16. 運命のしらべ
私たち一家はいま馬車に乗っていて、
シルクさんが誘ってくれた大森林国家ゴルドアを目指している。
東のタキオン、南のルクソン、西のゴルドアと呼ばれるほどの大国。
都市がいくつかに分散していて、一つ一つの都市にそれほど人口がいるわけではないけど、
ゴルドア王を中心に、昔から強固な中央集権国家を作り上げていた。
木材や鉱物などが豊富で、工芸品や武器などの工業製品の生産が盛んだ。
そして、ゴルドア商人と聞いて知らないものは居ないぐらい、商売も盛んな国。
なぜゴルドアを目指しているのかというと‥‥‥、
私はあまり語れる気もしない‥‥‥。
一つだけ言えるとしたら、
「私たち一家はピレオーツ村から追放された」
ということ。
シルクさんが用意してくれたホロ付きの馬車の中で、
何も知らないリズとエリが、久しぶりの旅行に大はしゃぎしている。
今はディストルが御者台に座っていてくれていて、私はホロの中で子供たちの面倒を見ていた。
ホロの後ろからは、見慣れたロック山脈の白い山並みが見える‥‥‥。
その雄大な風景を見るだけで、私は涙がこぼれそうになり、
子供たちに見つからないよう、ホロから顔を出して風にあたるふりをするのだった‥‥‥。
あのシーンがよみがえってくる。
――――――
『イリィ! 本当なの!?」
「あなたが魔導王国の元貴族で、彼らがあなたを追って来たというのは!』
あの時のロンドの顔は一生忘れられそうにない‥‥‥。
憎悪を剥き出しにした、あんな獣のような顔を見たのは初めて。
自分の息子の命が奪われ、
その原因が親友と思っていた人のせいで、
さらに敵とつながりがあると分かったとき、
どうしてその人のことを信用できようか。
ロンドはリッキーになだめられながらも、
いつまでも、
いつまでも、
私のことを泣きながら糾弾しきた。
『ねぇ! なんでなの!』
『ねぇ! なんで言わなかったの!?』
『ねぇ! 最初からだますつもりだったということなのっ!』
『答えなさいよっ! ねぇ! なんか言いなさいよ!』
『私のリジュを返してよーーーっ!!!』
『わあああああああああ』
私は‥‥‥何も言えなかった‥‥。
親友のロンドの息子を、
リズとエリの親友を、
自分のせいで失うことになって。
村の皆を守ると、
あれほど豪語していたのに、
一番大事な親友の子供すら守れなかったなんて。
私は、何も、
語る言葉を持ち合わせていなかった‥‥‥。
‥‥ただ頬を、涙が濡らしていく。
――――――
「バウッ!」
馬車の後ろを走って付いてきてくれているロウが、心配そうに私の方を見つめていてくれた。
「はっはっ」、息を切らしながらも、
心配して私の所まで近寄ってこようとしてくれていた。
「‥‥ロウ、ありがとう」
頬を伝う涙をぬぐう。
「大丈夫よ」
どうにか、ロウに笑みを返す。
はるか上空を、「シューー」という鳴き声を上げながら、イーガーもついてきてくれていた。
まだ一人に戻ったわけじゃない。
私には可愛い子供たちも、
大切な旦那様も、
ロウもイーガーもいるじゃない‥‥‥。
私にはいるんだから‥‥‥味方になってくれる人が‥‥。
あの時は、誰も、
そう誰一人、
味方してくれなかったけど‥‥‥。
――――――
「出て行ってくれ」
それは、無情な宣告だった。
そんな言葉があの村長さんの口からでるとは、
想像もしていなかったので、私はすぐには理解できなかった。
えっ? なんでっ?
なんで? なんでっ?
「すまない‥‥、これは村の総意なんだ‥‥‥」
「君たちのことはもう、信用できない」
ダビも間に入って、必死に弁護してくれたけど風向きは変わらない。
私とディストルは皆の前で一方的に糾弾され、
公開処刑のように追放を言い渡された。
家族じゃなかったの?
結婚式の時、言ってくれたじゃない‥‥。
なんで?
なんで私たちのこと信じてくれないの?
一方の村人も、
信じていたのにと傷付いた表情をしている者、
憎しみにも似た怒りを浮かべる者、
目を逸らして関わらないようにしている者、
色んな人がいた。
ただひとつ言えることは、
村人は誰ひとり、そう誰一人、
ミレイですら、
私の味方をしてくれなかった‥‥‥。
この4年間って、いったいなんだったの‥‥。
わたしは、なんのために、今まで戦っていたの?
わたしが、今まで、村の皆ときずきあげてきた絆って、なんだったの?
私は、皆にとってなんだったの?
両ひざから力が抜けて、
その場に私は崩れ落ちてしまう‥‥‥。
隣にいたディストルが支えてくれていなかったら、
私は地面に伏してしまっていた。
もう誰の顔も見れない。
あの時、私の全ての土台が崩れ去ったのだ‥‥。
――――――
その後ダビにお願いして、ゴルドアにいたシルクさんに話を繋ぎ、
どうにか次の住処を提供してもらえることになったのだ。
村長さんは、あとで「すまない‥‥‥すまない‥‥‥」と繰り返しながら、
馬車の準備ができるまでは、村に留まることを許してくれた。
なんでなの‥‥?
わたしの人生は、なんでいつも何かを失う連続なの?
最初は魔法軍、
そしてゲイル、
次はフローラ、
その次は父上と妹のダリーユ‥‥‥。
そして今回は、私の家族の居場所‥‥‥。
なぜこれほどにまで運命に、つらい人生を強いられているのか。
私はそんな責めを受けるべき人生を送って来たのか。
教えて欲しい‥‥‥。
ねぇ、教えてよ。
ねぇ、なんでなのよ‥‥‥。
なんでこんな時だけ、黙り込むのよ‥‥。
ズルいわよ‥‥神なんて‥‥。
運命とは、神とは、
ここまで残酷なものなのか。
私には分かりようもないことだった。
ただこの一件で、運命の過酷さを一番感じたのは ―――
ピレオーツ村の村人だったかもしれない‥‥‥。
私が去って、理由がなくなったダビもすぐに自分の街へ戻っていったそうだ。
主要な戦力を失った村は、その後フィルムッシュ王国の援軍が来たにも関わらず、
あっという間に陥落したとか。
私を追放したからといって、王国軍が交渉のテーブルにつくことはなく、
一気に攻め込まれ、攻防戦は一方的な戦況であったと聞く。
その後、王国軍という名の、
もはや傭兵に過ぎないケダモノたちが、
なにをしたかは聞いていない。
‥‥聞きたくもない。
ただ地図から村の名が一つ消えた、それだけが全て‥‥‥。
そう、これが戦争という狂気の沙汰‥‥。
実際それを私が知ったのは、だいぶ後の話である‥‥。
―――
冬の凍える冷たい空気が、ホロ馬車の中まで流れ込んでくる。
私は子供たちが風邪引かないようにと、2人と一緒に毛布にくるまるのであった。
とにかく子どもたちを守らないと……。
今の私たちは、それどころじゃないんだから……。
何を失っても。
どれだけ傷ついても。
この腕の中にいる二人だけは、絶対に失えない。
”あなたが、そこにこだわればこだわるほど、運命の歯車は残酷になっていくわよ‥‥‥”
何かが聞こえた気がした‥‥。




