497 珠玉
フィール視点です。
アキナ様の呟きから、アキナ様はフェルルの事を気にかけておられるという事が分かった。
今買い物に来たのも、フェルルが起きるまでに出かける用事を済ませておきたかったからなんだろう。
フェルルとミララに≪スリープ≫をかけておくようにと指示されたのも、最初から後で買い物に行く予定だったからなのかもしれない……
≪スリープ≫は眠りを誘う毒のようなものだけど、その毒には効果時間がある。
効果がきれれば無理やりに眠らさせられるという状態ではなくなるけど、普通はそのまま眠りへと繋がるものだ。
だから本来ならそうそう起きてはこない。
でもフェルルは魘されていた。
あんな状態では眠れないだろうし、≪スリープ≫の効果がきれたところで起きてしまうだろう。
そろそろフェルルが起きるかもしれないと心配されていたという事は、アキナ様もフェルルが魘されていたのをご存知だという事だ。
出かけられる前にでも、2人の様子を確認されていたんだろうか?
私達はミララが酷く魘されていたからと、ミララを起こしてしまったけど、アキナ様はその事に対して特に何も仰られなかった。
きっとあれは、ミララだったから問題なかったんだ。
フェルルがもっと魘されていたら、私達はフェルルの事も起こしてしまっていたかもしれないけど、もしそうしてアキナ様のおられないところでフェルルを起こしてしまっていたら、どうなっていたのだろう……?
「フィー、どうしたの? 帰るわよ」
「あ、はい。≪テレポート≫」
少し考えていたら、アキナ様に声をかけられてしまった。
たらればの事を考えていてもしょうがないし、今はこの現状について考えていないといけない。
そうじゃないと、何かあった時に気付くのが遅れてしまうだろうから……
拠点へと帰ってくると、日光浴をしているミララの周りには、リーナとミーテとジェニがいた。
ミララと話をしていたみたいだ。
出かける前に見たときはただの丸太だったけど、今はクッションや膝掛けといったものも置いてあり、ミララが快適に日光浴が出来るようにと気遣ってくれていた事がよく分かる。
「あ、おかえりなさいませ」
「ただいま」
「さっき送られて来た樽は、私がそこに運んでおきましたー」
「そう、ありがとう」
私達が帰って来た事に気付いたリーナ達が声をかけてくれた。
ミララもこっちを向いて、かるく頭を下げて迎えてくれている。
「その樽、なんだったんですか?」
「オラジールジュースよ。皆の好きな時に飲んでいいからね」
「わぁ! ありがとうございます!」
「オラジールジュース?」
「オラジールって、アキナ様が飲まれてる紅茶に入ってるやつですよね? 野菜か何かだったんですか?」
「オラジールは果物よ」
「果物?」
「果物というのは、木になる食べられる実の事よ。ついでにいうと、野菜は食べられる草の事ね」
「なるほど~」
リーナとミーテは、そもそも果物というものを知らなかったみたいだ。
ずっと海の中の街で暮らしていたので、地上の事を知る機会がなかったんだろうな……
「野菜は苦いものばかりだけど、果物は甘くて美味しいの。ただ木に実がなるまでに時間がかかるし、栄養価も野菜程は高くないわ」
「そうなんですね」
アキナ様の説明を聞いていたミララが、また少し俯いた……
野菜は苦いものだとか、木が育つのには時間がかかるという話だったし、今までに無理やりに植物を育てさせられて来た事とかを思い出してしまったんだろうか……?
妖精種は、植物に成長を促す事が出来る、"祈り"という力を使う事が出来る種族だ。
それは、例え成長に時間がかかる樹木であろうとも、1日で大木に出来てしまう程の力だと言われている。
その上、妖精種が祈りを使用して育てたものは珠玉の美味しさになるというのだから、妖精種は人類種に利用されてしまうんだ……
「さて、じゃあ休憩にしましょうか。皆にコップを持って来るように伝えて来て」
「かしこまりましたー!」
「行ってきまーす!」
ジェニが地霊種の集落の方へ、ミーテが溟海種の街の方へと皆を呼びに行ってくれた。
私達は一足先にと、私が≪アポート≫したコップでオラジールジュースを飲ませてもらう。
「おー! 凄く甘いですね! 美味しいです!」
「それは良かったわ。ミララはどう? 飲める?」
「……はい、美味しいです」
「コップ貸して……はい、おかわり」
「ありがとう、ございます……」
アキナ様がミララのコップに2杯目のオラジールジュースを注いであげておられる。
ミララは、ご主人様であるアキナ様に注いでもらってしまった事に少し動揺しているみたいだけど、怖がっている様子はないし、ちゃんと2杯目も受け取ってくれている。
アキナ様の冷たい雰囲気もなくなったように感じるし、特に心配する必要はなさそうだ。
私達が飲んでいたところに、続々と皆が集まってきた。
溟海種達にとって初めてとなるオラジールジュースを、本当に嬉しそうに飲んでくれており、その様子にアキナ様も安心されたようで、皆の笑顔を見ながら笑われている。
そんな穏やかな時間を過ごしていたところに、
「うるさいっ! ミララをどこへ連れていった!? ミララに何かしてたら許さないからなっ!」
という、フェルルの怒鳴り声が聞こえてきた……
フェルルが起きたみたいだ。
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