5. 幸せな村の生活
「産まれてからが地獄だからー。特に二人なんて絶対に寝れないと思うわよー」
散々脅されていたセリフ。
口うるさいお母さんなんか、
まるで誰かに恨みがあるんじゃないかと思うぐらい、会うたびに聞かされていた。
それが ―――
「ちよっと、リズちゃん借りていくわねー」
「はーい」
親の私ですら、姉のエリザベス、愛称:リズがどこにいるか分からないぐらい引っ張りだこで、
あちらこちらの家でお世話をしてもらっている。
弟のエリアス、愛称:エリも部屋で泣いていたら、道端で鳴き声を聞きつけた村のお母さんが駆け付け、いつの間にか部屋にあがり込み、世話をしてくれているのだった。
もしかしたら、まともに授乳と寝かしつけをしているのは、夜の間だけかもしれない‥‥‥。
奇跡の双子は、一気に村のアイドルとなっていたのである。
あれだけ怖がっていた ”地獄” は気づけば、
誰かと分け合うもので、何も怖がる必要はなかった。
この村の人たちが、当たり前みたいに手伝ってくれている。
それが、とてもありがたくて、
「本当に、この村で産んでよかったー!」
と、心の底からそう思うのであった。
現在妊娠6ヵ月目のロンドが、
「私のお母さんまで、リズとエリに夢中で、私の子が生まれた後、ちゃんと手伝ってくれるか心配なんだけど‥‥‥」
と言いだす始末。
さすがに自分の娘の子供はもっとかわいがると思うよ 笑
最初の頃は不安定だった気持ちも、
最近はどうにかなるかなーと落ち着いてきている。
どこまでが「エレーミアン神の祝福」なのか分からないけど、やはり神の力は偉大ってことなのかもしれない。
”かもしれないじゃないっ! 偉大なのよっ!”
ツッコミを入れてくるあたりが可愛らしいんだけど 笑
”キィーーー! 神様をバカにするなぁー!”
こんなふうに笑えるのも、きっと余裕ができた証拠。
あのときは、笑う余裕なんて一つもなかったからなー。
それなのに今は ―――。
こんなにも多くの存在に祝福されている。
私の子どもたちは、本当に幸せ者だ。
そして、それは自分が祝福される以上に、それがたまらなく嬉しい。
ああ、これが ――― 親なんだな~。
「リズちゃ~~ん♪ ん、ばぁ~~~っ!」
ディストルなんて鼻の下が伸びすぎて、ちゃんと仕事に身が入っていないから困ったもの 笑
そうそう、シルクさんも子供が生まれてすぐ、
でっかいプレゼントと一緒に駆け付けてくれて、この間お祝いをしてもらっていたところ。
リガール先生を手配してもらって、私の方がお礼をしなければいけないのに、
シルクさんは決してお礼を受け取ってくれなかった。
「私はただ、イリィさんのお子さんが無事生まれてくれただけで、十分嬉しいんですよっ!」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥がじんわりと熱くなったもの。
ああ本当に ――― 、
皆に愛されてありがたいと。
感激のあまり思わず、シルクさんに抱きついてしまって、
あとで、ディストルにちょっと怒られたのは反省しています 笑
なかなか男だった時の感覚が抜けていないのかもしれない。
旦那さん、心配かけてごめんね 笑
でも私にとってディストルは、いつまでも特別な、ただ一人の存在だから安心してね 笑
――――――
シルクさんから聞かされ心配していた、魔導王国の様子も表立っては大きな動きが見えず、
なんやかんやで結局、そこから三年経とうとしていた。
私たちは本当に穏やかな生活を、送ることが出来ている。
穏やかといっても、日々新たな事態との格闘ばかりで、あっという間の三年間。
双子の子育てはやはり大変で、
四元素魔法を取り戻すために、各地を回っていた前の一年より、
この三年間の方がよっぽど短く感じていたぐらいだった。
「リーちゃん、こっちぃー」
うちのリズがロンドの2歳の息子リッキージュニアをおもちゃにして遊んでいる。
その横でエリが黙々と一人積み木を積み上げて遊んでいる。
本当にこの2人は性格が真反対。
姉のリズはお転婆腕白我儘な陽キャタイプ。
弟のエリは気弱で姉に反抗できず、でも自分の世界をしっかり持っている陰キャタイプ。
同じお腹から生まれてきたのに、こんなにも違う。
それが面白くて、
同時に少しだけ不思議で、楽しい。
リズは村の皆さんに甘えかされ過ぎたせいで、こんなになったんじゃないかと、
一時大いに反省したのだけど、どんなに怒ってもへこたれず、
あーこれは生まれ持っての性格なんだなーって今更気付いたところだった 笑
それぞれに、それぞれの良さがある。
私に出来ることは、
この子たちが自分のやり方でこの世界を生きていくときに、
少しでも困らないように手を添えることだけ。
だから今は。
ただ、私の可愛い赤ちゃんたちでいてくれる時間を、楽しませてもらうのだ 笑
「リズー、リーちゃんは自分で遊びたいみたいよー。ママと遊ぼー?」
「えー!? ママ嫌っ! リーちゃんが良い!」
えぇー? ママ、結構ショックなんですけど‥‥‥。
ほんの少しだけ、胸がちくっとする。
嬉しいような、寂しいような。
「ほら、リーちゃんいこっ!」
私たちは村の広場に新しく作った、子供を遊ばせるための遊具があるスペースで3人を遊ばせていた。
三年前にお金をかけてテコ入れしたおかげもあってこの村も、
以前の3倍以上、大きな村に変貌していた。
住人が増えるにつれ、ついに常設の商店まで出来、利便さは格段に向上していた。
ラジーさんが経営する工房もかなり順調みたいで、鉄鉱石の生成依頼が、
以前の月一から週一にまで増えていた。
物の売り買いも、前の物々交換から、今ではフィルムッシュ王国発行する貨幣に変わっている。
これというのも、私が3年前に購入してきた動物たちが、畑の開拓も含め役立っているのと、
シルクさんたち商隊が落としていくお金が、バカにならないということに他ならない。
北のフィルムッシュ王国まで足を伸ばすの大変ということもあり、
シルク商会の魔石の仲介を、この村で一手に引き受けている。
この繁栄の理由の一つでもあった。
三年前、農業と漁業ぐらいしかなかったこの場所が、今では人の営みで満ちている。
それを見ているだけで、私は少し誇らしくなる。
私のおかげと言っていいよね! 笑
私がつい物思いにふけていたら、目を離したすきに、
リズが近くにあった大人の背の5倍は超える大きな樹を登っていた!
3歳とは思えない素早さと力強さ。
「ちょ、ちょちょっ!」
「リーちゃんはやくぅー、おいでぇー」
私は顔を真っ青にして、止めに入る。
心臓が、ぎゅっと締めつけられる。
「危ないから辞めてぇー 泣 お願いだから―!」
木の下でアワアワしながら、リズの下を右往左往していた。
リズはひょいっひょいって、猿のように木の枝から枝に飛び移って遊んでいる。
本当にリズは親泣かせ‥‥。
リズやエリは魔法がほとんど効かないから、
何かあったときに私はほとんど何も出来ないし。
落ちてケガしないか、心配で、心配で、しょうがない。
お願い、辞めてーーー!
エリザベス、あなたはようやく、
自分でお着替えが出来るようになったばかりの3歳なのよー 泣
「ママ、『フローティング』」
はっ!
その時となりで遊んでいたエリが冷静な一言をぼそっと呟く。
3歳なのに発音が完璧なんですけど‥‥‥。
『フローティング』
私は浮き上がり、枝の間を飛びまわっていたリズを無事キャッチする。
ふぅーーー。
「イヤアアア!」
私の胸の中でジタバタ暴れるリズ。
ディストル曰く、リズはこれでも手加減しているらしい。
相当力強いらしく、ディストルはいつも筋肉痛に苦しんでいた 笑
子供の世話のためだけに、『ターフェン』使わないといけなくなるとか、
想像もしたくないです‥‥‥。
奇跡の双子は、何もかも規格外で、
可愛くて、
愛おしくて、
――― そして、ちょっと怖い。
この子たちが、この先どんなふうに育っていくのか、
ちゃんと守りきれるのか、その不安は、いつまでも消えない。
でもそれ以上に、圧倒的に、この子たちと生きていける未来が、
楽しみで仕方がなかったのだった。




