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27. 森の中の戦い

私は、イーガーと森に向って飛行している。


流石に空を飛んで二重に魔法を使っていると、魔力の消費が早い。

自分の中の魔力量がどんどん減っていくのを感じる。

これを1時間以上続けるのはきつい。

多分もって正味30分が限界‥‥。


よしっ!


だったら、最初から出し惜しみはしないっ!


『ブラスト』


スピードを一気に上げる!

ロウとイーガーを置いて、森ヘ先行する!


「ワゥ!?」


ロウの驚く声が、背中から聞こえてきた。


ごめん!

先に行って様子を見てくるから!



それでも十分以上、森にたどり着くまで時間がかかった。

残り時間は20分足らず。


彼らは町の真南にあたるここまで、もうやってきていた。

木の葉の向こうに、その影がぱらぱらと動いている。


刻々と迫ってくる見えない時間制約。

高鳴る胸の鼓動。


ロウとイーガーを待たなくても、

これなら私だけでも片付けられる?


よしっ、行く!

私なら、行けるっ!


『ファイアストーム』


「ドドーンッ!!」


派手に巻き上がった炎の竜巻に、

木々の葉、枝、数人の敵兵士が巻き込まれ、

私よりはるか上空に飛ばされていく。


でもたかが数人‥‥。

敵は想定で5百名近くいる。


こんなんじゃダメッ!

見た目だけ!


敵は、突然の攻撃に対応できず、


「どこだ!敵はどこだっ!」


と叫んでいた。



だったら、


『ロッティングブレス』


さっき叫んでいた男を含む、半径数十メートルの敵に毒攻撃を仕掛ける!


「な、なんだこの霧っ!」


さっきの男の声が裏返っていた。

その声はすぐに、周りにひろがるせき込む声にかき消されていく。


「ゴホッ、ゴホッゴホッ」「ゴフッ」

「‥‥‥ど、毒!」


あちらこちらで咳き込みながら、倒れ込む敵兵たち。



これでようやく、5百分の7‥‥。

全然威力が足りない‥‥。

こんなに敵が広がってたら、厳しい。


森の奥から、別の男の叫び声が聞こえてくる。


「どうしたーっ!」


「敵襲ですっ!」

「どこからかっ!」


「わ、分かりませんっ!!」


恐怖に引き裂かれたような叫び声。

それでもその男は、揺るがない。


「魔法はそんなに遠くから使えない! 絶対にそいつはこの近くにいるぞっ! 探せっ」


さすが王国軍の兵士。

魔術師との戦いをよく理解している。


ただ、一方で逃げ出す兵も出始めていた。

ばらばらと戦列を離れていく敵兵たち。


よしっ、恐怖心を煽ればいけるっ!


声に気持ちがこもる!


『アーススピア』


『ギャアアアッ!』


地面から硬い土の槍が飛び出し、

下から敵兵を串刺しにしていく!

やっつけた数は少ないものの、見えない恐怖は確実に伝播していく。


お願い! 今度こそ、みんな逃げ出して!


私の姿を探す兵よりうしろを振りかえる兵の方が増えていた。

逃げ出す兵が更に増えようとしている。


「これなら崩せる」と確信したその時だった。


後ろから鋭く風を切る音がしてくる。


ヒュッ ―――


遅れて、身体を貫く衝撃。


ドンッ


息が、抜ける。


痛っ!


矢が、

私の背中に突き刺さっていた!

致命傷では‥‥ない。


『あの木の上だ! あの上に魔術師がいるぞっ!』


「みなで弓を使って攻撃しろー!」


途端に、さっきまで逃げようとしていた兵までが止まり、一斉に私に視線を向けてくる!


みつかった‥‥離れなきゃ!


とっさに風属性魔法を唱えようとしたものの、直前まで別の攻撃魔法をイメージしたせいでワンテンポ遅れる!


敵はその間に素早く弓をとりだし、一斉に矢を射ってくるのだった!


私は移動に使うつもりだった『ウィンド』で、苦し紛れに矢の射線を逸らす!


『みなここに集まれー!』

『奴に他の呪文を唱える暇を与えるなっ』

『当たらなくてもいいから矢で射続けるんだーっ!』


次々と矢が下から襲い掛かってくる!


‥‥‥やばい。

本当に ――― やばい。


『ブラスト』を ―――

だめっ!

イメージを組む暇がないっ!

矢の数が、多すぎるっ!


『ウィンド』


『ウィンド』


『ウィンド』


飛んでくる矢の対応に追われ、私は空中で防戦一方になってしまうのだった。


敵はそんな私を、手負いの獲物にとどめを刺すかのように、執拗に攻撃してくる。

どんどんと敵が集まってきて、襲ってくる矢の数が倍々で増えてくるのだった。


下から矢の噴水が沸いているかのよう。


「っ!」


そのうちの1本が、風で軌道をずらされるのまで見込んで、私の体を狙ってきた。

防ぎきれず、わき腹に刺さっている。

矢は皮の鎧を貫き、わき腹から生暖かい血が流れてくる‥‥。



‥‥ヤバい ――― かも。


眼下の敵兵はもはや百名を超えるレベル。

矢の雨が、下からだけでなく、上からも降り注ぎ始める!


上と下も逃げ場がない!

八方塞がりになり始めている‥‥‥、


どうにか『ウィンド』でそらしてきた矢も、

数と方向が増すにつれ、掠るぐらい近くを通り抜けていく!


も、もうコントロールしきれない!


"針山のように、矢が大量に突き刺さる自分"


そんなイメージがまぶたの裏に見える。

それはすぐにでも現実になろうとしていた。


リズとエリの顔が浮かびかける。


そんなときだった。

北の空から、大きな鳥の影がやってくる。


「ゴオオオオオオ!」


影と共に突如現れた暴風が、風の壁となり、矢の雨をことごとく弾き飛ばしていく!


その魔力の香りには、覚えがあった。


"イーガーーー 泣"


救世主っ!

追いついてきてくれた 泣


私はイーガーのくれた時間を使い、一気に高度を上げて、敵の射程から逃れるのだった。


もう矢は、この高さまで届かない。

ようやくほっと一息つける。


私は改めて足元を確認する。

敵は私を始末しようとどんどん集まってきている。数百の兵が狭いエリアに集結している。


これならっ!


私はゆっくりと、魔力回路にイメージを練り上げていく。


オレンジ色に光り輝く8つの柱に傍流が複雑に絡み合い、

8本に囲まれた中央で銀灰色の螺旋が、

全てを巻きこんで1つのうねりを形成する!


『ファイアストーム』


「ドドドーーンッ」


これぞ本物の ”火災旋風” 。

今までの『ファイアストーム』には風属性魔力が足りなかった。

風の力を加えた『ファイアストーム』は、

その圧倒的な風力で更に温度を高め、そ

の規模を巨大にしていく!


それは盛大な打ち上げ花火となった。


百近くの兵が、8本の巨大な炎の旋風に囲まれ、

巻き上げられ、その高温で一気に焼かれながら、

吹き飛ばされていったのだ。


そしてその炎の柱は、最終的に、

半径数十mを超える巨大な炎の竜巻になり、

周囲の木々にも着火して、広範囲な森林火災を引き起こす。


「ひぃぃぃ、あっづいぃーー」「だ、だ‥ず‥‥けて」「ぐるじぃ‥‥‥」


炎の轟音が響くなか、森の中から多くの断末魔が聞こえてくる‥‥。


直接『ファイアストーム』に巻き込まれなかた敵兵も、

森林火災に巻き込まれ、肺を焼かれ窒息して絶命して行くのだった。



それはまさに、地獄絵図‥‥。


その一瞬で、

さっきまで私を駆け巡っていた熱が、嘘みたいに一気に引いていく。

そして代わりに、背筋を何かが這い上がってくる。


ぞわり、と。


理屈じゃない、本能が拒絶している。

気づけば、歯がかちかちと鳴っていた。

震えが止まらない。


‥‥臭い。


焼ける匂い。

人の、脂が。


胃が、ひっくり返る。


『ファイアストーム』を終了させて、この全てを洗い流そうと、


『レイン』


私は雨を降らせるのだった。


それは激しい土砂降りの雨。

森に広がりかけた火の手が、一気に静まっていく。

同時に、匂いも落ち着いてくる。


私は。

ゆっくりと。


――― 地上に降り立つ。

これが、全部、わたしのやったこと‥‥?


目の前の現実を間近に見て、脳が、心が、考えることを拒否していた。


黒い。

全部が、黒い。


人だったものが、積み重なり。

動かない。


ただ、形だけ残っている。


焦げた黒い物体は、そのくすぶった臭さを漂わせて続けている。


銀髪を、

顔を、

涙のごとく、

雨が濡らしていく。


彼らが攻めて来なければ、私は何もしなかった。

それに彼らは、私を殺そうとしていた。

私は責められることはないはずだと。


でもふと思うのだ。


彼らの家族にとって、私は、

あのルクシオン王ミディエルと変わらないじゃないかと。



私は本当に女なのだろうか‥‥。

命を産み出すより奪った数の方が、圧倒的に多い。


私は本当に人なんだろうか‥‥。

こんな、神か悪魔かしかしないことまで、してしまうなんて‥‥‥。


私の魔法で百を優に超える命が失われたのであった。



雨はゆっくりと収まり、元の晴天が空に戻り始めていた。

それでも私には、空がまだ泣いているように感じている。


‥‥‥。


「バウッ!」


気付くと、ロウも追いついてきて、

走って熱くなっている身体を、私に押し付けてくる。


そうね‥‥‥。

私の戦いはまだ終わっていない。


少しずつ現実に戻ってくる。


今以上に敵を殺さなければならない。

それは魔法軍の元同僚も含まれるかもしない。

それこそ幼馴染のリオですらも。


それは多分、今以上に残酷な現実であった。


そしてまだ、その覚悟を決め切れていない‥‥‥。

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