「勝って叶えろ」
双子には、元魔族に対する意識の差が一つ明確にある。
言うなればそれは、〝加虐性〟。
よほどの悪行や腐った性根を目の当たりにしない限り、いくら元魔族とはいえフェアトが必要以上に相手を嬲るような事はなく、できるだけ一瞬で終わらせてやろうとしてきた。
尤も、それは元魔族に限った話ではなかったようだが。
そして一方のスタークはと言えば、たとえ己に対する敵意や殺意がなかったとしても、『かつて世界の敵だった』という事実だけで必要以上に苦しめて斃そうとする傾向にあり。
これを〝かつての世界の敵を討つ者〟の行いとして見れば大目に見れるかもしれないが、〝勇者と聖女の娘〟という世界きっての崇高な肩書きを持って生まれた存在の行いとして見た時、果たして〝正義〟を名乗れるのだろうか? ──と。
……フェアトなら、そう考えていた可能性もある。
しかし、スタークの中にそんな考えは浮かび得ない。
彼女は別に、己を正義だとは思っていないのだから──。
「──見逃せ、だ……? 馬鹿言ってんじゃねぇぞコラ」
「えぇ、そうでしょうね。 でも私は、もう……」
そして今、正体を看破されたが為に互いがどのような関係にあるのかも分かっている状態にありながら『見逃せ』などという惚けた懇願をするケイトリンにスタークは爆発寸前。
ともすれば今にも突っ込んでいきそうな空気を纏っているもののケイトリンは怯む様子もなく、『もう二度と世界に牙剥くつもりはない』と言わんばかりの冷静な態度を見せる。
もちろん実際のところは彼女自身にしか分からないし、フェアトなら最後まで彼女の主張に耳を傾けたかもしれない。
だが、ケイトリンの目の前に立つのは【無敵の矛】。
元魔族に対する配慮など一切ない暴虐の権化。
「あたしは頭悪ぃから、テメェが何を企んでんのかなんざ欠片も分からねぇし理解してやるつもりもねぇ。 だが一つだけハッキリしてる事もある、テメェの望みを叶えたきゃ──」
それを誰より自覚しているスタークは矛状態のパイクをブンブンと片手で振り回した後、矛先を目の前の美女へ向け。
「──あたしに勝って叶えろよ、やれるモンならな」
「……ッ!!」
勝った方の総取りだ、と魔闘技祭らしい挑発で応え。
それを受けたケイトリンが全身に纏う炎が微かに揺れる。
見逃してもらう?
本当にそれでいいのか?
相手はお前を前世で殺した勇者と聖女の娘なのに?
そんな葛藤を表現するかのように。
そして僅か数秒後、覚悟を決めたケイトリンが顔を上げ。
「……やってやろうじゃないの。 さぁ、出番よ」
そう告げた瞬間、浮遊する卵に『ピキッ』とヒビが入り。
『……クケケッ』
ヒビの内側から、何者かがスタークを見つめていた。
今にも殻を割って喰らいつかんとする、捕食者の眼で。




