表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
110/119

21. シルク商会

私の寄り道のせいでゴルドアに着いたときには、

もう日が暮れて、街の門が閉められる直前になっていた。


私たちは急いで馬を走らせる!

門番というのは融通が利かないから、もし時間を過ぎてしまったら絶対入れてくれない!


おかげで、ホロの中で何度も飛び跳ねて、頭をホロの天井にぶつけていた 笑


「キャーーッ!」


リズは飛び跳ねて喜んでいるけど、受け止める私の方が気が気じゃない。

街の外には、城壁と同じぐらいの高さになる巨大な布の幕が、

謎に何台も設置されていたらしかったけど、

そんなこと気にする余裕は、私にない。


『ま、待ってーーー』


ディストルが門をとじようとしている門番を、大声でとめる!


ギリ、セーフ!


私たちはすんでのところで、閉まる門にもぐり込み、

通行税を支払って無事街の中に入ることができたのであった。


ふ~、良かった~~。


子供たちと野宿なんて、風邪ひいたらどうするのよ‥‥‥。

魔法が効かないというのは、不便なことが多すぎる。



門をくぐって見えてきたのは、薄暗い狭い通りに、ぎっしりと詰め込まれた家々。

通りもぐねぐねと曲がり、馬車がすれ違うのもやっとという窮屈さ。


王都というからには、もっと整然とした街並みを思い描いていた私は、

正直、少し拍子抜けしてしまっていた。


ホロ馬車を貸してくれた商会に、馬車を返却して、私たちはシルク商会を目指して歩き始める。

初めての街で子供たちがはぐれないよう、

私がリズを、ディストルがエリを、抱っこして街の通りを進んでいく。


街は城へ向かって扇線状に伸びているらしく、どの道も最終的には城へと繋がっているようだった。


しばらく進むと、住居街から職人街に入る。


「カンッ! キンッ!」


あちこちの鍛冶屋から響く、力強い金属音。

火花の匂いと、熱を帯びたむあっとした空気が漂ってくるのだった。

ここには木材加工の工房も多く、長い木材が道にまではみだしていて、

歩いている方としては危なくてしょうがない。


「ちょっと、エリっ!」


エリがディストルの腕を抜け出して、遊びに行こうとして怒られている。


こういう時はリズの方が大人しい 笑

リズも目をキラキラ輝かせてきょろきょろを見回しているけど、

「ママ! あれなにー? これはー?」って聞いてくるだけで、自分から飛び出しはしないのであった。


‥‥‥双子なのに、本当違う。

だから衝突しなくて良いのかもしれないけど 笑


もともと暮れかかっていた夕陽は歩いているうちに、あっという間に地平線の下に沈み、

暗闇が街を覆い被さろうとしていた。

そろそろ手燭に火をつけた方がいい頃かな?

そんなことを思い始めたその時、


急にパーッと。


街が一斉に明るくなる!


「えっ、なに!?」


それはルクソンで見たような光景。


道の両端に並ぶ柱。


そのの上に置かれたガラス細工の中で、赤い炎が揺れている。


これは何かを燃やしているんじゃない。


これは、『ファイア』の魔力波動。


‥‥‥これって。


赤い炎が燃えている柱の下に近づいてみたら、

やはり書いてあった、


”シルク商会寄贈” と。


シルクさん凄すぎる‥‥。


こんな高級な魔石をこんな道端に提供できるなんて、

シルクさんどれだけ大商会になっているのかと‥‥‥。


そしてそれはシルク商会に辿り着いたその時に、

目に見える形として実感することになる。



「‥‥‥で、でかっ‥‥‥」


地図に書かれたそこには、ここら辺では珍しい3階建ての石造りで、

それは立派な建物が立っていた。1ブロック丸ごとが、シルク商会。


それは “建物” なんて言葉で、片付けていいものじゃなかった。


建物の大きな鉄製の扉を備えた入り口には、

厳つい格好をした騎士が槍を掲げて立っている。


騎士が警備‥‥‥?


あれ‥‥‥?

ここって皆が商売しに来る ”商会” だよね?


建物の入り口の上には一応 ”シルク商会” という看板が掲げられているが、

どう見ても完全に貴族の邸宅だった。


恐る恐る入口の騎士に声をかける。


「あ、あのーシルク商会はこちらであってますか?」

「あっている」

「では、中に入ってよろしいですか?」

「ならんっ!」


‥‥‥ぇ。ならんって‥‥。

商会なのに、普通の人が入っちゃいけないって、

もうそれは商売やめているのと同義では‥‥‥。


「ぇっと‥‥‥シルクさんの招待状があるんですけど‥‥」


「んなっ! 客人かっ!? では通られるがよいっ!」


入口を警備していた騎士は脇に退き、我々を通してくれる。

何だろう、このちぐはぐ感 笑

私たちは、騎士の目の前を抜け、

恐る恐る重厚なドアを開いて、中に入る。


正直予想はしていたけど ―――


「‥‥‥うそでしょ‥‥」


言葉を失ってしまう。


中もそれはそれは、豪華なホールとなっていた。


2階まで吹き抜けている高い天井。

そんな天井から、これまた豪華なシャンデリアが飾られていて、

なんと蝋燭ではなく、これまた赤い魔石で明りが灯されている。


そして屋内なのに、2階から滝が流れていた‥‥。


い、意味が分からない‥‥。

もはや商会じゃない。

完全に貴族の館、それも一級の。

というかルクソンの伯爵家の豪邸でも、こんな贅沢な作りは見たことない。


呆然としながら、ホールのまん中に設置された

いかにも間に合わせで作った受付で、名前を告げると、

そのままシルクさんの執務室へと案内される。


シルクさんの執務室は二階にあるらしい。

受付の奥にあるこれまた豪華な大階段を上がって、

二階にいくと、真っ赤な絨毯で綺麗に飾られた廊下が続いていた。


う、うーん‥‥。

久しぶりの貴族の邸宅に、何となく気後れしてしまっている。


廊下の一番奥までたどり着くと、案内の人がようやく足を止めた。

軽くノックして私たちの到着を告げる。


「はい、どうぞ」


案内の人が扉を開けると、


「いらっしゃい! イリィさん!」


シルクさんは、いつもとかわらない、あの笑顔で我々を迎えてくれた。


ほっ‥‥‥。

ああ、良かった~。


肩の力が一気に抜ける。


あのシリィの宝石店で、ドタドタ走ってきていたいつものシルクさんだ。

貴族風に挨拶されたりどうしようと悩んでいたところ。

しばらくカーテシーなんてやってないから、やり方を忘れちゃっている 笑


気が緩んだついでに、クレームのように入口の騎士の話をしたら、


「すみません、急にゴルドア王から警護を付けると言われてしまって、私も困っているんですよ~」


と困り顔で返された。


どうやら貴族になったというわけでもなく、

最近の魔導王国の動向もあるのでゴルドア王が、ご厚意でされていることという話であった。


なんだ~ 笑

でも、王にまで目をかけられるとは、かなりの大出世じゃなかろうか‥‥。


その後軽く世間話をしたあと、今日は疲れているだろうからと、

今晩は屋敷の客間をお借りするということになったのだった。


――― 明日から、この街での新しい生活が始まる。


ディストルの就職先は見つかるかとか、

住む家は貸してもらえるのかとか、

子供たちは街の生活に馴染めるかとか、

様々な不安が頭をよぎっていく。


次から次へと浮かんでくる不安に、思考が追いつかない。


‥‥もう、今日は考えたくない。

せめて、今日だけは。


「少しぐらい、頼ってもいいよね‥‥?」

甘えても、罰には当たらないとは思っていた。


客間は想像通りの豪華な作りで、

ピレオーツ村のうちの家の何倍あるんだろうかという空間に、

豪華な家具が整然と置かれているのであった。

ベッドなんて、大人が5人寝ても余りあるぐらいの広さ。


私たちは一家は、久しぶりに四人一緒に眠りについたのである。


けれど ―――

私はまだ知らなかった。


翌日、この “頼る” という選択が、

想像以上の意味を持つことになるなんて。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ