違ったなー。

乳母に子育てを任せていたせいで、いつまでも女のままだったなー。


ぼんやりそんなことを考えながら、私は、 

ディストルと双子たちが川べりで水遊びしているのを眺めているのだった。


あーあ‥‥。びしょびしょだ‥‥。

絶対私に乾かしてもらう前提でしょ、この3人‥‥‥。


でも、そうやっては皆がしゃいでいる姿を見ていると、

怒るより先に、なんだか胸がゆるんでしまって、

そして、その輪の外から見ている自分も、

ちゃんとその幸せの中にいるんだって思えてくるのが不思議なのだった。


――― 小一時間ぐらい経って、皆を強制的に馬車に戻して出発する。


まーこれもひと騒動だったんだけど、もういつもの日常 笑


「ママ、あったかいのー」

「ママは、あったかいのじゃない!」


はいはい。

私は3人に『ウォーム』をかけてあげる。


本当はダビが砂漠でやってくれたように『ウィンド』も使えれば、

あっという間に乾くんだけど‥‥‥風の精霊シルフって本当どこにいるのかしら。

風の精霊は気まぐれすぎて、どこか一か所に留まることはほとんどない。



その後は順調に、森に囲まれた川沿いの街道を下っていって、

フィルムッシュの街の入り口まで2時間ぐらいでたどり着いた。


フィルムッシュ王国は都市国家で、ここら辺ではかなり大きい。

前はさらに北の帝国の侵略を受けて属国になっていたこともあったらしいけど、

今では立派な独立国として存在している。

主に商業が盛んだ。


私たちの村で扱っている魔石も、フィルムッシュ王国で仲介をしたり、

この先の北東にある港町ローサンまで買い付けに行くことが多い。

おかげでうちの村人は、ほとんどノーパスで街に入ることが出来るよう、

村長が手配してくれているのだった。


フィルムッシュは最近急速に発展しために、小さい石畳の道が入り組んでて、

城壁内にぎゅうぎゅうに家が詰め込まれているのだった。

中心の広場近くは少しは開けていたけど、

それでも昔あった噴水を撤去して、

広場を縮小せざる得なかったぐらい、

どんどん新しい家や店が立っているらしかった。


今この周辺で最も勢いがある国だ。



馬車を町外れの馬小屋に預けたあと向かうのは、この街唯一の治療院。


「おおー! あの時の双子ちゃんたちかっ! 大きくなったねー!」


リズとエリをとりあげてくれたリガール先生が、

わざわざ治療院の玄関で待っていてくれていた。


「先生、お久しぶりです! すみません、もしかして‥‥お待たせしました?」

「はははっ、小さな子供たちと一緒の旅行なんて、予定通りにいかないものだから気にしていないよ 笑」

「先生‥‥‥すみません」


私とディストルはひたすらペコペコ頭を下げる。

子供たちが不思議そうに私たちの姿を見ている。


助産師のバリエッタさんは月一度は村に来てくれているので、

いくらでも御礼の言いようはあったんだけど、

リガール先生にお礼をいう機会は、今の今まで一度もなかった。

だからこれは、三年越しの願いがようやく叶った瞬間だったのだ。


あの夜のことを思い出す。


とにかく大変で、つらくて、でもそれ以上にとても幸せで。

その果てに、今ここで、こうして元気に走り回っている二人がいる。

ほんとうに、胸がじわっと熱くなってくる。


「あの時は、うちの妻が本当にお世話になりましたっ!」


こういう時だけ少し格好付けるディストル 笑

でも不思議と嫌じゃない。

うちの家族の大黒柱としての自覚が、湧いてきてくれているのは頼もしい。


「まあまあ、折角だから寄って行きなさい。村では珍しいフルーツも用意しているから」

「ふるーつ!? エリよっていくーー!!」


前シルクさんが村に持って来た甘い葡萄のせいで、エリは大のフルーツ好き。

もちろんリズも大好きだけど 笑


「す、すみません‥‥」


その後治療院の応接間で、

最近の双子の様子を、双子の特異性と共にお話しするのだった。


リガール先生も強い魔力耐性とか気になっていたみたいで、ふんふん頷きながら聞いていてくれる。

先生曰く、神の子とよばれる神の祝福を受けた子が、そのような特殊能力を持っていたという記載が、

大昔の本にあったらしい‥‥‥。


えっ‥‥‥まさか?

リガール先生まで、エレーミアン神の子とか言うんじゃないよね‥‥‥?


その傍らでエリとリズは、この世にこれ以上の幸せはないという顔をして、

きっと高いと思われる甘いフルーツの数々を、つぎつぎと口に放り込んでいる。


”安心しなさい、私の子じゃないわよ。こんな食いしん坊な子たち”


ほっ。


エリザベスとエリアスは何があっても、私の大事な子供だからっ!


その後もついつい長居をして、村の近況を長々と話し込んでしまったのだった。


多分そんなこんなで1時間ぐらい話し込んでいたら、

扉の向こうから看護婦さんがまだかまだかとちらちら覗き込んでいるのが目に入ってきた‥‥‥。


そうよね‥‥。

リガール先生目当ての患者様もたくさんいるはず。


ついつい懐かしさに色々、話してしまった。


「そろそろ、私たちもお暇しますね」

「えっ、もー行くのかい? せっかくわざわざフィルムッシュまで来たんだからゆっくりして行けばいいのにー」

「いえいえ‥‥‥お邪魔になりますので‥‥」

「大丈夫なのにー。ここは個人経営みたいなものだから 笑」


看護婦さんの眉が一段と上がるのが見えた‥‥‥。


「す、すみません。次の予定もありまして‥‥」

「あ、あーそうなのね。じゃあ入口まで見送りますよ!」


今度は、わざわざ診療所の入り口まで見送りに来てくれる‥‥‥。

もう恐縮するしかない‥‥。看護婦さんの視線が痛すぎる‥‥。



そしてとにかく、急いでお暇しようと、

別れの挨拶を口にしようとしたそんなとき、



ビィーーーン。


『マジックスキャン』の波動を感じる!


タキオン教神父の奏でる鈴の音とは違う。


魔力波を叩きつけるだけの無遠慮な波動。


これは魔術師が使う『マジックスキャン』だ。



隣でリーガル先生の魔力回路が、激しく反応していた。


「先生‥‥‥これ何ですか?」


先生は眉をひそめて、少し苦い顔をしている。


「魔導王国から来た荒くれ者が、最近あちらこちらで『マジックスキャン』をかけて、何かを探しているみたいなんです」


なんじゃそりゃ?

こんな北の都市国家に構っている暇があるとは思えないんだけど。


「私も一度、その怪しい男から声をかけられたのですが、なんでも高値で売り買いされている宝石を探しているとか‥‥‥」


瞬間、背筋に電撃が走る。


魔石だ!


ついに魔導王国の耳にも入ってしまったか‥‥‥。


魔導王国がほぼ独占する魔法が、一般人にまで使われるようになったらその影響は計り知れない。

そんな邪魔な存在を許しておけないのは、当然のこと。


魔石は魔力を流れないようにして保管しているので、『マジックスキャン』では検知できない。

ただ使っている瞬間に『マジックスキャン』をかけられたら反応する。

シルクさんがどれだけ増産しているのか知らなかったが、

数が増えれば増えるほどバレるリスクは高まっていく。


そしてこんな村近くの街に密偵が入るほど、

彼らが流通経路を把握し始めていることに、

強い懸念を覚えざるにいられなかった。


私たちはその後、街の広場で買い物をして楽しんだ後、

日が暮れる前に村に着くよう早めに帰路につく。


帰りは二人共ぐっすり眠っているから、行きほどは大変じゃない。

ただ私は魔石のことが心配で、結局気が休まらないのは、行きと同じだった。


帰ったら、村長さんに相談しなきゃ‥‥‥。

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