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親類だろうが独占欲のためならなんでもしてやるから


朝が来て、警視庁内は健やかな顔で寝ているアキラとは打って変わって、徹夜で捜査に打ち込んでいるものが多くいた。

江戸川彰の誘拐事件の三日後、捜査本部は早くも進展を見せていた。

太宰暦の親類との連絡を取ることが出来た。


親はもう話すこともままならないほど認知症が進んでいるが、姉は二課が協力してくれたおかげですぐに特定することが出来た。とはいえ、その特定というのも早いものは早いのだが、見つけるには相当苦労したらしい。なにせ、太宰に関する履歴書が全て彼の手によって故意的に消されていたのだから。復旧に時間がかかり手間取ったとのことだった。


太宰の姉、太宰奏は彼の出身地である京都の小さな印刷会社で働く普通の正社員だった。家族持ちのようで、夫は京都線の運転手だという。彼女自身京都でも有名な高校を卒業し大学も出ている。律儀でまじめで、別に彼のように犯罪を起こしたことは勿論ない。


だが事件の参考人として話を聞く必要があるため、捜査本部の与謝野警視に代わって、アイリーンが京都へ飛ぶことにした。

警視総監も、もちろんこれが事件の解決のかなめになることを願いながら。


―――――――


京都府警・会議室にて。

太宰とは全く似ていない、お世辞にも綺麗とは言えない黒髪、痩せ細った体に青白い顔、体が全体的にやつれた女性がアイリーンのいる会議室に入ってきた。


「お座りください」


「は、はい」


泣きそうな顔でソファに腰掛ける。

太宰奏。弟が起こした事件の責任を無理に感じてしまっているのか、ここに来るのも精神的に一苦労といった感じだった。

取り合えず落ち着いてもらって、静かに話していく。アイリーン自身、うまいことはなせるかかなり緊張している。別に日本語が心配なのではなくて、相手からいかに情報を聞き出せるか、新幹線の中ではずっとシュミレーションを行っていた。


「さっそくですが、奏さん。彼がこのような犯行を起こすことに何か心当たりはございますか?」


お茶を出して、一分立ってやっと表情が普通の人間にもどってきたところでアイリーンが話しかける。


「は、はいーーーー。たくさん。

今まで猫や友達の家で飼われていた鳥でさえ殺してたり、同級生に催眠術をかけて暴行を行なっていたなど少年院送りになったことはないですが、大量に問題行為を起こしてきました。

小学生まではまじめな子だったのに。彼が中学生の時に病院でパーソナリティ障害ーーーいわゆるサイコパスという診断を受けたんです。」


いまさらアイリーンは驚かなかった。

サイコパスかーーーこんなに大量の犯罪に関わっている身としてはよく分かっているが、あんな柔和で影を好むような男が猟奇的だとは言い難かった。まぁ、今になりゃ、アイツはただのサイコパスにしか見えないが・・・。


「すみませんが、この履歴書に偽造ーーーいや、間違いはございませんか?」


クリアファイルから一枚の履歴書を出す。

そこには若い頃(二十五歳ぐらい)の太宰暦がいた。

警官になった時に作られたものだ。

奏が履歴書を手に取り、履歴書を眺める


「まずーーー学歴が違います。彼高卒なんてありません。」


「実際はーーー?」


「イエーラ大学心理学部犯罪心理学科に奨学金で勝手に入って、勝手に警官になっています。」


イエーラ大学というのは全世界でもトップに入るほど有名な大学ということは言うまでもないが、アイリーンが一番驚いたのは。イエールというのは


カフカがかつて通っていた大学なのだ。


「イエーラ大学ですって?」


「ええ、親が認知症になったのをいいことに、塾の奨学金を取って外国に飛んだんです。私に置き手紙だけを置いて、私に渡されるはずだった遺産も全て持ち出して・・・・、何の風回しか刑事になったとだけ伝えて、それっきり‥‥、彼が23歳ぐらいだったでしょうか、結婚式の時だけ祝い金だけおいて帰ってしまった時が彼の顔を見た最後の時でしたかね。子供が生まれたとき連絡は入れましたが、『よかったね』とだけ伝えられて、それっきりです・・・。それ以外はよく分かりません。お力になれなく申し訳ございませんでした。」

「そ、そうですか・・・、今回の事件の被害者である江戸川彰について何か聞かされたことは?」

「あ、あの・・・・それが。」


急に爪を噛むといった典型的な動揺の仕方をする。

恐怖からの感情なのか、手足が震えている。


「大丈夫です。奏さんの身に何か起きそうなら、警視庁が全面的にサポートいたしますから。」

「は、はい・・・。その、暦から、

『少しでも警察に俺の事を言ってみろ、お前の夫とガキの四肢を切断するところをしっかりと見せてやる』って・・・・。わたし、怖くてたまらなくて。」


脅迫とはいえあまりにも残酷する内容にアイリーンも動揺より、舌打ちを連打したくなる苛立ちを感じた。

あの警部というのが信じられない、なよなよとした男らしくもない人間がまさかここまでの異常性を持っていたとは、見抜けないのが恥ずかしいな。


「そんなこともありゆると京都県警には話をつけています。ご自宅に警備をかけることになりますが、それでよいですか?」


「はい。お願いいたします。」


そういう太宰の姉の眼はまだ心配が残っていそうだった。


――――――――


ふかした煙草の煙が部屋に漂う。

今までどれだけのウソをついてきたか、それは禁煙と言っていたことも同じか。

ここしばらく自室にこもっているが、左のパソコンの画面に映る地下室の監視カメラはこれと言って問題はなかった。要望した『教育』はかなりまじめにやってもらっているようだ。

昨日の夜も一緒に寝ちゃって・・・、まあ仲良くしてくれたらいいか。さすがに手を出し始めたら制止をかけなくちゃな。だけど、脱獄も注意しなくてはね。

自分自身、アキラさんを置いておきたいだけで、別に何がしたいというわけでもないし。まあ、チェスぐらいならやってもいいけど、電流流すようなことはもうしたくないし、この『独占欲』を抑制するためには一定な距離を取らなくては。

監禁したときには出しゃばりすぎたな。おしゃべりは一番最初に死ぬと、よく言うだろ。


そういえば姉貴の野郎、サツに連絡しやがったな。

学歴も偽造してあるし、ばれただろうな。

まあいい、ここでずっとアキラさんを閉じ込めておくことが出来たら、それでいい。


本当にいつからこうなったんだろ

小学生の時からいろいろな動物を殺して、人から敬遠されて。

自分ではいいことをやってるつもりなのに、親も俺を見捨てた。

ただのサイコパス、異常者だと。

あの時、両親が心配してくれて療養してくれればこんなことにはならなかったかもしれないのに。

中学生になったときには心理学に興味を持って催眠術とか洗脳の練習をして、それで同級生などを暴行して自分の中にあった『独占欲』を洗い流していた。

声変りをした後、自分の声帯が人より何倍も優秀で、多重人格ともいえる声の種類があったことに気付き、それも利用した。

たくさんの声優などから一番魅了できる声を自分で調整して、まるでそれが地声であるかのようにするなんて朝飯前だった。


でも、それでも『独占欲』は満たされなかった。

だけどアキラさんを見た時。この人が、俺を救ってくれるんだということを知った。

作ってもいない完ぺきなルックス、声も俺と違って調整していないのに綺麗で、美しくて。

仕事に対する姿勢も誰一人としてまねできなくて、違法捜査ですら被害者の為や尊敬する人(樋口警視総監)のためには否わないのも、なんていうか・・・・・。


『独り占め』したくなった。

そう、それだけだ。


何処にも逃がしませんから、何事からも守りますから。

別にいいんです。

この身が滅びようとも。


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