↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
性別が変わっても俺は私  作者: 蘭熊才王
第二章 土の章
48/122

18. 砂漠の旅

翌朝、私は朝食の席で皆に切り出した。


砂嵐が収まっているのなら、今さらこの街に留まっている意味はない。

そう、頭では前から分かっていたこと。

でも、それを言葉にするのは前想像した以上に重かった。


「明日、私はコルトラッシュ砂漠に入ろうと思う」


一度ここで言葉を切って、それから続ける。


「これは私の問題なので、私一人で行くつもり」


言った瞬間、空気が固まった。

フローラがスプーンを運ぶ手を止め、

ダビが息を呑み、

ロウまでこちらをじっと見ていた。



そして、案の定と言えば案の定だけど、ダビが激しく反対してくる。


「なんで一人なんですかっ!」


昨日の話はどこに行ったんだ、とでも言いたげな口ぶりであった。


私だって利得を考えればダビには来てほしい。

水属性魔法を使えるダビが、いるといないとでは全然違う。


でも私は、今までと同じ態度で接していられる自信があまりなかった。

どう接したらいいかも正直よく分からないし、

過剰反応をしてダビを傷付けてしまいそうで

本当に気が気でない‥‥‥。


ダビは大切な人だ。

それがどういう意味なのかは、自分でも分かってないけど‥‥。

だからこそ、距離を置きたかった。

それが一番、丸く収まる気がしていたのだ。


でも、


「ダビが行くなら私も行く。一人で残される方が困るもの」


フローラはずばっと言い切るのであった。

思わず彼女を見つめてしまう。


普段ふわっとしているくせに、こういう時だけ妙に揺るがない。

その言葉は軽く聞こえるのに、逃げ道だけはしっかり塞いでくる。


私の気持ちは揺れ動いていた。


皆と一緒は確かに頼もしいし、私も正直嬉しい。

でも ―――。


「でも‥‥‥」


考えがまとめる前に、心の声がそのまま口からこぼれてしまう。


「でもじゃない!! これは決まりね!」


上から被せてくるぐらいの勢いで、フローラが言葉を重ねてくる。

思わず肩がびくっとした。


フローラはこっちが弱っている時ほど、容赦なく前に出てくる。

私は何か言い返そうとして、なにも言葉が出てこなかった。


不安もある。

戸惑いもある。

でも、それ以上に、こんなにも当たり前に、皆が一緒に行くと言ってくれることが嬉しくて仕方なかった。

嬉しい、なんて顔をしたら負けな気がして、私は必死に平静を装った。


「じゃ、じゃあ皆で、あ、あいさつ回り‥‥‥ねっ?」


精一杯格好つけて言ったつもりが、

最後は声がかすれて、少し鼻にかかったみたいになってしまった。

皆の優しさが身に染みて、胸が熱くなってしまっている。


意地だけだったかもしれない、

正直心細かった。だから ―――


心配してくれるのが、たまらなく嬉しかったのだ。

強くなりきれない‥‥こんな座長で師匠でごめんなさい‥‥。

でも ――― ありがとう。


――――――


私たちはしばらくショーをお休みする旨を、皆に伝えて回りながら、砂漠を旅する準備を進めていった。


ラクダ、

砂を防ぐターバン、

熱さと寒さに対応できる服装、

防寒グッズに大量の水。


ロウは暑さに弱いので、正直置いていきたかったけれど、みんなが行くなら残してはいけない。


小さな荷車に日よけのフードを付けて、ラクダに引かせて連れて行くことにする。

どっちみちみんなで泊れる大きめのテントが必要だ。

荷車があるなら、ロウもその中で休ませられるし。


この4か月で買い込んだ色んな家財はそのまま家に置いておくことになった。家は大家さんが見てくれることになっている。


持っていくのは必要最低限。

私たちは明日、大断崖を目指して旅立つ。



旅立ちの前夜、なんとなく落ち着かなくてなかなか寝付けなかった。

私はひとり、家を抜け出し真夜中の街へ散歩に出ることにした。


まだ街のところどころで光が漏れていたけど多くの人が寝付いている時間。

空には雲一つなく、光輝く星々の煌めきが真っ暗な深淵を飾り立てていた。


夜道は誰にも気兼ねする必要がないせいだろうか、つい考えなくてもいいことまで考えてしまう。


私、いま何を望んでいるんだろう。


ダビがいて、

ロウがいて、

フローラがいて、

街の皆がいて、

この街でも幸せに生きていける自信はある。


私はなんで。


それでもあきらめきれないんだろう‥‥‥。


あまりしっかりとは想像できないけれど、ダビみたいな優しい人と結婚して、

もしかしたら子供を産んで、子供が大きくなるまで見届けて、

ゆっくり孫と老後を過ごして‥‥‥。


そんな人生だって、たぶん、選べなくはない。


それも、出来なくはない気がしている。


それでも私は、


ただ自分らしくありたい。


結局はそれだけ。

その思いだけは、どんな安らぎや幸福の想像よりも、ずっと強かった


たったそれだけのことなのに、こんな強い思いは他には存在しない。


私はこの旅で、土属性魔力を取り戻す。


私はアイテール・オルペ。

魔導王国随一といわれた魔術師なのだから。


それが私の誇りで、

それが私の形で、

それが ―――

私らしさなのだから。


理由はない。


――――――


翌朝、

まだ日も昇りきらないうちに、3頭のラクダでコルトラッシュ砂漠を東へ進む。


砂漠と言ってもほとんどが何もない荒地だ。下草やサボテンぐらいの低木はところどころに生えているけど、岩や丘があるだけで他は何もない。


陽が昇るにつれて急速に気温が上がってきた。

さっきまで外套を羽織っていないと寒いぐらいだったのに、あっという間に薄着一枚でも暑いぐらいに気温が上がってくる。

後ろの荷車からロウの荒い息が聞こえている。


私はすでに水筒の水を3分の1ぐらい飲んでしまっていた。


暑い‥‥‥。


そして見渡す限り何もない‥‥‥。


目指すコルトラッシュ大断崖は砂漠の中央を南北に数十kmにわたって裂いている地面の割れ目である。


基本的にただ東に向かって歩いていけばいずれたどり着くとは聞いていた。

でも現実の暑さは想像以上だった。


「フローラァ~、またぁ、お願い~!」


「えぇぇー、またぁー??」

「し、師匠、なんなら僕がっ!」

「ダビは、ロウの分ね~」


『アイス』


私達は体温を冷やすための氷嚢を準備していた。


あんまり冷やし過ぎると逆に体温調整がおかしくなるから良くないと言われたけど、この暑さはたまらない‥‥‥。

服の襟元を緩め、氷嚢を首の後ろや脇の下に入れて身体を冷ます。


「はぁ~、極楽~~~。先に水属性を取りに行っときゃよかった~」


「イリィあなた、どこかのおっさんみたいよ‥‥‥」


フローラにあきれ顔で突っ込まれる。でも気持ちいいものは気持ちいいんだもの!


「師匠、僕もそれはどうかと思います」


「‥‥‥」


んんーーっ。

咳払いをして居住まいを正し、服装を整える。


ちぇっ。


男だってガーって足を広げて胸元広げて「あっぢぃあっぢぃ」ってやってるじゃん!

女子だってやりたいんじゃー!

同じ汗かく人間だっちゅうに!


――― 我たちはフローラとダビの魔法のおかげで、砂漠旅のわりには結構快適に過ごすことができていた。


ラクダやロウを休ませつつゆっくり旅を続ける。

街で聞いたところによると、三日目ぐらいに見えてくるんじゃないかとのことだった。


‥‥えっ?

ダビとはどうなったのかだって?


どうもなってはいない‥‥‥。

心配していたほど過剰反応はしていない‥‥ただ距離感が分からなくなっていた。


一度、フローラにも「喧嘩した?」と聞かれた。


私は答えなかった。

本当は相談したい気持ちもあった。

でも、それはできなかった。


私には分かる、ダビの気持ちが。

女への告白は男の沽券をかけたチャレンジだということを。


そんなダビの本気を、女子の勝手で、たとえ親友とはいえ、勝手に他人に話すのは何か違う。


これは私が答えを出さなければいけない問題だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。