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25. 嵐の前の静けさ

捕まえた賊は、あっさりとルクシオン魔導王国の手の者であることを白状した。


聞くところによるとタキオン神導国との大戦も、

痛手を受けながら、ついにウリアン山脈の北端の砦を落としたそう。

今は神導本国への侵攻の準備のため、挟み撃ちされないよう、

後ろに配する敵性都市を落としておく戦略になっているらしかった。


フィルムッシュ王国もつい数週間前、陥落していた‥‥‥。


私たちのグルシャの街にも避難民が大量に流れ込んできている。

ピレオーツ村の皆や、フィルムッシュのリガール先生やバリエッタさんは大丈夫だろうか‥‥‥。


ゴルドア国としては、北との交易路が断たれた格好になる。


ゴルドア王は戦の準備を急ぐよう、各都市の領主たちに指示を出していた。

ゴルドア王は真正面から魔導王国とぶつかるつもりでいる。


元々ゴルドアという国は太古の昔からある歴史のある国で、

湖の下に沈むゴルドーの末裔が開いた国であるといわれている。

新興国である魔導王国にこれ以上いいようにされるのは、

この国のプライドとしても許せないのであろう。


魔導王国との戦いは起こるか否かではなく、いつ始まるかの問題であった。


我がグルシャ侯爵軍は城壁を持たない単なる町であるにも関わらず、その経済力を活かし、

50の騎士がいる常備騎士団と300の傭兵を中心と臨時軍を準備している。

そんな傭兵たちが暇を持て余して町の通りにあふれていて、

町はいつも以上に活況になっているのだった。

一方の騎士団は町の治安を維持するのと訓練で大忙しだ。



その日、私は騎士団の訓練を見学することにしていた。


本当はリズとエリはメイドに預けて行こうと思っていたんだけど、

リズが「りじゅもみたい! みたい!」って盛んに言うので、

根負けしてリズだけ一緒に連れてきている。


「イヤアアア!」

「ギンッ!」


町の外にある木の柵で覆われた訓練場では、騎士たちが、刃を潰した訓練用の剣を使い稽古していた。

訓練用といえども重い鉄の剣で、まともに受ければ骨が折れたり、脳震盪を起こして倒れてしまうこともある。

みな戦が間近に迫っていることを知っており、本気で取り組んでいる。


まーそんなところに、新参者の女領主の私が、子供連れで来たものだから、

例え侯爵といえども、「女風情が」、「子供なんて連れてきやがって」という本心が、

顔に見えてしまっていてもしょうがない 笑


私が訓練場の門をくぐろうとしたところで ―――


「敬礼!」


先日挨拶を受け顔見知りの騎士団長の号令の下、騎士50名は私の前に走りながら整列して、片膝をついて刀身を垂直に立て頭を下げる。

重々しい鋼鉄の剣とその鉄靴が地面を一斉に打つ! その音は私の心を揺さぶり、試しているかのよう。


「よいっ! 頭を上げて訓練に戻れ!」


私は、彼らの戦闘能力を見極めるつもりで来ている。


『はっ!』


見ている限り、その動きは日頃から訓練され、

集団戦闘を何度も経験してきた精鋭の動きそのものであった。


その後、騎士団長の説明を受けながら訓練の様子を見て回っていたのだけど、

どうしても気になることがあるのだった。


それは、彼らの戦い方が人同士の戦いしか、念頭に置いていないということ。


今回の相手は魔導王国だ。遠・中距離から魔法攻撃をしてくることもあるし、

心身魔法で強化した人間離れの動きで、襲ってくることもある。


私は初回は黙って見るだけにするつもりだったんだけど、

彼らの熱の入れようにも感化され、黙っていられなくなっていた。


「騎士団長!」

「はっ、なにか! お気になられたことでも?」


「この騎士たちの中で一番強い騎士は誰?」

「はっ! それはあのまん中にいる長身のリチャードでございます」


真ん中に立つ一際大きな騎士が、襲ってくる他の騎士達を軽くいなして、

その重い剣で地面に叩きつけていた。


「じゃぁ、リチャードと手合わせさせてもらう」


「はっ‥‥ぁ? 失礼ながら侯爵閣下‥‥」

「御身はドレス姿とお見受けいたしますが‥‥‥」


「よいっ! 準備をせいっ!」

「‥‥はっ!」


騎士団長は困惑したまま、リチャードを呼び寄せる。


「リチャードこちらへ!」


リチャードは戦いの中から抜け出し、私の前で兜を脱いで礼をする。


「侯爵閣下がお前とお手合わせをご所望だ」

「はっ! ご随意に」


その顔にはその本心が滲みすぎて、隠しようがないぐらいだった。

「いい加減にしてくれよ」 多分本当はそう言いたくてしょうがないのだろう。


リチャードは木剣に持ち替え、鎧を脱ごうとする。


「よいっ、兜と鎧は着たままにしろ。戦場で鎧を脱ぐ奴なんていない」

「はっ!」


完全にわけがわからんという顔をしている。

そんなこちらの様子が伝わったのか、

向こうで訓練していた他の騎士達もその手を止め、こちらの様子を横目で伺い始めていた。


「私が魔導王国の敵兵だと思って本気でかかれ。魔導王国の兵士は魔法を使う」

「御意っ!」


こちらの異様さが伝わったのか、

リチャードはさっきまでの態度を改め、こちらの動きを警戒してくる。

さすが最強の騎士。油断して敵を見誤ることはしない。

私は騎士団長から短めの木刀を右手で預かり、左手でスカートの裾を少し抱え込む。


『ヘイスン×クリティカル×ターフェン』


「いくぞっ!」


リチャードが木剣を構えたその瞬間に、一気に前に飛び出す!


その動きはまさに一陣の風のよう、

彼からするといきなり目の前に、私が現れたように見えたはずっ。


それでも彼は、瞬発力のみの左ステップで、

私の木刀の剣筋をギリギリかわす!


すまない。

でもそれも、私には見えている。


無理やり左にステップして体勢を崩したリチャードを、

即座に折り返した私は、彼の背中から襲い、

その頭を左に曲げて、兜と鎧の隙間に木刀を突き刺すっ!


「やめぃっ! そこまでっ!」


その言葉と同時に私は動きを止める。


リチャードはその鎧の重さに負けたかのように、力なく地面にしゃがりこむ。


「まま、しゅごーーい!」


――― リズの無邪気な拍手だけが訓練場に響いている‥‥。


誰も、

一言も、

声を発しない。


乾いた風だけが、訓練場を吹き抜けていく。


「次、3人でかかって来いっ!」


「‥‥はっ! ボブ! ニック! ギャブソン!」


『はっ!』


向こうで茫然と見ていた名前を呼ばれた3人が、

剣を木刀に持ち返るのも忘れ、

死に物狂いで飛び込んでくる!


『うおおおおおおっ!』


『エクスプロード』


「ドンッ」


3人の目の前で小爆発が起き、

3人とも背中側に吹き飛ばされていったのだった。


「ぬるいっ! 敵は魔法を使うんだぞっ! 狙いを分散させるように動けっ!」


‥‥‥。

もう返事も聞こえない。


彼らが私を見る目は、明らかな恐怖色に変わってしまっている。


これ以上やると、彼らの心が折れてしまって逆効果かな‥‥‥。


「よしっ! 今回はここまで!」


私はその後、リチャード、ボブ、ニック、ギャブソンのもとに行き、

一人ずつ念入りに『ヒール』をかけていく。


彼らは私の大事な兵士。

これから魔術師との戦い方を、学んでいかないといけないのだから。



その後訓練場から去る時に、騎士団長から見送りを受けながら話しかけられた。


「さすが、侯爵閣下はクォーレ火山のサラマンダーでいらっしゃられる。できましたら今後とも我らにご指導を賜りたく‥‥‥」


‥‥サラマンダー? 火トカゲ?


「はい、それはもちろん」


人間ですらないんですけど、それー 笑


クォーレ火山の坑夫の村より呼び名が悪化しているのであった 笑


その後リズは更に興奮してしまって、リチャードさんに家庭教師で剣術を教えてもらうことになってしまった。

エリは本人の希望で読み書き算術の家庭教師が来ることになっている。


もう一度確認しますけど、二人共まだ、3歳なんですけどね‥‥‥。


北部都市に潜ませている密偵から早馬が来たのは、それから2ヶ月ぐらいした、そろそろ冬の終わりが近づいている頃だった。


ついに、「魔導王国軍が動き出した」とのこと。

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