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リップサービスは言霊で。


「ということで俺は刑事になった。俺が道を間違わなかったのも警視総監のおかげ。あの人には感謝しても仕切れない。それに、この手の犯罪は元からかなり憎んでいた。だからこの部署も、こうゆう欲望だけで人の人生を壊すくそみてえな連中を取り締まるために選んだんだ。

警視総監には偽の噂を流せと言われたから適当に話作ってそれを真実として突き通してきた。

ちなみに、これを知るのは警視総監が信頼を置く人とお前と俺だけだからな。」


一通り話終わって、紅茶を啜る。

母さんが死んだのは思い出したくもないが、その後、警視総監に救われたのは俺の人生の中で一番驚愕して失望して嬉しかった瞬間だった。警視総監も気を扱ってくれて、一年のあっという間だったがかなり厳しかった訓練の後は本当に裏口で警視庁に入社させてもらい、まさかの巡査部長からだった。


「―---そういうことがあったんだ。その…拷問を許可されたのも。」


「警視総監が俺の実力を最大限に出すためだと、そもそも樋口の血筋が強いからな、政治的にも。俺が裏口では入れたのも、こんなに早く警部になれたのも全て警視総監のおかげだ。

俺が金に困ってた時は返さなくてもいいからって補助してくれたんだぜ?普通有り得ないだろ。

本当に立派なお方だ。


まあ何が言いたいかというと、俺だって、本質は太宰と似ているのかもしれないといことだ。」


重い話になって、それと同じように空気も悪くなっていた。

あぐりも自分の想いが裏切られて、たぶんこれで嫌われただろと思ったが、彼女もやはり()()()()()()()()()()()()()


「太宰とアキラは全く似てないよ。アキラはお母さまの復讐のためにやったことでしょう?

だけど太宰は自分の優越感とか満悦感を満たすために殺しをしてるから、アキラとは根本から違う。」


「ーーーーありがとう。」


――――――――


時刻は九時を過ぎた。あんな重い空気もすぐに吹き飛んで、俺も風呂を入り終わり、手錠を取って、目の包帯を替え、

今は彼女が寝るようせかしている最中である。

ソファにじっといて、俺と一緒に寝たいなんぞ意味の分からない要望をしてくるのに対して、無理やり持ち上げて、ベッドに寝かせる。


「アキラが一緒に寝るっていうまで私、絶対寝ないから!」


「だめだ、ガキは寝ろ。せいぜい寝落ちするまでここにいてやるから。」


「いやだよ、それにアキラは何処で寝るのよ。」


「別にソファでいいよ、はい説明は終わったので若いのはさっさと寝ろ。俺みたいに勉強で夜更かししすぎたせいか身長が160で止まるようなことがお前の身にも起きて欲しいのか。」


いやいや言っているが、意地でも寝かすため毛布を掛ける。

中ですねているのか、「アキラのばか~」などそっちがバカだよと突っ込みたくなるようなことを言っていた。

でもこれ以上うるさくなるのも面倒だと思ったので、頭を一つ撫でてあげることはした。

「なんでそんなことするの?」と聞いてきたので一言リップサービスとだけ伝えておいた。


「り、リップサービスって何よ?」

「社交辞令さ。知らない?」

「ち、違うよ、意味は分かるけど、頭撫でるんじゃなくて、ふ、普通は、き、キスとかそういうもんじゃないの?」

「頭撫でるだけじゃ物足りないか?じゃあ本物のキスというものを伝授してやろうか?これでも高校時代はかなりモテたんだぞ。全員ふったけど。」

「さ、サイテー!この!」

「はいはい、嫌みはいいから早く寝ろ。」

「もおーーーー!」

「おちょくってんのかこのバカ。」


軽く彼女にデコピンをかまして、いてっ!と言っている間に電気を消す。

俺も一日中頭を使ってかなり疲れたから、体が休息を取ることを要求していた。

太宰にさっきもらった英語の本(持参)でも寝る前に読もうと思ったが、さすがに眠たい。予備として置いてあったシーツを自分にかけて目を閉じる。

朝一番に電流流されて、あぐりと一緒に生活すると決めて、いつかぶりの勉強をやって、自分の過去について話して。かなり破天荒な一日だったが、あまり悪くなかったな。

まあ、電流の話は別として。あぐりと過ごせてちょっと嬉しかった。


もうあと少しで眠りに落ちるときだった。

後ろのベッドから声が聞こえた。


「あきらぁ・・・ひとりはいやだ。」


たった一言の寝言。

可愛らしい寝顔にそっと輝いた涙が頬に落ちていた。


ああ、そうだった。

彼女はいつも一人だったんだ。なのに俺はその子の手を無理矢理振ってしまった。

立場で言えば刑事と犯人というつなぎたくともつなげれない関係なのに、今はなぜかそんな肩書も消えてしまって。すごく淡いものになってしまった。

あぐりもその質問だけはしてこないのもよく分かる。

『脱獄に有効だから、利用したいから』。はじめはそんな理由だったのに、なんで今。


―――――こんなにも好意を感じてしまっているのか。


あぐり自身も心の中で俺を使ってここを抜け出してしまいたいと言葉にしないだけで思っているかもしれない。だけど、勉強する時とか一緒に食事するときとか、なにか二人で行動している時は。少しでもあぐりも好意を寄せてしまってくれてるんじゃないかと願いたい。


「泣くのは、反則じゃねえのか。」


小さなシングルベッドの二分の一ぐらいでしか寝ていない彼女の手をそっと握り、一回だけのつもりだけど、同じ毛布で寝てやった。包帯がまかれた何十個のあざを癒すように撫でる。

彼女の肌のぬくもりが簡単に通じ合う。可愛らしい顔立ちが彼女がただの殺しの為の人形なんかじゃないことを物語っている。

少し濡れた彼女の髪に触れて、自分の心臓の音なのかあぐりの心臓の音なのかわからなくなってきた。


「おやすみ、あぐり。」


彼女の手を握ったまま、俺もいつのまにか寝てしまっていた。




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