14. 祝勝会
その日は、この村で初めての事態が起きた。
「ディストル~、これどうするんだ~?」
「それは、小さく切ってこちらにおいてくれれば」
「これはどうしたらいいー?」
「それはそれで完成なので、大広間にそのまま出してください!」
あの村長さんが、女衆の苦労をねぎらって宴会を開くと言い出したのだ!
そのうえ自分たちで準備するから、ゆっくりしていていいと。
あまりにみんな不慣れで、見ている方がやきもきする。
ありがたいというより心配で、皆ついつい見に行ってしまっている。
床に落ちた野菜の皮、肉が焦げ付いた鍋、散らかる村長宅の調理スペース‥‥。
「もー、あれは片付け大変よ、エレジア‥‥‥」
「はははは‥‥‥」
エレジアさんも乾いた笑いしか出てこない。
「しょうがないわねー、片付けは皆でやりましょう 笑」
グレンダさんが皆の気持ちを代弁してくれる。
気持ちだけありがたく頂いた方が楽だったかも 笑
でもこの村の男衆は良くも悪くも、頑固だからな~。
ま、男っそういうところあるもんだよねー 笑
そうやって苦笑いしながら見ていたけど、
本当は少しだけ、ほわほわと温かくなっていた。
今までなら、きっと何事もなかったみたいに流されていたと思う。
女衆が頑張ったこともうやむやのまま、日常に戻っていたはず。
それなのに、こうして形にして「ありがとう」を返そうとしてくれている。
不器用でも。
段取りが悪くても。
それでも、伝えようとしてくれていること自体が嬉しかった。
そして、それは女衆の中でも同じだった。
「イリィ、ありがとうね」
大広間でイスに座ってエリとゆっくりしていたら、
グレンダさんが、乳酒の小瓶を持って挨拶しにきてくれた。
私のコップに少しお酒を注いでくれる。
「グレンダさん、お疲れ様です。グレンダさんの氷の矢もすごかったですよ」
私の魔法は確かに派手だったけど、今回は皆が主役だったみたいなもの。
誰か一人でも欠けていたら、敵に簡単にいなされ、
私の魔法発動が間に合わなかったかもしれない。
私は注いでもらった乳酒をごくっと飲む。
喉を滑らかなとろみが通り抜け、その独特なコクが鼻の奥へ突き抜けていく。
うんっ、おいしい 笑
「イリィ、あなたのおかげで村の皆の命を救えた。本当にありがとうね」
‥‥‥笑
「私はもうこの村の住人ですよ? 皆で守るのが当たり前じゃないですか」
「あなたって人は‥‥‥。あなたってこんな凄いことしたのに、全然偉ぶらないのね 笑」
グレンダさんの少し呆れた物言いに感化されてしまい、生粋の反骨心が表に出てしまう。
「それぞれができることをやる。それが村の暮らしだと教わりましたしねー」
「やっぱり、ちょっと根に持っているのね 笑」
「そんなことないです 笑」
私は苦笑いを浮かべる。
でもそれだけで、誤魔化さない。
グレンダさんとは、何か通じるものがあるような気がしていた。
「‥‥ただ、できることを皆が少しづつ広げていけば、皆で楽しく生きられるようにはなるとは思っています。そのためには少しづつ余計なことまでやらないと」
「たしかに男衆が料理するなんて前代未聞の出来事ね 笑」
「そ、それは予定外の出来事で、す、すみませんでしたけど‥‥‥」
「冗談よ 笑」
グレンダさんも軽く笑い飛ばす。
「私も‥‥‥若い頃は、結構しゃしゃり出る方だったのよ。それが歳をとって‥‥‥駄目ねぇ 笑」
私はその言葉を聞いて、不思議と嬉しくなる。
”文化 ――― 人々の考え方の癖なんてなんてすぐには変わらない。代を重ね、歴史を重ねていくうちにいつの間にか少しづつ変わっていくもの。だから変わり続けようとする思いの継承がなによりも大切 ―――”
「イリィ?」
「‥‥‥! いえっ、フッて頭の中に声が響いたもので 笑」
それも、いつもの女声じゃなくて、少し中性的な無性の声。
「神でも舞い降りたのかしらね 笑 いずれにしろ今日はお疲れ様~! 乾杯ッ!」
「はいっ、乾杯ッ!」
軽く杯をかわし、残った乳酒をごくりと飲みほしたのであった。
”言っておくけど私じゃないからね?”
その日は余興に、お祭りの時のようなロウとのマジックショーをお披露目して、
夜遅くまで盛り上がったのであった。
あの村のことを思い出すときは、いつも楽しかったこの日の晩のことを思い出す。
――――――
束の間の日常が戻ってきて、もう冬の到来を間近に感じる、ある良く冷えた日の朝だった。
「さっ‥‥むぅー」
『ウォーム』
魔法で少しサボりながら、私は手をこすり合わせて、
朝の日課の、鶏の餌やりをしに外に出ていた。
そろそろ小雪が混じり始めても良い頃で、空気がキーンって張り詰めて乾燥している。
今日も晴れやかないい天気になりそうだった。
朝日が昇る前の、白じんできた空には雲一つ存在しない。
はるか上空に白い翼を広げた大きな鳥一羽飛んでいる。
「ピィー‥‥」
掠れたような笛の様な鳴き声が聞こえたような気がした。
さー、さっさと仕事を終わらせて温かい家の中に戻ろう。
――― 鶏小屋に向かっているところだった。
なにか遠く後方の方から、ビューっと風を切る音がしてくる。
なんだろう?と思っていたところで、
あっと言う間にその音が近づいてきて、
大きな何かの影が後ろから襲ってくる!
「バサァッ! バサァッ!」
思わず頭をすくめた私の頭上を通り、その大きな影は目の前の家畜の柵に舞い降りた!
それは子供の身長ぐらいもある、1mを超える大きな白い鳥。
な、なんなのー!?
あまりの驚きに考えが追い付かない。
半ば無意識的に、魔力回路に『ヘイスン』の四肢を駆け巡るイメージだけ形作っておく!
「フィッ!」
黄色いまん丸の目がきょろりとこちらを向いて、小さく鳴く。
白い鳥は、目の周りを黒い毛で囲われていて、
黒と白とのコントラストがその格好良さを際立たせている。
口元に立派な黒い髭をたくわえていて、
太くて丸く爪のように尖ったくちばしが、たくましい。
確か、”ヒゲワシ” ‥‥‥だよね?
動物の骨を丸呑みして、胃の中で溶かしてしまう、唯一無二のすごい能力を持った鳥。
でも性格は極めて温厚で、無駄な争いは避ける知的な存在と言われていた。
わざわざ、人間の前に降りてくるような鳥じゃないと思ったけど‥‥‥。
「フィフィッ! フィッ!」
その鳥は何かを語りかけるかのように、私に向かって短く鳴くけど、
当然のことながら、私は鳥の言葉は理解できない。
何を言おうとしているんだろう?
と、
魔力波動の微弱な波が、私の魔力回路を揺らそうとするのを感じる。
これって『マジックスキャン』じゃ?
お返しに、高出力の『マジックスキャン』をかける。
すると、目の前にヒゲワシから、びんびん魔力の反応が返ってくるっ!
「ええーーーっ! ロウ以外にもいた! 魔法を使える動物がっ!!」
驚きのあまり、つい大声を出してしまう。
「シューーーッ!」
そのヒゲワシは突然の音に驚き、
その大きな羽を「バサバサッ」音を立てて羽ばたかせながら、
あっという間に上空に舞い戻ってしまった。
『ウィンド』使って飛びあがったんだ!
この子すごいっ!
風属性魔法を使いこなしている!
そう。
これが私の、ヒゲワシの男の子イーガーとの、初めての出会いだった。




