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23. グルシャへの赴任

疲労困憊のなかシルク邸に戻った私たちは、

屋敷で待っていてくれたシルクさんに事の顛末を説明する。


「ええっ!?」


私たちと同じように驚いている。

シルクさんの差し金という可能性も疑ったものの、どうやら違うらしい。


その後も1人で考えて込んで、なにやらぶつぶつ独り言を言っている。


「‥‥‥あーでも‥‥‥なるほど」

「‥‥ゴルドア王もなかなか、お人が悪い 笑」


なんなの? この2人は似た者同士?

何で通じ合っているのよ‥‥‥。


こっちは驚きの連続で、もう何も考えたくない‥‥。


「色んな人が貴族になった途端、態度を変えてきて人間不信になりそうです」

「ほんと、シルクさんまで態度変えてきたら怒りますからねっ!」


ジャブをうっておく。


「ははは、グルシャ侯爵となるとこの国で三番目の地位になりますからねー。そりゃー皆目の色を変えますよ。イリィ卿 笑」

「シルクさんっ!!」


もうつ! 完全に楽しんでいる。

笑いが止まらないとはこの事っていうぐらい、興奮しているみたい。


「ははははは、冗談ですよ、冗談 笑」

「でもグルシャの領主がイリィさんとなると、うちの商会は俄然元気になりそうです。今後ともごひいきのほどよろしくお願いいたします。私の人を見る目は間違えなかったですよ。ガハハハハハッ」


珍しく、シルクさんが溢れ出る数々のたくらみに、高笑いを漏らしているのであった。


「もー! 私は町の運営なんて関わりませんから! そういうのはディストルと話してください!」


「‥‥えっ!?」


同じく疲労困憊でソファーに座りこんでいた、隣のディストルが驚きの声を上げる。


「ぼ、ぼくが?」

「ディストルはルクソンでうちの家の取りまとめをしていたぐらいなんだから、そういうの得意でしょ。仕事も探していたところなんだからちょうどいいじゃない」


シルクさんがぽんっと手のひらを打つ。


「なるほどー。ディストルさんが領主代行ですかー。うーん、確かにいいアイディアですねー」


シルクさんも同意してくれる。


『えええええぇぇぇぇぇ????』


ソファから立ち上がり、固まっているディストルに、私は最終通牒を渡す。


「大丈夫よ。ディストルならできるからっ!」


だって私も少しは楽しても良いでしょ? 笑

それにディストルなら本当にできると思ったんだもの~。


――――――


その後ゴルドアでの邸宅の割り当てをうけ、維持管理者との面通し、正式なゴルドア王の叙任式、処々の事務作業を終え、一ヶ月ぐらい経ってようやく自らの所領であるグルシャに赴くことになった。


まだ表立っての反発は無いけど、叙任式でも明らかに不満そうな顔をしている列席者が大勢いた。


「だから嫌だったのに‥‥‥」という言葉が舌の上まであがってきて、つい口にしそうになったものの、

領主とは何たるかを本気で勉強し始めたディストルや、可愛い我が子の無邪気な姿を見ていると、

今更引き下がるわけにはいかない。


ここに来るときは簡素なホロ馬車だったのに、

出るときは騎士達に護られた立派な儀装馬車(ぎそうばしゃ)に変わっているなんて誰が想像できようか。


ガラガラガラガラッ


馬車は湖畔の道をグルシャに向かって軽やかに走っていく。

側の森でロウとイーガーが付いてきてくれているのを感じていた。


馬車の中には私たち家族の他に、シルクさんが推薦してくれた優秀な執務官も一緒について来てくれている。

そして今はディストルと一緒に、今日一日の予定を分単位で聞かされているのであった。

なにごとも初めが肝心らしい‥‥。


グルシャはしばらく領主不在で王直轄地だったらしい。

今の町の統治は王が任命した執行官が行っているとか。

まずは現執務官との面談と引き継ぎ。


次に、空き家だった領主邸を管理してくれていた管理人と新執事の挨拶。


そして、グルシャ騎士団長の挨拶。


それが終わると、領主直轄地代官の挨拶、

商業ギルド長の挨拶、

宿屋ギルド長の挨拶、

鍛冶ギルド長の挨拶。


それから地主の方々とお昼の会食。


そして、昼からは‥‥‥、

町の警備隊長の挨拶、


‥‥‥。

‥‥‥。


‥‥‥プシュゥーーー。


泣いちゃってもいいのかしら‥‥‥。



――― 結局、その日全て終わったのは夜更け遅く。


同じ邸宅にいたのに、リズとエリにそれまで顔もあわせられなかった。

私は、もう今すぐベットの中に倒れ込みたいと思うぐらい疲労困憊‥‥‥。


今日ぐらいはゆっくりさせて‥‥‥。


と願いながら、子供たちがいる居間を通りすぎようとしたら、


『ママーーー!!!』


見つかった‥‥‥。


執事の手配したメイドと一緒に遊んでいたリズとエリが、私の姿を見つけて部屋から駆け寄ってくる。


「ママ―、ママー、凄いんだよ、この家!」

「ママ―、わたしね! わたしねっ!」


二人に足元にしがみつき、今日一日あった事、この邸宅の広さと構造の事をずーっと話しかけてくる。


ママ、ほんと死んじゃう‥‥‥。


涙目になってディストルに救いを求めようとしたら、

それ以上死にそうになっていた彼は、一足先に寝室に逃げ込んだあとだった。



この後一時間、二人が話疲れるまで付きあわされるのであった‥‥。


――――――


その後も忙しい毎日は続き、子供たちの興奮状態もなかなか収まらなかった。


ただなんやかんやで一週間過ぎたら、皆ようやく落ち着きを取り戻してきている、ディストル以外は。


彼はあいかわらず、執務室に閉じこもって執務官と夜遅くまで、

町や直轄地の運営についてあれこれ話しあっているみたいだった。


久しぶりの貴族生活 。

食事・洗濯などの家事をしなくていいのは大きくて、

私だけ結構楽をさせてもらっている。



今日は、リズとエリと、大きすぎる居間を使って3人で遊んでいた。


「ママー、おもちゃ飽きた~。お外行きた~い」


結局いくら子供のおもちゃがたくさんあっても、それで満足できないもの。

田舎育ちのうちの子は特にそうかも。

まー私も、ずーっと外に出れていないかったから、かなり鬱憤がたまっていた。


「せっかくだから、今日は町にくりだそっか!」

『わーーい!』


私たちは意気揚々と、そのまま、玄関から出ていこうとする。


「行ってきまーす!」


そしたら、後ろから執事がものすごい形相をして、追いかけて来るのだった!


「ちょ、ちょっと!おまちくださーーーい!」

「 そ、そんな格好で町に出向くなんて、侯爵家としての威厳をなんとっ!!」


そう、私たちは村から持ってきた服を着ていた。

だってそっちの方が楽なんだもの。


「じゃあ、お忍びということで!」

「絶対にばれます! せめてっ、警備の者を!!」


「大丈夫だって、私に敵う人なんてそうそういないから」


私はそう言い残すと、執事を残してそのまま出てきてしまう。

だって警備されている方が目立ってしょうがない。


一応これでも万が一の時に備え、常に『ヘイスン』は発動できるようイメージの練習は繰り返しているんだからねっ!

ただ実際役に立っているのは、リズが飛び出したり、エリが他の人にぶつかったりしそうになったときなんだけど 笑


私たちの領主の館は昔の商業ギルドを改装したものらしく、街道に面して建てられていた。

警備という面ではかなり不都合のあるつくりだったものの、私は町の賑わいが窓から直接聞こえてくるところが気に入っている。

ドアから出てすぐに、通りの賑わいに混じっていく。


「なに見るー?」


子供たちと話しながら、通りを歩いている。

街道は相変わらず、多くの商人や旅人であふれている。

みんな自分たちの都合にしか興味がないみたいで、

もくもくと歩いていて、私たちに目を向けるひとなんていない。

ほらー、こんな子連れの家族を領主だなんて、誰も思わないって 笑


「このまえのしちゅーたべたーい」


リズが目の前の小さなレストランを指さしている。

前回来たときにお昼食べたレストラン。

あそこ何気においしかったよね~。


「じゃーちょっと早いけどお昼にしよう!」

「やったー!」


即断即決。

自分たちだけ決められるって、爵位が付くと意外に難しくなるので、それだけで何か楽しい!


店の入り口をくぐると、

前来たときと同じ威勢の良い声が店の奥から聞こえてくる。


「いらっしゃーい! おっ、この間の家族連れだねっ! また来てくれてありがと~」


その声にちょっとした懐かしさを感じる。

まだ1ヶ月近くしか経っていないのに、なにもかも変わってしまっていた。


「おいしかったのでまた来ちゃいました~。よろしくお願いいたします」

「嬉しいこといってくれるねぇ~。美人さんだし、もうここは量をサービスしちゃわないとねっ」

「はははは、そんないっぱいは食べられないので、普通の量で大丈夫です 笑」


変わらない温かさにほっこりするのだった。


机の上においてあったメニューを見て、一応リズとエリにも説明してほしいものがないか確認する。

でもリズは、


「おいしいのっ! しちゅー!」


しか答えない。


一方のエリは真剣に悩んで、


「僕はオススメ食べてみたいな」


と答えてくる。

もう絶対3歳児じゃないでしょ‥‥‥。


「女将さんっ! おススメってあります?」


「おススメかいっ? なんでもオススメだけど、ちっちゃい僕ちゃんにお勧めしたいのは、ホロホロ肉の煮込みシチューかなっ♪」

「エリ、それにする?」

「うんっ!」


目をキラキラ輝かせてエリが答えてくる。

その笑顔が可愛くてたまらない。


「あいよっ! お嬢ちゃんはこの間の‥‥クリームシチューね。お母さんはどうする?」


一か月以上前に一回きたきりなのに覚えているなんて‥‥‥すごい。


「あっ、あっ‥‥‥じゃー私は揚げジャガイモとキャベツの酢漬けを。あとパンもお願いします!」

「はーい。ホロホロ肉の煮込みシチュー、クリームシチュー、揚げジャガイモとキャベツの酢漬け、パン2人前ね」

「おねがいします」


その後出て来た料理はどれもこれも相変わらずおいしくて、

リズもエリも大喜びでパクパクと飛びついていく。


これは何をディストルへのお土産に持ち帰ったらいいか悩むな~。

彼の喜ぶ顔を想像すると、つい本気で悩み始めてしまう‥‥。


彼には大変な役目を押し付けて申し訳ないという気持ちは持っている。

でも同時に、彼の処理能力に舌をまいていたのも本当。

あの有能な執務官ですら認めたいたぐらい。

彼に任せて本当に正解だった。


身も知らぬ、ぽっと出の領主なんて、表では従うふりをしながら、裏で無視を決め込むなんて日常茶飯事。

私たちは、シルクさんの手の者以外、家族しか頼る人は居ないのだ。

そんな孤立無援の状況の中、ディストルはただ辛抱を重ね、

ときには脅しも使いながら、少しずつ皆を動かしているのだった。


頑張っているディストルに、おいしいものを届けてあげたい。

本当にその一心だけ‥‥。


そして、煮込みシチューとパンの付け合わせをテイクアウトすることにした。


これは間違えなく喜んでもらえるだろうなー。


ディストルの喜ぶ顔を思い浮かべて、既にもう笑みを浮かべてしまっている。


「ごちそうさまでした~。今日もおいしかったです♪」

「あいよっー! また来てねー!」


女将さんの嬉し気な声が、私の気持ちをさらに高ぶらせる。

リズもエリも、満足していて楽しそう。


そんな最高な気分だったのに、

レストランを出た途端、現実を突きつけるように、

気分を台無しにすることが起きてしまうのであった。


私たちは静かに暮らしたいだけなんだけどなー。

周りがそれを許してくれない‥‥‥。

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