表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
性別が変わっても俺は私  作者: 蘭熊才王
第四章 風の章
107/122

18. ゴルドー湖

次の日の朝起きた時。


羽毛が舞うように、心が、ふわりと軽く跳ねていた。


――― ああ、少しだけ戻ってきた。


”ありがとうね。私の大切な旦那様”


隣でむにゃむにゃ眠っているディストルの頬に、そっとキスをする。

そして私は彼を起こさないように。こっそり布団から抜け出す。


途端に襲ってくる。

冬の朝の寒さ。


さむっ!


薄着ではつらすぎる。

慌てて、昨晩、脱がされた服をかき集め、次々と着込んでいく。


‥‥なんとなく昨日のことを思い出して、

少しだけ顔が火照るのだった。

身体の奥底がちょっとだけキュンってしている。


子供たちには‥‥‥気付かれてないないよ、ね?


――― もう! 朝から何考えてるの私‥‥。


軽く頭を振って、切り替える!

さあ出発の準備をしないとっ! 今日中にはゴルドアに着きたい!


結局、昨日は手拭いで身体を拭いただけ。

お湯につかれなかったのが、ちょっとだけ心残りだった。

子どもたちの髪も洗ってあげたかったな‥‥‥。


でも、すべてはゴルドアに着いてからね!



宿の裏口を開けると、

外にはオレンジと水色が溶け合う、澄みきった朝の空が広がっていた。


胸いっぱいに空気を吸い込む。


すぅ。

はぁーーー。


今日も、いい日になる。

私は、そんな予感がしていたのであった。


――――――


「さー! しゅっぱーつ! 今日中にゴルドアにつくからねー」

『しゅっぱーつ!』


ディストルの掛け声に、子どもたちが元気に応える。


その楽し気な声を聞いて、

胸の奥に溜まっていたものが軽くなる。


よかった~。


エリもリズも、昨日でかなり元気を取り戻していた。

きっと、心も体も、限界だったんだと思う。

今日さえ乗り越えれば、きっと少しは落ち着ける。

――― そう信じたい。


街を出てしばらくすると、また暗い森の中に逆戻り。

森の湿気と冬の寒さが混じった、かび臭い空気に包まれる。


ただ、それも今度はそれもひとときの間だけ。


しばらく進むと、森の片側がじわじわと明るく、抜けていく感じがする。


風まで変わり、重たい空気がすっと抜けていく。


森の中から戻ってきたロウが、そんな爽やかな風を受けて楽し気に吠えるのだった。


「ばぅっ!」


ロウは毎夜、森の中でイーガーと協力して狩りを楽しんでいる。

イメージの共有依頼を受けたとき、てっきり今晩の狩猟の戦果自慢でもしてくるのかと‥‥‥。


”‥‥‥えっ、そうなの?”


それは驚きの内容だった。


そのとき、まさに2匹から聞いた通りに、

森が一気に開け視界が広がる!


左手に見えてきたのは、深い碧色をした巨大な湖!


「ザザーーーーッ」


湖面を這う強い風が、

ホロを大きく揺らしていく。


「みじゅうみーーっ!」


村で見慣れた光景と同じ景色に、リズが鼻息を荒くする。


「これがゴルドー湖だよー」


ディストルが大声で御者台から教えてくれる。

正直ここまで大きな湖だとは思っていなかった。


対岸ははるか遠くにあり、湖面の上を覆う霧のせいで、あまりよく見えない。

向こうの岸まで数十kmはあるような気がする‥‥。


ホロ貨車から身を乗り出して前の方を向くと、

湖沿いに少しずつ曲がった道のずーっと先に、

尖塔をもつしっかりした城が、少しだけ見えているのであった。


街道はここから湖畔沿いに走っていて、

綺麗な円弧を描いている。

湖自体がコンパスで描いたような綺麗な円になっていた。


「あと少しね!」


「うんっ!」


私はほっとして、ホロの中に頭を戻そうとしたら、


イーガーがまた、先ほど中断してしまったイメージ共有をしてこようとする。


”どうしたの? そんなに何度も?”


”ええっ! そんなところに?”


それは、イーガーがどうしても、

伝えたくなることが分かる驚きの報告だった。



――― 私はディストルに馬車を止めてもらい、

舞いおりてきたイーガーと、もう少し詳細を確認する。


ディストルと子供たちは、イーガーの大きさに恐がって離れて見ている。

ハゲワシは子供ほどの高さがある。


‥‥‥。

‥‥‥なるほど、真ん中にあるのね。

何度かイーガーに確認を取った私は確信をもつ。


イーガーが言っていることは、嘘じゃない。

そう、イーガーが風属性魔法を使えるのが、何よりもその証拠だもの。


ついに見つけた!

()()()()()()()()()()()” を!!



私はディストルだけ呼び寄せて、息を弾ませながら語り始める

ディストルは、今までのことを全て知っている。


「ディストル、見つけたのっ!」

「えっ、なにを?」


「前から探していた風の妖精シルフの居場所よ!」


「えぇー? どこに!?この周りは湖しか、なにもないよ?」


私は一呼吸を置いて、その問いにゆっくりと答える。


「――― 湖の中心に」


「ええええええっ!?」

「湖の中心ってなにもないよっ! ほらっ!」


ディストルが湖の中心を指さす。

湖の中心だけどんよりした薄暗い積乱雲がかかっており、

白い柱に見えるほど激しい雨が降っているようだった。


「あそこに、水の精霊オンディーヌに囲まれたせいで、外に出られなくなった風の精霊シルフがいるのよ」


「ほんとーーーっ!?」


「イーガーが体験してきたって言っているから、間違えない」


「シルフは元々気ままな精霊でいつもどこにいるか分からないの!」

「でも、ここならイーガーみたいに直接触れ合って、風属性魔法を取り戻すことが出来る!」


ディストルは目を白黒させて、突然の話に面食らっていた。


「‥‥‥お願い、行かせて?」


ディストルは眉間にしわを寄せて黙り込む。

そういえば昔、ディストルに言われたことがある。


僕の妻は偉大な魔術師で、

たまに自分の理解が及ばないほど、

とんでもないことをすることがある。


――― 僕はそれが怖い。


いつか自分の妻が帰ってこなくなるような気がして、

とてつもなく怖くなることがあるんだ。


そしてもしそんなことが起きたら、僕は自分の力で、

自分の妻を守れなかったことを、永遠に後悔してしまうだろうと。


「‥‥‥」

「‥‥‥」


それは、苦渋の重さを推し量れるほどの、長い間だった。


「‥‥‥わかった‥‥」


「でも一つだけ、約束して」


これまでにないほど、

苦しみにまみれた顔で告げられる。


「必ず、無事に戻ってくると!」


その言葉は、簡単に返していけないと思わせるほど、重苦しさに満ちたものだった。


でも‥‥‥ごめんなさい‥‥。


私が返す言葉は、変わらない。


「‥‥分かった。約束する」


私は傍らで座っていたロウに向き直る。


「ロウ、私の家族を見ていてくれる?」

「ワゥッ!」


そして、ディストルの気が変わらないうちに湖畔へ向かおうとしたとき、

今度は可愛い声が後ろから聞こえてくるのだった。


「ママッ! どこいくのっ!」

「リズもいくーー 泣」


ふふっ‥‥もぅ 笑


遠くで様子を見ていた子供たちの所まで戻って、二人を優しく抱き寄せる。


「大丈夫。ちょっと行ってくるだけだから。すぐに帰って来るね?」

「ママー、ヤダーーー」


二人の可愛いおでこに軽くキスをする。


「大丈夫、ねっ? お留守番できるよねっ? 笑」

『‥‥‥うん』


大袈裟になっちゃったけど、

こんなかわいい子供たちを残して、私はどこかに行くわけがない。

無茶はしない。

ただ湖の中心まで行って、シルフと直接会話するだけ。

たかぶる気持ちを落ち着かせるように、一度深呼吸をする。


”イーガー、道案内よろしくねっ”


『スプリット』


湖畔から水面が割れていき、目の前に中心に向かう真っすぐの湖底の道が現れる。

道の両脇には巨大な水の壁が出来、道がある空間に水が流れ込まない様流れを止めている。


突然水が無くなって驚いた小さなカニたちが、海底を慌てて左右に移動しているのだった。

湖底は緩やかなすり鉢状となっており、道は少しずつ下っている。


「じゃあ、行ってきます! すぐに帰ってきます!」


「本当に気を付けてね! いってらっしゃい!」


四元素魔法を取り戻す旅は、

ようやく最後となるであろう挑戦に、たどり着けたのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ