8. 私の日常
その後しばらく警戒していたけれど、何も起きなかった。
気がつけば、またいつもの日常に戻っていた。
私の日常は、朝、火種の確保から始まる。
夜の気温が冷めるこの地方では、
それが嫁の、朝一番の仕事だ。
『ファイア』
といって、私はサボり放題だけど 笑
その火種を使ってお湯を沸かしておく ――― と思ったら桶の水が無くなっていた。
各家には小さな貯水升が備え付けられていて、川から水をくんでくるのも仕事。
寒い朝、冷たい水を汲むと、
指先がじんと痺れて、思わず顔をしかめる。
『ウォーター』
これまた魔法で片づける。
この間、その様子を見たミレイが「ずるいーっ!」って、
本気で羨ましがっていた 笑
次にするのは、鶏の餌やりと卵の回収。
牛とかヤギは村の共同飼育だけど、鶏は各家で飼っている。
「バタンッ」
上に上着を羽織り外に出る。
ハァーーー。
毎回白い息を出して、寒さを確認してしまうのは、
自分でもなんの確認なのか、よくわからない 笑
今日もかなり冷え込んでいて、軽く身震いが出る。
裏の鶏小屋に回ると、
今日は5個ほど卵を産んでくれていた。
起きたばかりの鶏たちに、
畑で収穫した麦と虫に食われた野菜を与えていく。
「コッ! コケッ!」
今日は卵とパンとヨーグルトの朝食かなー。
この村に来たばかりの時はパンですら貴重品で、
様々な野草と畑でとれる芋・ライ麦、そして牛乳とチーズが主食だった。
村が発展してきたことで、山の下の食材も簡単に手に入るようになってきた。
私の先見の明のおかげと言っても、良いと思う 笑
ライ麦パンの上に目玉焼きを載せ、軽く白身魚の燻製で作ったフレークを振りかける。
エリが大好きなジャガイモのカリカリ焼きも添え、
ヨーグルトのコップを並べたら皆を起こしに行く。
「起きてー、朝ご飯よー」
私の声に反応してリズとエリは、目をこすりながら起きだした。
ベッドで朝のハグをかわす。
子供達ってなんでこんなに甘い香りがするんだろうね~。
うーん可愛い!
次はうちの旦那さんだ。
寝室に入ると、さすが元執事の息子!
既に着替えていて、机に向かって何か書き物をしていた。
「ごはんできたよー」
「んっ、ありがとー」
軽くキスをする。
子供ができてからのスキンシップがとにかく大事と、
隣の家のヨルテさんから繰り返し聞かされていたもの。
授乳している間は、
彼のことを疎ましく思うことの方が多かったけど、
ヨルテさんの言葉を無理せず実践したおかげで、
今でも、仲良しのままでいるのだった。
そして、皆が食卓についたら、
さあ戦闘開始!
ならぬ朝食開始!
私はグズるリズを、
ディストルはぼーっとしているエリを、
サポートすることから始まる‥‥。
「リジュ、これきらーい!」
「わがまま言わずにちゃんと食べなきゃダメっ!」
「ほらエリー、エリの好きなカリカリだよ?」
「う~~ん‥‥」
毎朝の光景。
こういうところだけは年相応で、
いつまでたっても手がかかる‥‥。
「一番可愛い時期よ」って言われるけど。
‥‥‥当人たちには、余裕なんてない。
どうにか2人を食べさせると、ディストルが仕事に出かける。
日によって、畑仕事、放牧、魚釣りとか、色々変わるらしい。
その日一番必要そうな仕事を皆で話し合ってから担当を決める。
一見効率悪そうにも聞こえるけど、
少ない人数で色んな仕事をするにはこれが一番と。
一方の私は、食器を片付けると、洗濯物を持って村共同の洗い場まで行く。
リズとエリを連れて行って、皆で洗濯をしながら、子供たちの相手をするのだった。
最近はみな、洗濯場で私が来るのを待っているから、早めにいかないといけない。
なぜかというと ―――
『ウォーター×ファイア』
魔法で適温のお湯を出す。
皆が喜びの声を上げて、ようやく一斉に洗濯をし始める 笑
この、私待ちっていう状況は、本当に辞めてほしいんだけどね‥‥。
「ほんとイリィのおかげよね~。ほんと男衆はこの時期の水の冷たさ知らなさすぎるんだから!」
「ほんとよね~。私なんてあかぎれで痛い痛いって言っていたら、舐めときゃ治るなんて言われたんだから!」
そんなことディストルが言い出したら、私は間違いなくキレるでしょうけど 笑
水と火の魔石を使って出来るようになると楽なんだろうけどね~。
残念ながらそんなに安くない‥‥。
洗濯を終えた衣類は、広場近くの共同干し場に干す。
風属性魔法があったら、一気に乾かせるんだけど‥‥。
まー、ないものはしょうがない。
そのまま子供達を、皆の子供と一緒に遊ばせる。
「リーちゃん、いくよー」
この広場で遊ぶようになって、
リズがちゃんとリッキージュニア(リジュ、ロンドの子)のことを待ってあげるようになってきた!
リズは身体能力が半端なく凄い分、思いあがって自己中心的にならないか心配していたんだけど、
まったくの杞憂だった。
さすが私たちの子!
って、親バカ? 笑
一方のエリは広場でも一人遊びばかりで、私の心配の種になっていた。
私が小さい頃は、いつもリオとエミリーと3人で遊んでいたのに‥‥‥。
村という小さな共同社会の中では、周りと一緒に行動するのは必須スキル。
ディストルに相談しても、
「男ってそういうもんだから気にしすぎ、気にしすぎ」
って言うのだけど、
「私も男の子だったんですけど!」
って言いそうになって、何となく言えずもやもやとしているのだった。
――― そんなもやもやも、ある時一気に解決する。
村のガキ大将であるホドが一人で遊んでいるエリを見つけ、
半分以上無理やり、男の子集団に引っ張っていったのだ。
最初は私もアワアワして、心配して様子を見守っていたけど、
さすが小さい子には手慣れていて、
気付いたらエリも楽しそうに皆と鬼ごっこしていた。
子供社会には、子供なりの気遣いとルールがある。
何か親の私の方が、勉強させられている気持ちになっていた。
この村で、この子たちを産めて、本当に幸せだと思う。
正直に言うと、
風属性を求めて旅に出たいという気持ちは無くなっていない。
でもそれ以上に大切な物がこの村に出来てしまったのだから、
その想いは心の奥隅にそっとおいておくしか、今はない。
ただ運命は、そんな私をそっとはしてくれないのであった。




