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19. 湖底の廃墟

この湖は底がかなり深いらしく、どんどん下っていく。

最初は湖の上で旋回していたイーガーも、私の歩きの遅さにしびれを切らし、

湖の底まで降りてきて、一緒に、てこてこ歩いているのだった。


水の壁が数十メートルの高さを越えた辺りから、周囲が急激に暗くなり始めている。

こんな水の妖精たちに囲まれた空間では、他の属性魔法を使うこともままならず、

『ファイア』で明りを取ることは難しそうだった。


大分道は平坦になってきたので、これ以上暗くなることはないと思う。


こんな高いの水の壁に挟まれていると、

大断崖コルトラッシュでフローラとダビとロウと歩いたことを思い出す。


あの時はフローラがイライラ怒っていて大変だった 笑

ダビは無事、フローラと子供の元まで帰れただろうか。


彼らの顔を思い出すと、なぜか笑みがこぼれてくる。

きっと今回も大丈夫。

根拠はないけど不思議とそう思えてくるから、不思議なもの。



私はその後も、ひたすら湖底の道を歩いている。

ここの湖底は比較的砂が少なく歩きやすい。

たまに水草に隠れて、長方形の大きな石が転がっていたりするが、

自然の岩とは思えず、少し奇妙に思っていた。


コツコツ‥‥、コツコツ‥‥。


最初はただの砂地だと思っていた。

けれど、しばらく歩いているうちに、

足裏に伝わってくる感触に違和感を覚え始める。


‥‥平らすぎる。


自然の湖底にしては、均一すぎる感触。

しゃがみ込んで手で砂を払ってみると、

その下には、なめらかすぎる岩の表面があった。


”イーガー、ちょっと思いっきり翼を羽ばたかせてみて”


「ギュッ!」


イーガーはこちらの意図をくみとり、私の前に出て、その2mを超える羽をひろげる!


バサッ、バサッ! バサッ、バサッ!


その巨大な翼で強風を巻き起こす。


地面に積もった砂が、あっという間に舞い上がり、思わず目をそらす。

顔にあたる、細かい砂の粒子。


でも、耐えられない程の痛さじゃない。

やっぱり、砂の層が薄い‥‥‥。


見えてきたのは ―――

明らかに人工的につくられた、石の連なりだった!


?!


これは道だ。


それも、どこかへ向かうために作られた道。


改めてよく見ると道の周辺にも、

家が崩れたと思われる四角い岩々が転がっていた。

遠くの方までは暗くて見えないけど、

家の基礎だと思われる岩が規則的に並んでいる。


なんでこんな湖の底に?


足元の道は、岩と岩の間に継ぎ目がなく、

水の中でもつるっとした表面を保ち続けている。

そして所々で、ガラス化している。

まるで高温の熱で溶かされ、くっついたかのように‥‥。


そしてその道は、

私を導くかのように、

湖の中心に向かって、まっすぐ伸びているのだった。



私は、怖さというより、その壮大さにのまれてしまっていた。


そして、この光景を見て‥‥‥思い出す。


神の怒りに触れ、湖の底に沈んだ都市。

あの神話の本に書かれていた話‥‥‥。


あれは、本当の話だった!?


あの本に書かれていた出来事は、

遥か数百年前の古代の話。


それなのにこんなに、綺麗に、全てが残っている。

――― 水の壁の向こうでは、数の多くの魚たちが崩れた家の影に隠れながら、優雅に泳いでいた。



そんな荘厳な雰囲気に包まれていると、自然と気持ちが高ぶってくる。

この先にあるのは果たしてなんなのか。


気付くと、歩くスピードが徐々に上がっているのだった。

早く、早くたどり着きたい!


「コツコツ、コツコツ」


道は徐々に横の地面から離れて、緩やかにそこだけ昇り始めていた。

まだ目の前になにがあるかは、暗くて見えてこない。

でも間違いなく、湖の中心まであと少し、 というところまで来ている。


神殿に続く柱のように、道の左右に、折れた柱が並び始める。

気付けばさっきまで等間隔に並んでいた家の基礎石が見えなくなっていた。


私が歩く道だけ、この先にある繋がっているかのように、


まるで、ここから先が ―――


聖域であるかのように。



ブオオオオオオーーーー。


突然、

水の領域にも関わらず、

激しい風が私のそばを吹き抜けていった。


そして。

私は思わず足を止めた。


その先に広がる光景を、すぐには理解できなかったからだ。

湖の中心。


凄まじい勢いの竜巻が、湖底が見えるほど、

大量の湖水を下から上へと巻き上げていた。


水が、ものすごい勢いで空へと昇っているのだ!

その異様な光景に、背筋がぞくりと震える。


これが ――― 風の精霊シルフの力。

水の精霊オンディーヌの力に劣らない‥‥。



そして、そこが湖の中心だった。


巻き上げられる水流が壁となり、

その向こう側は、中心になにがあるかは見えない。


だが、その奥に何があるのか、もう分かっている。


私はゆっくりと息を吸い、前へと踏み出す。


『スプリット』


私はもう一つ同じ魔法を唱え、巻き上げられる激流に私たちが通れるだけの小さな通路を作る。


「‥‥通った?」


少し私は驚いていた。

この魔法がすんなりとオンディーヌに受け入れられるとは思っていなかった。

シルフを囲う檻に、穴をあけることが許されるなんて。


それは、私がここに来るべき存在であることを知っていたかのようだった。


イーガーと一緒にその通路の中を歩いていく。

私たちの外側では湖水が轟音と共に風にまみれ、激しい水流となって、

上へ上へと流れてっているのだった。

自然の摂理すらものともしないシルフの強大な力が、直ぐ側の水の壁の向こうでは吹き荒れているのに、

私たちにはそよ風ひとつ吹くことはない。


そう、シルフは待っているのだ。

私が来ることを。

そう、何百年も前から。



水の壁を通り抜けて見えてきた先は、

この都市の中心にあったと思われる巨大な尖塔と、それを囲む丸い石畳の広場。

ここだけ完全に湖底が乾ききっていて、太陽の光が真上から差し込んでいる。


この空間は、風の妖精で充ち満ちており、

濃密な空気の流れに、息苦しさすら覚えてくる。


温かい太陽の光を浴びているのに、その光の祝福を感じる余裕がない。

周囲に充ちる怒りの気が、私たちを押しつぶしているかのようであった‥‥。


目の前の尖塔には、人の背ほどの大きな黒く不思議な金属板がはまっている。


異質だ。

この遺跡のどこにもなかった素材。


そしてそこには ―――

金色の古代文字が刻まれていた。


私の読めない文字。


なのに、自然と目が吸い寄せられる。

書かれていたのは、"神に至る道"


‥‥読める。


"三つの道を通り(三つの道を通り)八つの試練を(八つの試練を)くぐり抜けし者よ(くぐり抜けし者よ)


いや、違う!

これは‥‥。


神になりたる称号を(神になりたる称号を)手に入れし者よ(手に入れし者よ)


読まされている!


現の世を離れ(現の世を離れ)我が名を呼び掛けよ(我が名を呼び掛けよ)


視線が外せなくなり、

文字が直接、頭の中に流れ込んでくる!


我は(我は)全ての(全ての)始まりを(始まりを)司る(司る)


その黒い石板に並ぶ金色の文字は、

流れ込んでくるのと同じタイミングで、

その部分の文字が、きらびやかに輝いていく。


まるで、私の魂に刻み込まんとするがごとく。


逃げ場もなく。


私の意思も無視して。



‥‥‥神に至る道。

魔術師たちが最終的に目指す終着点だ。


一瞬だけ、心が揺れた。


そうすれば、私は世界になれる。

エリザベスも、エリアスも、ディストルも。

皆を守ることができる。


”失わずに済むのなら ―――”


ぞわりと、背筋を悪寒が走る。


「違う! これは私の考えじゃない!」


”受け入れよ”


”己が運命を”


声がする。

心の中で声がする。


いつも聞こえてくる女の人の声だけど、

その重さがいつもと違う。

これは‥‥‥村で神界に行った時と同じ。


"選べ(選べ)"


"さもなければ(さもなければ) ―――"


その続きを、聞かまいとするように、私は強く歯を食いしばる。


「――― うるさい‥‥」


『うるさいっ!』


心の中に入り込んでくる “それ” を!

とにかく力任せに押し返す。


『いらないから!』


絞り出した言葉を、叩きつけるかのように吐き出す。


「神も、運命も」

「全部いらない!」


頭の中に刻まれていた金色の文字が、ひび割れていく。

そしてその文字たちは、金色の小さな破片となって消えていく。


私は、


エリザベスとエリアスの母で、


ディストルの妻で、


ただの魔術師だ。


それでいい。

それ以上は、いらない!


"‥‥あなたなら、そう言うと思っていたわ"


声の質が、重さが、変わる。

いつもの、どこか呆れたような、軽いタッチの女の声。


"なら、試練を与えるとしたら?"


「受けるつもりはない」


即答だった。


"‥‥そう"


わずかな間。


"あなたの子に、与えることもできるのよ?"


――― 世界が、止まった。


血の気が、引く。


神様が脅しっ!?


次の瞬間、沸騰する。


「――― っ、ふざけるな」


喉の奥から、低い声が漏れる。


もし。

もし本当に。

そんなことが起きるなら。


神だろうが。

運命だろうが。

世界だろうが。

全部、ぶっ壊す。


"‥‥そう"


今度は、満足げな響きだった。


"理解したわ"


"あなたは ――― その身で、全てを引き受けるのね"


『違う』


食い気味に明確に否定する。


でも。


"いいえ。もう”

”あなたは選んだのよ"


声が、やわらかく笑っている。


"()()()()()()()()()()()()"


その言葉を最後に。

声の気配が、消えたのだった。



私は、無意識に胸をおさえてしまっていた。

嫌な予感が、いつまでも、どこまでも消えない‥‥。

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