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性別が変わっても俺は私  作者: 蘭熊才王
第四章 風の章
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14. 祝勝会

その日は、この村で初めての事態が起きた。


「ディストル~、これどうするんだ~?」

「それは、小さく切ってこちらにおいてくれれば」


「これはどうしたらいいー?」

「それはそれで完成なので、大広間にそのまま出してください!」


あの村長さんが、女衆の苦労をねぎらって宴会を開くと言い出したのだ!


そのうえ自分たちで準備するから、ゆっくりしていていいと。


あまりにみんな不慣れで、見ている方がやきもきする。

ありがたいというより心配で、皆ついつい見に行ってしまっている。


床に落ちた野菜の皮、肉が焦げ付いた鍋、散らかる村長宅の調理スペース‥‥。


「もー、あれは片付け大変よ、エレジア‥‥‥」

「はははは‥‥‥」


エレジアさんも乾いた笑いしか出てこない。


「しょうがないわねー、片付けは皆でやりましょう 笑」


グレンダさんが皆の気持ちを代弁してくれる。


気持ちだけありがたく頂いた方が楽だったかも 笑

でもこの村の男衆は良くも悪くも、頑固だからな~。

ま、男っそういうところあるもんだよねー 笑


そうやって苦笑いしながら見ていたけど、

本当は少しだけ、ほわほわと温かくなっていた。


今までなら、きっと何事もなかったみたいに流されていたと思う。

女衆が頑張ったこともうやむやのまま、日常に戻っていたはず。

それなのに、こうして形にして「ありがとう」を返そうとしてくれている。


不器用でも。

段取りが悪くても。

それでも、伝えようとしてくれていること自体が嬉しかった。


そして、それは女衆の中でも同じだった。


「イリィ、ありがとうね」


大広間でイスに座ってエリとゆっくりしていたら、

グレンダさんが、乳酒の小瓶を持って挨拶しにきてくれた。

私のコップに少しお酒を注いでくれる。


「グレンダさん、お疲れ様です。グレンダさんの氷の矢もすごかったですよ」


私の魔法は確かに派手だったけど、今回は皆が主役だったみたいなもの。

誰か一人でも欠けていたら、敵に簡単にいなされ、

私の魔法発動が間に合わなかったかもしれない。


私は注いでもらった乳酒をごくっと飲む。

喉を滑らかなとろみが通り抜け、その独特なコクが鼻の奥へ突き抜けていく。


うんっ、おいしい 笑


「イリィ、あなたのおかげで村の皆の命を救えた。本当にありがとうね」


‥‥‥笑


「私はもうこの村の住人ですよ? 皆で守るのが当たり前じゃないですか」

「あなたって人は‥‥‥。あなたってこんな凄いことしたのに、全然偉ぶらないのね 笑」


グレンダさんの少し呆れた物言いに感化されてしまい、生粋の反骨心が表に出てしまう。


「それぞれができることをやる。それが村の暮らしだと教わりましたしねー」

「やっぱり、ちょっと根に持っているのね 笑」

「そんなことないです 笑」


私は苦笑いを浮かべる。

でもそれだけで、誤魔化さない。

グレンダさんとは、何か通じるものがあるような気がしていた。


「‥‥ただ、できることを皆が少しづつ広げていけば、皆で楽しく生きられるようにはなるとは思っています。そのためには少しづつ余計なことまでやらないと」

「たしかに男衆が料理するなんて前代未聞の出来事ね 笑」

「そ、それは予定外の出来事で、す、すみませんでしたけど‥‥‥」

「冗談よ 笑」


グレンダさんも軽く笑い飛ばす。


「私も‥‥‥若い頃は、結構しゃしゃり出る方だったのよ。それが歳をとって‥‥‥駄目ねぇ 笑」


私はその言葉を聞いて、不思議と嬉しくなる。


 ”文化 ――― 人々の考え方の癖なんてなんてすぐには変わらない。代を重ね、歴史を重ねていくうちにいつの間にか少しづつ変わっていくもの。だから変わり続けようとする思いの継承がなによりも大切 ―――”


「イリィ?」

「‥‥‥! いえっ、フッて頭の中に声が響いたもので 笑」


それも、いつもの女声じゃなくて、少し中性的な無性の声。


「神でも舞い降りたのかしらね 笑 いずれにしろ今日はお疲れ様~! 乾杯ッ!」

「はいっ、乾杯ッ!」


軽く杯をかわし、残った乳酒をごくりと飲みほしたのであった。


”言っておくけど私じゃないからね?”


その日は余興に、お祭りの時のようなロウとのマジックショーをお披露目して、

夜遅くまで盛り上がったのであった。


あの村のことを思い出すときは、いつも楽しかったこの日の晩のことを思い出す。



――――――


束の間の日常が戻ってきて、もう冬の到来を間近に感じる、ある良く冷えた日の朝だった。


「さっ‥‥むぅー」


『ウォーム』


魔法で少しサボりながら、私は手をこすり合わせて、

朝の日課の、鶏の餌やりをしに外に出ていた。


そろそろ小雪が混じり始めても良い頃で、空気がキーンって張り詰めて乾燥している。

今日も晴れやかないい天気になりそうだった。


朝日が昇る前の、白じんできた空には雲一つ存在しない。

はるか上空に白い翼を広げた大きな鳥一羽飛んでいる。



「ピィー‥‥」


掠れたような笛の様な鳴き声が聞こえたような気がした。

さー、さっさと仕事を終わらせて温かい家の中に戻ろう。


――― 鶏小屋に向かっているところだった。


なにか遠く後方の方から、ビューっと風を切る音がしてくる。

なんだろう?と思っていたところで、


あっと言う間にその音が近づいてきて、

大きな何かの影が後ろから襲ってくる!


「バサァッ! バサァッ!」


思わず頭をすくめた私の頭上を通り、その大きな影は目の前の家畜の柵に舞い降りた!


それは子供の身長ぐらいもある、1mを超える大きな白い鳥。


な、なんなのー!?


あまりの驚きに考えが追い付かない。

半ば無意識的に、魔力回路に『ヘイスン』の四肢を駆け巡るイメージだけ形作っておく!


「フィッ!」


黄色いまん丸の目がきょろりとこちらを向いて、小さく鳴く。


白い鳥は、目の周りを黒い毛で囲われていて、

黒と白とのコントラストがその格好良さを際立たせている。

口元に立派な黒い髭をたくわえていて、

太くて丸く爪のように尖ったくちばしが、たくましい。


確か、”ヒゲワシ” ‥‥‥だよね?


動物の骨を丸呑みして、胃の中で溶かしてしまう、唯一無二のすごい能力を持った鳥。

でも性格は極めて温厚で、無駄な争いは避ける知的な存在と言われていた。


わざわざ、人間の前に降りてくるような鳥じゃないと思ったけど‥‥‥。


「フィフィッ! フィッ!」


その鳥は何かを語りかけるかのように、私に向かって短く鳴くけど、

当然のことながら、私は鳥の言葉は理解できない。


何を言おうとしているんだろう?


と、

魔力波動の微弱な波が、私の魔力回路を揺らそうとするのを感じる。


これって『マジックスキャン』じゃ?


お返しに、高出力の『マジックスキャン』をかける。

すると、目の前にヒゲワシから、びんびん魔力の反応が返ってくるっ!


「ええーーーっ! ロウ以外にもいた! 魔法を使える動物がっ!!」


驚きのあまり、つい大声を出してしまう。


「シューーーッ!」


そのヒゲワシは突然の音に驚き、

その大きな羽を「バサバサッ」音を立てて羽ばたかせながら、

あっという間に上空に舞い戻ってしまった。


『ウィンド』使って飛びあがったんだ!

この子すごいっ!

風属性魔法を使いこなしている!


そう。

これが私の、ヒゲワシの男の子イーガーとの、初めての出会いだった。

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