499 挑発
フィール視点です。
「起きてすぐでそれだけ元気なら、問題なさそうね。フェルル、魔物狩りに行くわよ」
「は? 急に言ってんだ?」
「だから、魔物狩り」
「誰が行くかっ! 俺はお前の言う通りになんて、絶対に動かないからな!」
アキナ様は突然、フェルルに魔物狩りに行くようにと仰られた。
口調は淡々としていて、冷たい感じがする……
来たばかりで私達とも全く馴染めていないフェルルを魔物狩りに行かせるなんて、私達の知るアキナ様からは考えられない行動だ。
皆もかなり驚いている。
これではフェルルにも、食材調達ではなく、奴隷に魔物を駆らせる人類種達の娯楽だと思われてしまうだろう。
"行ってきて"ではなく、"行くわよ"と仰られているので、アキナ様もフェルルと一緒に行かれるおつもりなんだろうけど、それはフェルルには分からないから……
「そんなに行きたくないならいいわ。ミララと行くから」
「はぁ? ふざけるなっ!」
「私はふざけてなんかいないわ。さ、ミララ。行くわよ」
「あ、えっと……は、はい……」
アキナ様は、フェルルが魔物狩りに行かないのならミララと行くと仰って、ミララの手を引いて歩きだされた。
ミララは少し戸惑いながらも、拒否する事なく共に行こうとしてくれている。
魔物狩りにフェルルと行こうとされていたのは、フェルルの事を見ておきたいからだと思ったけど、共に行くのはミララでもいいんだろうか?
……と、私が考えていると、
「待て! ミララは魔物狩りなんてした事ないんだ! 連れていくなっ!」
と、フェルルが叫んだ……
その声に振り返られたアキナ様は、
「だって、フェルルは来たくないんでしょ? じゃあミララと行くしかないじゃない」
という、まるでフェルルを挑発するかのような事を仰られた……
「くそっ! ふざけやがって……」
「だからふざけてなんていないって。で、どうするの? フェルルが行くの? ミララが行くの?」
「…………俺が行く」
「そう」
ミララを連れていくなんて事を言えば、フェルルは怒るに決まっている。
そうして絶対にフェルルが魔物狩りに行かざるを得ない状況にされたんだ。
やっぱりフェルルには、アキナ様がずっと見ておかないといけない何かがあるんだろうか……
「俺が行くんだからミララを離せっ!」
フェルルはミララからアキナ様を離れさせるように、乱暴に手を振った。
アキナ様はミララから手を離し、後方へ跳ねるようにして避けられたので、フェルルの手はただの空振りとなったけど、当たっていたらどうするつもりだったんだろう?
アキナ様を人類種の貴族の子供だと思っているはずなのに、そのアキナ様に怪我を負わせる事を恐れないだなんて……
「じゃあすぐに行くから。フェルル、準備して」
「準備って……」
「フィー、フェルルの準備を手伝ってあげて」
「かしこまりました。フェルル、ついてきて」
「くっ……ミララ、ごめんな。俺はちょっと行ってくるよ……」
「うん……気を、つけてね……」
「俺がいない間に何かされるかもしれないけど、なんとか耐えてくれ……絶対に守るからな」
「……うん」
フェルルがミララに小声で話しているのが聞こえた……
もしかして、フェルルはまだアキナ様をただの人類種の子供だと思っているだろうか?
対象を拘束して紅血奴隷印を刻む事が出来るだけの魔術師だという事を分かっていないのか?
いやでも、アキナ様は倒れられていたからな……
何らかの方法で高等魔法を使えるけど、その反動で倒れる子供という認識なのかもしれない。
本邸内は静かだったし、これだけ騒いでも誰も出てこない以上、人類種がアキナ様だけなのは分かるはずだ。
だからアキナ様の事を、親の留守中に奴隷を使って生活している子供だと思っている可能性はあるな……
そうだとしたら、親のいない今のうちに殺そうと考えるのはわかる。
ここが島だという事もフェルルには説明していないし、アキナ様さえ殺す事ができれば、逃げられると思っているんだろう。
それにしても無謀な考えだ……
もしアキナ様が本当に最悪な人類種だったら、これだけの事をしたフェルルには惨い罰を与えているだろうし、ミララだって無事では済まないだろうに……
紅血奴隷印の事にそんなに詳しくないのだとしたら、どんな命令でも逆らえないという事も知らないだろうし……
「おいっ! 準備に行くんだろっ!」
「え? あ……そうね。ごめんね、行きましょうか」
「お、おう……」
考えていたらフェルルに声をかけられてしまった。
ただでさえ敵と思われてしまっているんだし、あまり刺激しないようにしないと……
フェルルと一緒に、倉庫として使用することにした部屋まできた。
誰も使わない武器や、まだ売っていない魔物の素材等が置かれている。
「フェルルは魔物と戦えるのよね?」
「あぁ……」
「好きな武器を使っていいわ」
「ふーん……なら、これにするっ!」
キンッ!
「試し斬りなら、もう少し広いところでやりましょうか」
「……ちっ」
剣を選んですぐ、フェルルは私に斬りかかってきた。
まぁくるだろうとは思っていたので、いつも腰につけている短剣で受け流しておいたけど……
フェルルもそう簡単にやれるとは思っていなかったようで、舌打ちだけして倉庫の部屋からは出ていってしまった……
こんな様子では先が思いやられるな……
でも今の剣の振りはかなり速かったし、迷いのない攻撃だった。
いきなりの魔物狩りなんて大丈夫かと心配していたけど、その心配は必要なさそうだ。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




