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3. 出産という長き戦い

それから1ヶ月経たないぐらいだった。


始まりはちょっとお腹が重いな―と思っていたぐらいが、

ずーんとした陣痛が定期的に訪れるようになる。


「ディストル‥‥‥始まったかも‥‥?」

「えっ! ほんとっ!! じゃあバリエッタさん迎えに行ってくるっ!!」


ディストルが馬車に飛び乗り、急ぎ村を飛び出していく!

バリエッタさんは普段フィルムッシュに住んでいるので、すぐに駆け付けることができない。

半日はかかる。


私は母親代わりをしてもらっている、ミレイのお母さんヨルテさんに声をかけ、

自分の足で村にある産小屋に向かうのだった。


ついに、この時が来た。

全てが、それこそ指先まで、落ち着かない。


「いよいよねっ!イリィ頑張ろうね!」

「は、はいっ! よろしくお願いしますっ!」


ヨルテさんが村のお母さん方にも声をかけてくれる。

戦闘態勢はばっちり!


この村に来た最初の頃が嘘のように、いまでは皆、

家族のように優しくしてくれて、私も安心して挑むことが出来る。

この村に居られることが、本当に幸せ。


絶対大丈夫だから!


そう自分に言い聞かせるように、もう一度強く思うのだった。



そこから半日は、軽く水分を取りながら雑談をして、定期的に来る陣痛に耐えている。

お母さん方も食べ物を食べながら、「誰々の時はそれはもう大変で」とか、「私は死ぬかと思ったわよ」って世間話を繰り広げている。


出産のときは、男衆も絶対に邪魔しないから、

ゆっくりくつろげるリラックスタイムになっているみたい 笑


当の本人は、怖い話を一杯聞かされてそれどころじゃないんですけどね!


話を聞けば聞くほど、

「無事じゃなかった場合」の姿が、頭に浮かんでしまう。


徐々に高まっていく不安感と、ようやく解放されるという期待で、気持ちはぐちゃぐちゃ。

そしてただ待つしかないという、自分では何ともできない理不尽な状況。


も~~~、どうにかなって~~~。


そんな時でもヨルテさんは常に手を握ってくれていて、

それが私の心の手綱になっているのであった。


そんなとき、ようやく、ディストルとバリエッタさんが無事到着する!


「イリィーー! 着いたよー!」

「お待たせ~~」


はぁーーー‥‥。


その瞬間だけは、本当に涙がこぼれてしまう。

こんなに不安になっていただなんて、

自分でも分かっていなかった。


「ディストルも間に合ってよかったね~~」


ヨルテさんが、優しく頭を撫でてくれる。


「‥‥はい 笑」


なんか嬉しい 笑

ディストルと、お腹を気遣いながら、軽くハグを交わし頬にキスをする。


そんな感動の再会を、見知らぬローブ姿の金髪の男性が後ろから眺めていた。


ん?! だれ!?

そもそも産小屋は、旦那さん以外、男子禁制では?


私の視線を察知したディストルが説明してくれる。


「こちらの方はリガール先生。フィルムッシュ王立治療院の院長様だよ」


訳が分からず、とりあえず会釈を返す私。


「シルクさんが、フィルムッシュ王に頼み込んでくれたおかげで、リガール先生に、出産を助けてもらえることになったんだって」


ディストルが落ち着いた声で、ゆっくりと説明してくれる。


「リガール先生は本当にすごい先生なんですよっ! 先生のおかげで命を救われた人達が何人もいるんですからっ!」


バリエッタさんが興奮して、顔を真っ赤にして説明してくれる。

それを見て、私はストンと警戒心を解く。


あの信頼するバリエッタさんが信頼する先生なら、きっと間違いないだろう。


この人もまた、私の味方なんだ。


私のために、私の赤ちゃんのために、

こんなにも多くの人が集まってきてくれている。

こんな感動することって、あまりないと思う‥‥。

胸の中がとても暖かな光で、充たされていく。


「イリィです。遠くからありがとうございます。これからよろしくお願い致します」

「こちらこそよろしく」


リガール先生も、にっこり微笑みながら握手を交わす。

その手はゴツゴツして、頼もしさにあふれている。


彼は部屋の中をさっと見回すと、聞いたことない魔法を唱えるのであった。


『ピュリフィケーション』


私の知らない魔法。

四元素魔法を混合した多分相当高度な魔法。

ベッドの端に着いていた血の跡が綺麗に取れて、皆、新品のように綺麗な家具に変わる。


気付くと、あれほどお母様方の小話でざわざわしていた、小屋が静まり返っていた。


はわわわ~。


お母様方はさっきまでの勢いを失い、もじもじして落ち着きを無くしている 笑


魔術師は皆若作りで美形だし、王立施設の長となると相当立場の高い方ということ。

しまいには、皆、「用事を思い出したー」って去って行ってしまうのだった 笑


あれ!? 皆、私の出産の手伝いにきてくれたんじゃないの? 笑



「イリィさん、赤ちゃんの様子を看させていただきたいので、魔力回路を繋がせていただいてよろしいですか?」


私が魔術師であることも伝わっているみたい。

ちょっとまだ気恥ずかしさは残っていたけど、私はリガール先生のアクセスを受け入れる。


『フィジカルマッピング』


リガール先生の鋼色の魔力波が、私の身体全体に広がるのを感じる。

そのやわらかな魔力波は優しく、私の二人の赤ちゃんを包み込む。


バチンッ。


どこかで音が鳴ったような気がする。

少し驚いた表情を浮かべる先生。


そうよね 笑


「びっくりしないでください、先生。うちの子は魔法耐性がすごく強いみたいで、魔法を一切受け付けないんです」


「そうなんですか。びっくりしましたよー 笑」

「ただ周りから元気にしているのは、感じられますから」


そう言って私の金色の魔力をお腹に流して、その大切な二つの命の輝きを先生と共有する。


「たしかに 笑」

「結局私も、お母さんの力を助けることしかできませんから、一緒に頑張っていきましょう」

「はいっ!」



それからはディストルとバリエッタさん、リガール先生と、

交代で来てくれるお母様方に見守られながら、

準備が整うを待つのであった。


待つと言っても、そんな言葉で言い表されるほど、

私は悠長な状況じゃないけど。

外は日が暮れて、暖炉の火を焚いて明りを取っている。


「ーーーッ!?」

「せ、せなか擦ろうか?」

「イイっ! 今触らないでっ!」


だいぶ間隔が狭まってきて、

さっきと痛みが段違いになってきて、

周りに気をつかう余裕がなくなってくる。


お腹から絞り出すように、

腰というか股の付け根の骨に、

赤ちゃんをゴリゴリ押しあてて広げているかのような。


それが数分おきにいつまでもいつまでも、

そう、赤ちゃんが生まれるまで永遠続く!


陣痛が来ているあいだは、私はもう違う生き物になっていた。


「ヒィー、もーダメーーーッ!」

「ホント無理ーーっ」

「もー私、辞める! 諦める!」


ディストルが困った顔で、横であたふたしている。


もう今が、夕方か夜なのかも分からない。


手すりにつかまってただひたすら、とてつもなく重い陣痛に耐える。

男だったら気絶してるよってどっかのお母さんが笑いながら言ってたけど、


これ、違う!


元男の私でもこれ、気絶している暇がないーーーっ!


その上いきむな!

耐えろってどういうことよっ!

出したいよーー!


「あっ、破水したよ。大丈夫、出血してない! もうすぐだよーー」

「このリクライニング椅子に座ってーー」


バリエッタさんの声が聞こえた。


もうなにがなんだか分かんなくて、


とにかく指示に従うだけ。



そしてすぐに来る次の波!


「赤ちゃんの頭見えているよーー。もうちょっと開くまで頑張れーー」


もうディストルの手を握りつぶすんじゃないかと思うぐらいの強さで握りしめる!


えー! えー!?

まだなの? まだなのー?!


自分がどんな顔をしているかよく分かんないっ、呼吸ができないーっ!


「よしっ、イリィ陣痛に合わせて力んで!」


ようやく許可が出たっ!


「吸ってー・・・・吐いてー・・・」

「吸ってー・・・・吐いてー・・・」


どーんとした重みが、

思いっきり腰にぶつけられたように襲ってくる!


「来るっ!」


「イイよ!力んで!もっと!」

「下に向かってもっと!!!」


フギギギギギギギギギッ。


もう痛みになんか意味がない。


やるしかないっ!


身体が裂けて、私が生まれ変わっているように気すらする。


魔術師でもなにもない。


私はもう、一人の女でしかない。


とにかく!


終わらせたい!


会いたい!


やるしかないっ! ないっ!


骨盤を丸い赤ちゃんの頭が、貫いていっている感覚がする。


もう何回力んでいるのか分からない。



「もう一度行くよっ!」

「大丈夫頭回っているからもう少しっ! 次でいける!」

「はい、そろそろ来るよ!いくよーー!」


バリエッタさんの声にしがみ付く!


ヌ゛ワ゛アアアアアアアアアアア。



――― ポ、ポンッ。


本当に音がしたんじゃないかと思ったそんな瞬間。


抜けたっ!


頭の中が真っ白になり、


体中に熱い衝撃が走り、


痛みもなにも超越する。


そう、真っ白な光が確かに走った ―――



「‥‥‥ホ、ホギャアアアアア、ホギャア、ホギャア、ホギャアッ」


初めて聞く私の赤ちゃんの泣き声。

精一杯ここに存在すると主張するかのように高らかに泣き叫ぶ。


「出たよー! 女の子だよっ!」


ああぁぁ‥‥。


嬉しい、


嬉しいっ!


嬉しいよ~~~っ!!!


涙がいつまでも止まらない。



この10ヶ月、


会いたくて、


会いたくてしょうがなかった、


我が子が、


目の前にいる。


バリエッタさんが用意していた温かいお湯できれいにして

真っ白なタオルで包んで触れさせてくれる。


あぁ、しわしわだけど、

温かい‥‥。


ほのかに甘い‥‥,

香りがする‥‥‥。



「ホギャアッ、ホギャアッ」


その鳴き声はしっかりしていて私は、そのたくましさに安心感を感じていた。


ちゃんと生きてる。

この子は生きて、ここにいる。

‥‥よかったー。

本当に、よかった‥‥‥。



ただ、我が子と会えた感動に浸っていたのに、

バリエッタさんの無情な言葉が襲いかかってくる。


「まだ終わりじゃないよ。もう一人いるからねー!」



子宮の中に空いたと思った空洞には、まだもう一人いる‥‥。


さっきまでの安心が、すっと消えていく。


そうだ私はもう一回あれをやらないといけない。


もう力も何もほとんど残っていないのに、

まだ続きがあるんだ‥‥。


身体の奥に、冷たいものが落ちていくのを感じているのであった。

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