13. 初勝利
シルクさんが1度村に寄って、大量の魔石を置いていってくれたり、
ダビがフィルムッシュ王国との交渉状況を伝えに来たり、
色々あったけどまだ肝心の援軍は、村に到着していなかった‥‥‥。
私たち魔術師隊は、増員を重ねて、
村の大半の女性が参加するまでの規模に膨れ上がってきている。
今日も湖の近くで、みなで熱心に訓練をしているのであった。
一方の男衆は、見て見ぬふりをするかのように、
表立っては私たちに関わろうとはしてこない。
「家に帰ると、旦那がチクチク嫌みをたれるから、一喝してやったわよ 笑」
「ねー、何のためにやっているのか分かっているのかしら 笑」
「そうそう、昨日なんてね ―――」
心なしかもしれないけど、
お母さんたちの顔がたくましくなってきている気がする。
皆のために頑張っているという自負は、人を強くする。
あのクォーレ火山の鉱夫のように、皆目をきらきら輝かせていた。
口々に「魔法軍なんて、大したこと無い」って言っていたぐらい 笑
1ヶ月が過ぎた頃だろうか、
秋が大分深まり、もうすぐ冬の到来も見えてきて、
もしかしたら今年は来ないんじゃないかと期待しだした、そんな折だった。
やつらは予兆もなく姿を現した。
最初見たときは何かの間違いかと思ったくらい。
封鎖していた峠に魔法軍がやってきたと言われ、大急ぎで駆け付けたら、
王国軍ですらないどこかの私兵5,6人が門を開けろって怒鳴っていのだった。
魔術師の一人もいない。
これが魔法軍?
『ファイアボール』
空中で火の玉を見せつけたら、
そいつらは慌てて、山道を駆け降りていった。
その後駆け付けた村長さんに、
「なんてことをしてくれたんだっ! 交渉できなくなったじゃないかっ」
とこっぴどく怒られたんだけど、実際私はあんまり反省していない 笑
あんなのと交渉したって何の意味もない。
山賊と変わらないじゃない。
きっと財産だけ奪って、約束を反故にする連中だって。
まあ向こうの話を聞く気もなく、脅して追っ払ったのは事実だけど 笑
家に帰ったら、深刻な顔をしたディストルが待ち構えていて、
「イリィ‥‥‥」
「はー‥‥、次はちゃんと村長が来るまで待つんだよ」
って、怒られてしまった。
「は‥‥い‥‥、ごめんなさい」
しゅん‥‥。
信頼している旦那様にまで言われてしまうと、私も強くは返せないじゃない‥‥‥。
村長もディストルを使ってくるなんて‥‥‥ズルい。
次からは気を付けます‥‥。
そして翌日、彼らは魔術師を連れて数十人規模で戻ってきたのだった。
あら?本当に王国軍だったみたい、てへっ。
まー私は、謝るつもりないけどねっ!
私が峠を見下ろせる山上の監視所にたどり着いたときには、
村長たち男衆が既に現地についていて、
閉鎖した木の柵を挟んで交渉を開始していた。
男衆が鍬とか鎌とか、武器にもならない道具を持って、村長の周りを固めている。
ディストルの姿も見える。
あんな木の柵なんて魔術師からしたら無いも同然。
私からしたら、命知らずの痴れ者に見えてしょうがない。
何かあったらどうするの!?と、胸のざわめきが止まらない。
問題は、ほんと、魔法だけだ‥‥‥。
北の道を除けば2つしか入り口がないこの村は、天然の要塞であった。
南の峠およびその山道は狭くしているから、大量の兵士で一気に攻め込むことが出来ない。
もう一つの入り口であるトンネルの方は、『ウォータージェット』の魔石を使って、
水流で鉄門を閉める仕組みを作っておいた。
きっと今頃、門番をやっている村人が扉を閉じている頃。
子供たちも万が一に備えて、村に残ったお母さん方が避難させている。
でも魔法だけは、魔術師でないと、どうしても防げない。
この世で神の奇跡をのぞけば、魔法はそれほど圧倒的な力。
柵越しの村長さんの交渉の方だけど、
ここからじゃ話の内容まで聞こえない。
ただ、お互いの表情を見る限り、あまりうまくいっていないよう。
村長さんの険しい表情が更に険しくなっていき、
焦っているのかのように、さかんに顔の汗を拭っている。
私は万が一のときに備えて、頻繁に『マジックスキャン』で警戒・威嚇しながら、
『アンチマジック』の発動準備を整えている。
相手も『マジックスキャン』を乱発していて、
緊張の糸がピンッと張り詰めたまま、何かのきっかけで全てが解き放とうと、
場の空気が究極まで張りつめられ、震えているかのようであった。
『それじゃ、交渉にならない!』
悲鳴のような村長さんの声が、峠の山々に鳴り響く。
それを合図かのように敵のリーダーは柵を離れ、
敵の魔術師たちの魔力が魔力回路に注ぎ込まれるを感じる。
『交渉決裂! アイスアローズ放てっ!』
『アイスアローズ』
私の後ろに控えていた我が魔術師隊の女衆が、敵の集団に一斉に氷の矢を放つ!
多数の氷の矢は私の魔力の回旋の力も経て、
100m以上先にいる敵に向かって空中を走っていく。
だけど、敵の魔法の発動の方が早い!
村長さんはまだ柵近くにいて、柵の間から手を伸ばし、
去っていく敵のリーダーにすがりつこうとしていた。
敵の狙いは村長と男衆!
ディストルたちがあぶないっ!
なにしてんのっ!
『アンチマジック×ディフュージョン』
火水風、様々な属性の魔法が、敵の間近にいた男衆たちを襲う!
それは一気に全てをなぎ払おうとするが、
虹色の膜で、消えるように全てが無効化されていくの!
この魔法が発動している領域では、
全ての魔法が全て無効化される!
タキオン教やうちの双子に触発されて、私が自作した魔法イメージ!
うまくいった!
よしっ!
そして遅ればせながら、敵を襲う、
私たちの『アイスアローズ』の雨あられ。
魔術師たちは、自分の魔法が無効化されたことに驚きながらも、
急ぎウォール系の魔法を唱えて、
我々の魔術師隊の『アイスアローズ』を防ごうと試みる。
「ぎゃぁーっ」「あがっ!」
防御が間に合わなかった敵兵たちが、
数多くの矢が突き刺されていく。
氷の矢は突き刺さったところから、ピキピキっと凍り付いていき、
激しい火傷のような痛みとなって、敵の動きを封じる!
たとえ鎧で矢を受けても、その冷たさは防ぐことが出来ない。
敵にとっては極悪な攻撃だ。
敵の兵は氷の矢で凍り付いた鎧を、慌てて外そうとしているのであった。、
この隙を私は無駄にしない。
繰り返しになるが、魔法は先手必勝だ。
「やるなら最後までやりきれ」
我ら魔術師が、最初に魔法学校で学ぶ、基礎中の基礎。
『ラージウェーブ』(津波)
私の魔法に水の妖精が応え、突如柵の向こうに大量の水流がわきだす!
この水は単なる水じゃない。
土や砂を含んでおり、1度巻き込まれると、
窒息死するまで水面に浮き上がってくるのは不可能。
そんな凶悪な水流の塊が、
素早く流れるよう溶岩で固められた道の上を、走り抜けていくのだ!
私の起した津波は、鉄砲水として、あっと言う間に全員を飲み込んでいき、
数百m先の山裾まで引きずり降ろしていったのであった。
敵の姿は、一人も見当たらない。
綺麗に夕陽を反射する、
きらきらと輝く黒い山道が、
高らかに我々の勝利を宣言しているよう!
柵のこちら側では、腰を抜かした村長たち男衆が、
呆然とその光景を見つめている。
『わあああああっ!』
やったあっ! 一人の犠牲者も出さずこの村を守り切ったっ!
皆赤らんだ顔をして、目を潤ませながら、ぴょんぴょん飛び跳ねている 笑
この日、この場にいた魔術師隊の女衆は、
紛れもなく村最大の功労者で、ほとんどの人にとって、
人生で最初に勝ち取った栄誉に違いなかった。
私たちは山上のこの小さな監視所で、
この小さな、でも間違いのない勝利の余韻を、
いつまでも味わっていたのだった。
一方、そんな私たちを、はるか遠く山の中腹の岩に止まった白く巨大な鳥が、見つめているであった。
それは、なにかを見定めるような、なにかをもたらすような、深く澄んだ目をしている。
それが吉兆なのか、凶兆なのか、そのときの私は知るよしもなかった。




