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24. 小さな騒動

『おいおいおい、てめぇーら、どこに目つけてんだよー』


大通りで、いかつい鎧を着て大きな剣を持った傭兵たち5人が、

道の真ん中で肩を怒らせて歩きながら、

通りがかりの人々に因縁を吹っかけていた。


「‥‥‥おい、誰か警備隊を呼べよ」

「警備隊は、町の入口で何か大きないざこざがあるって出て行ったぞ」

「じゃーどうすんだよ‥‥」


その姿を遠目で見ている街の人たちが、コソコソ話し合っている。


「キャーーッ」


女の子の叫び声が聞こえて改めて目を向けると、

真ん中の男が、たまたま通りかかった街の娘の髪を掴んでいた。


「おいこらー。俺らのへの挨拶もなしに通り過ぎるとはどういう了見だよ 笑」


ここは私の街。

そして、ディストルが頑張って良くしようとしてくれている街。


そんな街を壊そうとする輩がいる!


胸の奥で何かが、かっと熱くなり、

考えるより先に体が動いていた。


テイクアウトしたお土産を近くにあった椅子の上に置き、いつもの魔法を発動する。


『ヘイスン×クリティカル』


女の子にいちゃもんをつけていた男には、きっと私の動きは見えていなかったと思う。


ジャンプしながら繰り出した右足の靴先が、

女の子の頭の上を跳び越え、その男の左こめかみに突き刺さる。


「んがっ」


白目をむいて倒れていく男を反動にして、

右足を引き戻してその場に着地するのだった。


若草色のスカートがあおられ、まくれそうになるのを手で押さえる。


「な、なんだ、こいつ!?」


残った4人が剣を鞘から抜いて、構えてくる。


とっさに手というか脚を出しちゃったけど4対1かー‥‥少しキッツい。


こんな人がたくさんいるところで魔法を使うのも危険だし、どうしよっか‥‥。


相手は、女一人で容易いと思ったのか、悩む間もなく一気に襲ってきた。

タイミング合わせてくるあたり、単なるごろつきじゃないっ。


『ファイアーアローズ』


私は、4本の火の矢で牽制する。


「うわっ」


慌てて私の火の矢を、剣や鎧で受ける男共。

鎧にまとわりついた火を振り払っている。


「みんな下がってっ!」


私は魔法を使うスペースを作るためにも、

周りで興味津々で見ている街の人に大声で呼び掛けた。


ただ、空きスペースは広がらない。


声を聞いた前の方の人たちは、どうにか後ろに下がろうとしてくれていたけど、

そもそも通りに人が多くなりすぎていて、皆下がりようがないようだった。

逆に野次馬が押し寄せてきて、近づいてしまっているぐらい。


お得意の『ファイアストーム』で吹っ飛ばすのは、無理かー‥‥。


それに奴らの足もとには、さっき髪の毛を掴まれていた子が、うずくまっている‥‥。


フローラの時は、後ろに誰もいなかったから『ファイアブレス』使えたんだけどな‥‥。

うーん‥‥。


「てめぇー、なめたことしてくれんじゃねーか、魔女かよっ!」


男たちは火を払い終え、剣を構え直して、じりじり距離を詰めてくるのだった。

せっかく意表をついた魔法攻撃が、単なる無駄球に終わってしまった。


『ママ―ッ!?』


その時、エリの声が背中から聞こえてきた。

ごめん。今は目の前の敵から目を離せない。


『ママは大丈夫だから! どこかに隠れててっ!』


敵から目を離さず、後ろにいるエリたちにも聞こえるよう大声で叫ぶ。


いつものダガーがあれば、もう少し違ったかもしれないのに。

村から持って来た荷物の奥の方に、しまったままな気がする。


こちらは素手で圧倒的に不利。


敵がもう一歩前に出れば、敵の剣の届く距離に入ってしまう。


――― こちらも、後ろにも下がれない。


後ろには街の人がいるし、何より大切な私のリズとエリがいる!


とりあえず時間稼ぎの魔法で攻撃してみる!


『アイスアローズ』


空中に生まれた複数の氷の矢が敵の足元向かって飛んでいく!


「分かってんだよっ! お前ら魔術師のやり方はっ!」


敵は左右に散開して、私の攻撃を避け、そのまま彼らは群衆の中にまぎれていく。

完全にこちらの嫌な所ばかり、狙ってくる。


こうなると彼らだけを狙うのは無理!

ごめんなさいっ!巻き込む人!


『ピッツ』


ドゴォッ!


出来るだけ周りの人の被害を最低限にするために、縦穴で対応する。


『キャーーーッ』


周辺の人を巻き込みながら、敵が何人か縦穴に落ちていった。。


よしっ!

でもまだ、残っている奴がいたはずっ!

と周囲を見渡そうとしたとき、


「キャーッ」


と、今後は後ろの方から女性の叫び声がしてくる。


慌てて振り返って私の目に飛び込んできたのは、

剣を頭の上に振りかざし走っていく、二人の男の背中。


はやっ!


そしてその二人の男の間から、”()()()()()()()()()()” が垣間見える!


ダメーーーッ!!


一瞬で、顔が青ざめる!


反射的に、動きだす身体!


でも敵も早いし、距離があるっ!


間に合ってーーーーー!!!


後ろでまとめていた髪留めが外れ、

銀色の髪が風に掴まれ、後ろに流れていく!


もう街の人の犠牲なんて気にしていられない!


一気に片付けるしかっ


っと、魔法を発動させようとした、そのとき!



突然、目の前になにか巨大な物体の影が現れたのだった!


『ヅドォーーン』


その音と同時に、砂埃のなかから現れたのは、馬車の荷車。

それは荷物を運ぶための4輪の荷車で、馬二頭で引くぐらい重いもの。


な、なにこれ!?


さっきの男たちは、荷車に押し潰されていた‥‥‥。

目を回してひっくり返っている。


子供たちはっ!


私は目の前の荷車を迂回して、リズとエリのもとに駆けつける!



リズは ―――


両手を空に向かって高々と突き上げ、


隣でエリが「やったね」って拍手しているのだった。



私は意味が分かっていないものの、2人に飛びつき抱えあげる。


両腕の中で、ちょっと熱いぐらいの2つの温もりと

ほのかに甘やかな香りを感じることができて、

ようやく、ほっとすることができる‥‥。


よ、良かった~~

生きてる~~~ 泣


二人のちょっと乱れた息遣いが、下から私の顔をくすぐってくる。


ほんとーに、良かったーーー!


一方のリズたちは恐がることもなく、泣き出すこともなく、

腕の中でなにかを必死でアピールしていた。


「ママー、みたみたっ? ねー、ママみたー?」


話が分からず頭が混乱する。


「みたって?… なにが?」

「ええええええ!! みてないのおおお? りじゅがどーんしたんだよー!」


どーん?

――― づとぉーん?


えっ、もしかして‥‥‥。


「僕があの荷車を投げるように、リズにお願いしたんだよー」


こちらも得意気なエリ。


なんなのこの子たちはーーー 笑

馬でひく百kgはある代物を3歳が投げ飛ばすってどういうこと!?


もー本当にわけがわからないっ!


親の私が知らないままに、どんどん異次元に成長していっている‥‥。


まーそれでも、とにかく、本当に無事で良かった‥‥‥。


本当にそれだけしか、私にはない。


「ふたりとも、怖い思いをさせてごめんね」


私は笑みが止まらない2人の可愛くて柔らかなほっぺたを、いつまでも頬ずりしているのだった。


――――――


その後、遅れてやってきた警備隊と騎士団に、穴の中に落ちていた男たちも含めて全員引き渡す。


「アイテール卿‥‥‥困ります。卿の御身にもし何かございましたら、我々の責任となりますゆえ」


「ご、ごめんなさい‥‥」


その声を聞いた周囲にひろがる、動揺の声。


「おい聞いたか! あの滅茶苦茶強いあのご婦人が、新領主みたいだぞ!」

「うそだろー、絶対うそだろー」

「王が無理やり侯爵家に引き上げたって噂のあれか!」

「あー美人にたぶらかされたってあれだろ?」

「それにあの小さな女の子、あのクソ重い荷車をぶん投げたぞ!?」


ザワザワ、ザワザワ‥‥‥。


はぁーーー、ばれた。

そしてなんか、ひどい言われようをされている気がする‥‥。


騎士団長にも怒られ、


私はどこへ行っても、外様(とざま)なのねと、


ちょっとしょんぼりしていたそんなとき ―――


観客の中の誰かが、拍手をし始める。



パチ、パチ、パチ、パチ‥‥。


それは私にとって衝撃の出来事だった。

知らない街の人が、ただ褒めてくれている。

最近ずーっと荒んでいた胸奥に、

優しく水が注がれるように吸い込まれていく。


最初はまばらだった拍手が ―――

あっと言う間にどんどん広がっていき、


最後は、その場にいる皆が拍手しているような、おおきなうねりになった!


パチパチパチパチパチパチパチ!


「我らが強き新領主様に!」

「我らが美しき領主様に!」


シュプレヒコールまで飛び出して来る!


私はジーンとして、涙がこぼれ落ちそう‥‥。


私を認めてくれる人たちがいる‥‥。



『フローティング』


私はリズとエリを抱えたまま浮かび上がり、

優しい町の方々の顔を、一人一人見渡すのだった。


商品を売る行商人の女性。


宿屋の主人。


たまたま通りかかった商人。


昼から飲んだくれている傭兵団の兵士たち。


さっきまでご飯を食べていたレストランの女将さん。



いろんな人たちが、中空に浮かび上がった私のことを、熱い目で見つめてくれていた。


私は皆の気持ちを受けて、高らかに宣言する!



()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」



その瞬間っ、


『ワアアアアアアアアアアアア』


皆の興奮が、皆が歓喜の叫びが、


音の波動として、私の身に直接伝わってくる!


皆が一つとなっていた。


私は、ただ震えることしかできなかった。



私、頑張る!


もう一度頑張ってみる!


今後こそ、皆を守るから!!



私は皆の声に手を上げて感謝を示しながら、

いつまでも続く皆の温かい拍手の中、

ゆっくりと地上に下りてくるのだった。


それは地上に戻る最中のこと。


一際強い視線を受けた気がして、目をそちらに向ける。


そこには、大柄の傭兵の男が、

群衆から少し離れてこちらを見ていた。


その男は兜をかぶっていたし、

すぐに人混みにまぎれたので、

顔をちゃんと確認するできなかった。


ただ、明らかにその目は、

無表情にも、何かの意思を持って、

私の顔を思いっきり凝視していたのであった。

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