21. シルク商会
私の寄り道のせいでゴルドアに着いたときには、
もう日が暮れて、街の門が閉められる直前になっていた。
私たちは急いで馬を走らせる!
門番というのは融通が利かないから、もし時間を過ぎてしまったら絶対入れてくれない!
おかげで、ホロの中で何度も飛び跳ねて、頭をホロの天井にぶつけていた 笑
「キャーーッ!」
リズは飛び跳ねて喜んでいるけど、受け止める私の方が気が気じゃない。
街の外には、城壁と同じぐらいの高さになる巨大な布の幕が、
謎に何台も設置されていたらしかったけど、
そんなこと気にする余裕は、私にない。
『ま、待ってーーー』
ディストルが門をとじようとしている門番を、大声でとめる!
ギリ、セーフ!
私たちはすんでのところで、閉まる門にもぐり込み、
通行税を支払って無事街の中に入ることができたのであった。
ふ~、良かった~~。
子供たちと野宿なんて、風邪ひいたらどうするのよ‥‥‥。
魔法が効かないというのは、不便なことが多すぎる。
門をくぐって見えてきたのは、薄暗い狭い通りに、ぎっしりと詰め込まれた家々。
通りもぐねぐねと曲がり、馬車がすれ違うのもやっとという窮屈さ。
王都というからには、もっと整然とした街並みを思い描いていた私は、
正直、少し拍子抜けしてしまっていた。
ホロ馬車を貸してくれた商会に、馬車を返却して、私たちはシルク商会を目指して歩き始める。
初めての街で子供たちがはぐれないよう、
私がリズを、ディストルがエリを、抱っこして街の通りを進んでいく。
街は城へ向かって扇線状に伸びているらしく、どの道も最終的には城へと繋がっているようだった。
しばらく進むと、住居街から職人街に入る。
「カンッ! キンッ!」
あちこちの鍛冶屋から響く、力強い金属音。
火花の匂いと、熱を帯びたむあっとした空気が漂ってくるのだった。
ここには木材加工の工房も多く、長い木材が道にまではみだしていて、
歩いている方としては危なくてしょうがない。
「ちょっと、エリっ!」
エリがディストルの腕を抜け出して、遊びに行こうとして怒られている。
こういう時はリズの方が大人しい 笑
リズも目をキラキラ輝かせてきょろきょろを見回しているけど、
「ママ! あれなにー? これはー?」って聞いてくるだけで、自分から飛び出しはしないのであった。
‥‥‥双子なのに、本当違う。
だから衝突しなくて良いのかもしれないけど 笑
もともと暮れかかっていた夕陽は歩いているうちに、あっという間に地平線の下に沈み、
暗闇が街を覆い被さろうとしていた。
そろそろ手燭に火をつけた方がいい頃かな?
そんなことを思い始めたその時、
急にパーッと。
街が一斉に明るくなる!
「えっ、なに!?」
それはルクソンで見たような光景。
道の両端に並ぶ柱。
そのの上に置かれたガラス細工の中で、赤い炎が揺れている。
これは何かを燃やしているんじゃない。
これは、『ファイア』の魔力波動。
‥‥‥これって。
赤い炎が燃えている柱の下に近づいてみたら、
やはり書いてあった、
”シルク商会寄贈” と。
シルクさん凄すぎる‥‥。
こんな高級な魔石をこんな道端に提供できるなんて、
シルクさんどれだけ大商会になっているのかと‥‥‥。
そしてそれはシルク商会に辿り着いたその時に、
目に見える形として実感することになる。
「‥‥‥で、でかっ‥‥‥」
地図に書かれたそこには、ここら辺では珍しい3階建ての石造りで、
それは立派な建物が立っていた。1ブロック丸ごとが、シルク商会。
それは “建物” なんて言葉で、片付けていいものじゃなかった。
建物の大きな鉄製の扉を備えた入り口には、
厳つい格好をした騎士が槍を掲げて立っている。
騎士が警備‥‥‥?
あれ‥‥‥?
ここって皆が商売しに来る ”商会” だよね?
建物の入り口の上には一応 ”シルク商会” という看板が掲げられているが、
どう見ても完全に貴族の邸宅だった。
恐る恐る入口の騎士に声をかける。
「あ、あのーシルク商会はこちらであってますか?」
「あっている」
「では、中に入ってよろしいですか?」
「ならんっ!」
‥‥‥ぇ。ならんって‥‥。
商会なのに、普通の人が入っちゃいけないって、
もうそれは商売やめているのと同義では‥‥‥。
「ぇっと‥‥‥シルクさんの招待状があるんですけど‥‥」
「んなっ! 客人かっ!? では通られるがよいっ!」
入口を警備していた騎士は脇に退き、我々を通してくれる。
何だろう、このちぐはぐ感 笑
私たちは、騎士の目の前を抜け、
恐る恐る重厚なドアを開いて、中に入る。
正直予想はしていたけど ―――
「‥‥‥うそでしょ‥‥」
言葉を失ってしまう。
中もそれはそれは、豪華なホールとなっていた。
2階まで吹き抜けている高い天井。
そんな天井から、これまた豪華なシャンデリアが飾られていて、
なんと蝋燭ではなく、これまた赤い魔石で明りが灯されている。
そして屋内なのに、2階から滝が流れていた‥‥。
い、意味が分からない‥‥。
もはや商会じゃない。
完全に貴族の館、それも一級の。
というかルクソンの伯爵家の豪邸でも、こんな贅沢な作りは見たことない。
呆然としながら、ホールのまん中に設置された
いかにも間に合わせで作った受付で、名前を告げると、
そのままシルクさんの執務室へと案内される。
シルクさんの執務室は二階にあるらしい。
受付の奥にあるこれまた豪華な大階段を上がって、
二階にいくと、真っ赤な絨毯で綺麗に飾られた廊下が続いていた。
う、うーん‥‥。
久しぶりの貴族の邸宅に、何となく気後れしてしまっている。
廊下の一番奥までたどり着くと、案内の人がようやく足を止めた。
軽くノックして私たちの到着を告げる。
「はい、どうぞ」
案内の人が扉を開けると、
「いらっしゃい! イリィさん!」
シルクさんは、いつもとかわらない、あの笑顔で我々を迎えてくれた。
ほっ‥‥‥。
ああ、良かった~。
肩の力が一気に抜ける。
あのシリィの宝石店で、ドタドタ走ってきていたいつものシルクさんだ。
貴族風に挨拶されたりどうしようと悩んでいたところ。
しばらくカーテシーなんてやってないから、やり方を忘れちゃっている 笑
気が緩んだついでに、クレームのように入口の騎士の話をしたら、
「すみません、急にゴルドア王から警護を付けると言われてしまって、私も困っているんですよ~」
と困り顔で返された。
どうやら貴族になったというわけでもなく、
最近の魔導王国の動向もあるのでゴルドア王が、ご厚意でされていることという話であった。
なんだ~ 笑
でも、王にまで目をかけられるとは、かなりの大出世じゃなかろうか‥‥。
その後軽く世間話をしたあと、今日は疲れているだろうからと、
今晩は屋敷の客間をお借りするということになったのだった。
――― 明日から、この街での新しい生活が始まる。
ディストルの就職先は見つかるかとか、
住む家は貸してもらえるのかとか、
子供たちは街の生活に馴染めるかとか、
様々な不安が頭をよぎっていく。
次から次へと浮かんでくる不安に、思考が追いつかない。
‥‥もう、今日は考えたくない。
せめて、今日だけは。
「少しぐらい、頼ってもいいよね‥‥?」
甘えても、罰には当たらないとは思っていた。
客間は想像通りの豪華な作りで、
ピレオーツ村のうちの家の何倍あるんだろうかという空間に、
豪華な家具が整然と置かれているのであった。
ベッドなんて、大人が5人寝ても余りあるぐらいの広さ。
私たちは一家は、久しぶりに四人一緒に眠りについたのである。
けれど ―――
私はまだ知らなかった。
翌日、この “頼る” という選択が、
想像以上の意味を持つことになるなんて。




